テラーノベル
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ユーハンは竹林に両手両足を縛られた状態で放置されていた。裁判にかけられることが分かった時から死刑は免れないと察していたが即死できない方法…虎に食わせて殺すという残虐な方法で殺されることになるとは思っていなかった。
ユーハンは後ろ手に縛られた腕をもぞもぞと動かして袖から小刀を取り出して縄を切った。
着の身着のまま拘束されたことだけが救いか。手足が自由になってからユーハンは考える。ここに居たら確実にいつか虎に食われる。でも東に逃げればサルディス家の関係者に接触する可能性が高い、南に逃げたら確か断崖絶壁に行きついてしまう。となると目指すは中央の大地か西の大地。ユーハンは影の位置と太陽の高さで大体の現在地と方角を確認すると西に向かって歩き始めた。
見た目は人間だとしても、ユーハンには獣人の血も混じっている。だから普通の人間よりは嗅覚も聴覚も優れている。近くから獣の足音がしないか慎重に確認しながらとにかく西に。
歩いて歩いて喉が渇いたら竹を小刀で切って中に入っている水を飲んだ。
いつの間にか月明りの光しか頼れなくなって、とにかくまっすぐ西に向かっているはずなのに同じところをぐるぐると回っているような感覚に陥る。それでもユーハンは足を止めなかった。まだ生きられるなら生きたいし、村ごと処分されて量産施設に入れられることになる母親や厳しくも優しく母親を守り続けていた父親のことが心配だった。助けに行けるのであれば助けたい。貧しいながらも幸せな生活をさせてくれた村の皆のことだって心配だ。人間も獣人も混血も受け入れて優しくしてくれた人たちが奴隷のように働かされたり子供を産む道具にされたりするのは許せない。そもそも軍が壊滅したのはユーハンだけの責任だ。何もしていない村の人たちまでも巻き込むと決めたフブキに怒りが募る。恐らく人間の血を引く子供が欲しかったのだろう。だからユーハンの大失態を口実に人間を更に囲い込むことにしたのだろう。絶対に生き延びて被害に遭った人間と混血を助けなくてはいけない。ユーハンはそれだけを希望にただただ足を動かした。
一方執事達はユーハンが捨てられた場所を大体特定して恐らく西に向かって移動するだろうと考え竹林の途切れる川の近くに馬車を停めた。
「目印になるように狼煙を上げるか?」
「それがいいかもね。じゃあ木の枝とか拾ってこようか」
シロの提案に賛同した執事達は木の枝を集めて大きな焚火を作った。
完成した焚火を見てバスティンがぐう~と腹を鳴らした。
「…魚を釣って焼いていいか?」
バスティンのぶれない食欲に執事達は頬を緩めて、ゆっくり食事もできる状況ではなかったのでマトモなものを腹に入れていないことを思い出した。
「釣りの道具が馬車の荷物入れの中に入れっぱなしだった気がするな」
ミヤジがそう言って馬車の荷物入れを開けると奥に仕舞い込まれていた釣り道具一式を見つけて使えそうか確認する。
「糸さえあれば木の枝に結び付けて簡単な釣竿を作れるんだがな…」
バスティンが燃やすために集めてきた枝を持ってそんなことを言い出した。
「糸かい?えーっと…3本分くらいはあるかな?」
ミヤジが予備の糸を取り出してバスティンに渡す。バスティンは早速枝に糸をつけて釣竿を作って疑似餌を木彫りで作って川に投げ込んだ。
釣れた魚はロノが串に刺して焚火で焼いていく。ハウレスは焼き魚など絶対に食べられないと分かっていたので皆が持っていたお菓子や飴を分けてやった。
主は先に食べてていいと言われたので串刺しになっている魚に齧り付いた。うん、ほどよく塩が効いていて美味しい。
全員分の魚が釣れて焼いていると、竹林からユーハンが出てきてこちらに向かってくる足音をラトが捉えた。
「主様、混血の人間さんがこちらに向かってきているようですよ。虎さんはあまりお腹が空いていなかったようですね。嬉しいですか?」
