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「尊さんだったら、隠さないで堂々と仁王立ちしてそう。両手は腰に」
「神話になった変態かよ……」
「ゼウスとかに星にされてそうですね」
「ヤメロ……」
そんな会話をして歩いていたら、すれ違った女性二人組に「美男美女」とボソッと言われてしまった。
「……んふふ……」
「喜ぶな」
少し俯いて帽子の陰でニヤついていると、尊さんがクスクス笑う。
「手厳しいミコですね。私の事、可愛くないんですか?」
「可愛いに決まってんだろ」
「にゅっ」
からかうように言うと、尊さんは片手で私の頬を掴んできてタコの口になってしまう。
「にゅー」
私は頬を掴まれたまま、ハンディファンの風を尊さんに送る。
「コラコラ。いいから、自分に風送っとけ。暑いだろ。俺は自分の持ってるから」
尊さんは手を放すと私に風を向け、また手を握って歩き出す。
やがて私たちは目的のカフェに着き、看板はアルファベットだけれど、木製の歴史深そうな店構えを写真に撮る。
内装は白とウッド調で整えられている印象で、スッキリナチュラルな感じだ。
「いい匂い」
私はお店の中に充満するコーヒーのいい香りに鼻をヒクつかせる。
オーダーはスタバに似た感じで、カウンターで注文してからできあがった物を席に持っていくスタイルだ。
尊さんが気にしていたコーヒー豆は一番と二番があり、それぞれブラジルとタンザニア、コロンビアとブラジルとグァテマラのブレンドらしい。
どうやら大手ECサイトでも売っているみたいだけど、尊さんは旅のお供に買いたいらしい。
尊さんはアイスコーヒーを頼み、私はコーヒーサンデーを頼んだ。
商品を小さな木製のトレーに載せた私たちは、空いている席に座っていざ実食する。
オリジナルロゴの入ったプラスチックカップには、底にエスプレッソの入ったコーヒーゼリーがあり、その上にソフトクリーム、上に載っているトッピングはわらび餅だ。
「んー!」
ソフトクリームはあっさりしているけれど濃厚だ。
ちなみにソフトクリーム単体も売っていて、形は丸形。最近のソフトクリームは色んな形があるけれど、丸形のほうが角がなくて溶けにくいらしい。
あと、丸っこくてお洒落とか可愛いとかで、女子人気の高いイメージがある。
でもオーソドックスな星形のほうが、綺麗に巻けるみたいだ。
待っているお客さんもいるのであっという間に完食し、コーヒー豆も買ってお店を出たあと、本腰を入れてお土産探しを始めた。
先ほどはまだ用事があったので買い食いに控えておいたけど、『紅葉堂』さんで揚げもみじの揚げたてキットを買う事にした。
「えーと……、私と尊さんとで十個入り一箱でしょ。恵と涼さんの所にも、実家にも……」
私はブツブツ言いながら箱を抱えていく。
「涼には気を遣わなくていいよ」
「恵に食べさせてあげたいんです。私ばっかり美味しい思いをして悪いから」
「……いや、彼女は彼女で、美味いもん食ってると思うけど……」
ぼやいた尊さんの言葉を無視し、私は箱を抱えて「お願いします」と店員さんに声を掛ける。
けれどスッと尊さんが出たかと思うと、サクッとカードでお会計してくれた。
「……ありがとうございます。自分のお土産だからいいのに」
「朱里の小遣いは、もっと私的な事に使ったら? ご家族も含めて世話になってる人へのお土産なら、俺も関わってると言っていいし、それぐらい出すよ」
「……なんか、すみません」
「いいって。気にすんな。それより思い残しがないように、気になるもんがあったらジャンジャン買えよ」
「太っ腹~!」
「フー!」とはやし立てると、ボソッと囁かれる。
「あとで体で返してもらうからな」
「!」
目をまん丸にして驚くと、尊さんは横を向いてクツクツ笑った。
そのあと、色鮮やかで映えそうなので『風籟堂』さんの紅葉バターサンドや、『喫茶しま』にある神様のお使い、神鹿を象った〝子宝バンビクッキー〟が可愛いので、女子陣へのお土産にした。
『藤い屋』さんではギモーヴでレモン羹を挟んでいる〝淡雪花〟と、験担ぎをして〝杓子せんべい〟も、自分用に買った。
他にも『やまだ屋』さんの餡子を包んだお菓子〝桐葉菓〟、『廣島カレーパン研究所』さんの牡蠣カレーパンを始め、色んな種類のカレーパンを片っ端から買った。
「……マジで食えるのか?」
「食います。ペロリです。尊さんにもあげますから安心して!」
「いや、そっちの心配じゃなくて……」
「私のお腹の心配はしないでください。こう見えて鍛えていますので……」
軽く片手を挙げると、尊さんは「おう……」となんとも言えない表情で頷いた。
そのあともご当地ビールや牡蠣のおせんべい、もはや自分用なのか、お土産用なのか分からないもみじ饅頭を買い込んでから、思い残す事なくフェリーに乗った。
「重くないです? 持ちますって」
尊さんはフェリーを降りてから駐車場まで、腕に筋肉の線を浮かべて両腕に荷物を持っている。
「いいって。ビールや瓶ものも入ってるし、朱里にはキツい」
そう言って彼はスタスタと歩いて駐車場まで行き、どうやらスマートキーという奴で、近づいただけでロックが開いた車のトランクに荷物を置いた。
「お疲れ様です」
私は彼の両手を握り、掌にある赤い食い込み痕をさする。
「いいからいいから。これ、岩国飛行場にある宅配受付で、東京まで送ってもらう」
「そうですね。それが一番楽かも」
私は頷きつつも、「今回もまた沢山お金を使わせてしまったな……」と反省する。
尊さんはエンジンをかけてクーラーを浴びつつ、ペットボトルの水をゴクゴク飲む。
彼が歩いている間、先に行ってもらって自動販売機で二人分の水を買ったのだ。
「サンキュ、生き返った」
「どういたしまして」
車が走り出したあと、私はぼんやりと「食べ物ばっかり買っちゃった」と考える。
スタバのご当地カップや、可愛いチャームや御利益のありそうな物が沢山あったのに、結局〝残る物〟は買わなかった。
尊さんには『もう大丈夫』と言ったけれど、無意識に広島に来た〝理由〟を思うと、手元に残る物を買いたくなかったのかもしれない。
広島も宮島も何も悪くない。
ただ、私の心の問題だ。
(次に訪れた時は、何か買おう)
そう思いながら、私は助手席のシートに身を預け、小さく息を吐いた。
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コメント
1件
うん!😆今回は「残らない」食べ物を選んで正解だと思うよ〜👍