『ユーハンさんが仲間になってくれたら天使狩りがもっと楽になるだろうし、私は嬉しいよ。混血だとしても人間みたいな見た目の人ってなかなか居ない訳だし…』
そう言うとラトはくふふ、と笑ってその辺に自生していたルカスが食べられると断言した草を食む。
「主様が嬉しいのであれば私も嬉しいです。でもこの草は美味しくないですね。早く屋敷に帰ってパセリが食べたいです」
自由人なラトに皆が苦笑いしつつ、ユーハンはこの火に向かって歩いてきてくれているならば、仲間に引き入れ悪魔執事にすることも出来るかもしれないと執事達は考えていた。
混血の中でも魔力量が多く、自分以外の身体能力を上げられるという力があると言っていたので是非悪魔執事として戦いに参加してほしいと思っていた。
ユーハンが竹林から何とか出ると、川の向こう側に火の明かりが見えた。こんなところでキャンプを楽しんでいるだなんてことはないだろうし、サルディス家の刺客が居るとしたら火など焚かず隠密活動をするだろう。残る可能性は裁判でユーハンの無実を訴えてくれた悪魔執事達だろうか?ユーハンは火の明かりに向かって川沿いを歩いて行った。
「ほら、来ましたよ主様」
#クロスオーバー注意
ぷち
179
ラトがニコニコしながら主にユーハンが来たと報告する。
主はその言葉を聞いて立ち上がり、ユーハンが怪我をしていないかと心配になって必死で暗がりの中から人影を探した。
川の向こう側にユーハンが居ると見つけた主は手をぶんぶんと振ってこちらに来るように促す。
ユーハンは少し考えてから服を脱ぎ捨てて川に飛び込んだ。
バシャバシャと水が動く音がしてユーハンは執事達が集まっている川岸に上がって髪の毛を絞りながら声をかける。
「悪魔執事の皆さん…一体どうしてこんな所に?裁判が終わった後すぐに帰ったと聞きましたが…」
『折角お友達になれた人を失うのが嫌だったから私が我儘言って助けに来たんです』
「悪魔執事の主…貴女は本当にお人好しですね。人間の見た目とはいえ混血ですよ?」
『それでも助けたかったし、友達で居たかったんです』
その言葉を聞いてユーハンはやっと少し緊張がほぐれたようだった。
「では私は助けに来ていただいた恩に報いるために貴女にお仕えします。これでも戦闘能力は高いですし魔力で身体強化をすることもできます。必ずお役に立つとお約束いたします」
ユーハンは深々と皆に頭を下げて感謝の気持ちを表した。
馬車と馬に乗って屋敷に戻る道中で執事達はユーハンに悪魔との契約を提案した。
悪魔執事になったばかりのテディ、ハナマル、シロ、2千年眠り続けてようやく起こしてもらったため新人扱いされがちなベレンが特に強く契約を勧めていた。
「獣人は悪魔の魔力を借りて天使狩りを行っているのですね。通りでグロバナー家の所有する人間の数が少ないのですね。悪魔の魔力も使えるようになるのでしたら私の使える魔力が増えるということになるのでしょうか?それでしたら是非契約をしたいです。少しでも皆さんの力になれるように…」
屋敷に着いた後、ユーハンは別邸に配属され悪魔との契約の儀式を始めた。儀式が終わっても悪魔の力を使いこなせるようになるには数カ月はかかるので、その間は仕事はなしで訓練に参加して力のコントロールを学ぶように言いつけられ、ユーハンは少々申し訳なさそうにしていた。
瞑想室で行っていた儀式が終わって部屋から出ると、ユーハンはものすごい立ち眩みに襲われてその場に座り込んでしまった。儀式が終わるのを待っていた執事達によってすぐに治療室に運び込まれたユーハンはまるで死体のように血の気が引いていて、このままでは危ないのではないかと心配されていた。
ルカスが血液検査を行いながらユーハンの看病にあたり、他の執事達は別邸に増やすベッドを作ったりユーハンが使う食器などを買い揃えたり魔道服のデザインをどうするか必死で考えたりして皆ユーハンの為に行動をしてくれた。
血液検査の結果、悪魔との契約によって獣人の血が急に覚醒して心身にかなりの負荷がかかっていると分かった。
「このまましばらく安静にするのが良さそうですね。無理に起こしたりせず、目が覚めるのを待ちましょう」
ルカスにそう報告されて主は心配そうに頷いた。
それからおよそ1週間後。ユーハンが目を覚まし、改めて挨拶がしたいと言っていることを聞いて主は嬉しそうに何度も頷いた。これで正式に悪魔執事になったのだ。これからきっと戦闘でも役に立ってくれるだろうし、魔力の上手なコントロールの仕方も教えてもらえる。主はユーハンが来るまでソファに座って足をぶらぶらと揺らし、待ちきれない気持ちで数分間過ごした。
コンコンコン、とノックの音がして「失礼いたします」とユーハンの声が聞こえて扉が開いた。そこに立っていたのは黒と赤の髪に黒い犬の耳と白黒のくるんと丸まった尻尾が生えたユーハンだった。
『え!?な…え!?』
主は信じられないものを見ている気がして何度もユーハンの耳と尻尾を確認した。
「ふふ、驚かせてしまって申し訳ございません。悪魔と契約するのは獣人でないといけないようで、今まで表に出ていなかった獣人の特徴が引き出されたようです。体の変化で熱や倦怠感が抜けずご挨拶に伺えず申し訳ありませんでした」
『え…いえ…それはいいんですけど…ユーハンさんは耳と尻尾が生えて何か不都合なこととか慣れないこととかありませんか?大丈夫ですか?』
「主様、私に敬語なんてもう必要ありません。友人と仰ってくれていましたし、今の私は主様にお仕えする1人の執事…どうぞ呼び捨てで楽な喋り方をされてください。…そうですね、不都合な点ですか…感情で尻尾が勝手に揺れたり丸まったりすることでしょうか?訓練すれば自由に動かせるようになると言われましたが感覚を掴むのに苦労しているところです。急に体に生えてきたものですから扱いが難しくて…それに顔に出さない感情を尻尾が勝手に表すので、これでは主様にお仕えしていることの喜びや天使に対する恐怖心なども丸分かりです。どうにかして自分の意志で動かせるようになるまで訓練は欠かせませんね」
『そうなんだ…でも無理しないでね。感情をコントロールするのって結構大変じゃない?あ、でもユーハンは魔力を使いこなせてたからその辺は器用にできそうな気もするなぁ…
あのね、私もっと魔力を上手に使いこなせるようになりたいの。怪我や体力を回復させられるっていう能力だから魔力を与える範囲を狭くしたり、もっと広範囲に使えるようになったりしたいんだ。ユーハンは軍に居た時、部下全員に魔力を分けていたでしょう?そのやり方を知りたいの!』
ユーハンは尻尾を揺らして嬉しそうに微笑んだ。
「私の得意分野ですから丁寧に教えて差し上げます。私も今までよりもかなり使える魔力が増えたようですのでコントロールを覚えるためにも主様と特訓するのは魅力的です」
『本当!?やった!』
それから数カ月、ユーハンと主は毎日の体力作りから瞑想をして、お互いの能力の届く範囲を調べ、小さな傷を癒すための最小限の魔力量を計算し、実戦で使えるように訓練を重ねた。
そしてある日、外の眩しさで目覚めた主がカーテンを開くとそこには数えきれないほどの天使達と3体の知能天使が屋敷を包囲している様子が見えた。
早く皆に知らせないと!そう焦って主は寝間着のまま一番近い2階の執事室の扉をどんどんと叩いて危険を知らせるのだった…
コメント
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おお、ついにユーハンが獣人の血に目覚めて耳と尻尾が生えたか…!あのクールな印象から一転、感情が尻尾に出ちゃうギャップがめちゃくちゃ可愛いな。主との訓練シーンもほっこりしたし、助け合って絆を深めてる感じが良い。そしてラストの天使包囲!次が気になりすぎるわ…