テラーノベル
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#オリジナル
芽花林檎
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月夜風 はるか
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「ありました。黄色いライオン!」
聞こえてきた藍の声に、壮太はスマホを落しそうになった。黄色いライオンをどこで見つけたのかを話す藍の声が、くすくす笑う声が全てあの頃のようで、一瞬であの頃に引き戻される感じがした。
「それでね、壮太さん」
心地良いものが一度ぷつり途切れた。
壮太!
そーうーたー!
受話器と反対の耳にはあの頃の藍の声が、校則ギリギリの膝上で揺れていた制服のスカートが壮太の脳裏に過った。
「もしもし…、壮太さん。聞こえています?」
ぎこちなくできてしまった間に気づいて、壮太は慌てて答えた。
「ごめん。何の話でした?」
くすくすと笑う藍の声が、壮太の耳を熱くする。喫茶店で向かい合って話をしたとき、口元に手を当てて笑っていた藍が大人っぽく見えた。色っぽく大人っぽく。
あの頃のポップコーンが弾けるように、笑い合うことはもうないかもしれない。
「壮太さん」と呼ばれることにはまだ慣れないし、並べてしまう言葉はぎこちなく、滑らかに唇が動いて、おしゃべりが弾むとすごく嬉しくてドキドキが止まらないのは、二人が出会ったばかりだから…。
春の陽の中で出会った彼女に恋をしたとき、あれは壮太の初恋だった。
そしてまた壮太は彼女に恋をしている。
これはきっと二度目の初恋だ。
「え? お祭り?」
壮太が聞き返す。
「そうなんです。来週神社でお祭りがあって父のキッチンカーも出るんです。父が壮太さんにも来てほしいって言っているので、ご迷惑じゃなかったら一緒に」
「行きます」
言ってから、あまりにも早い返事に壮太は顔から火が出る思いがしたが、藍が笑ってくれたから救われた。
鳥居をくぐり石段をのぼって行くと、神社の境内から賑やかな音が聞こえ、人の波が増えていき参道の両側に並んだ露からは、甘い香りが、香ばしい香りが漂っている。
「行こう」
壮太が差し出した手に藍は手を載せて、二人は軽やかな足取りで歩き出した。
焼きたてのフランクフルトを片手に持って歩き、店先で薄く大きく焼けるクレープを手際よくひっくり返すのを目を丸くして二人は見ていたとき、太鼓や鈴の音が近くを通り、朱赤のお揃いの法被を着た子供たちが元気な声をあげながら、小さなお神輿を担いで側を過ぎていく。
「可愛いわね」
藍が楽しそうに言うと、壮太も笑ってうなずいた。
露店のおじさんがおまけしてくれて、紙のカップから零れ落ちそうなほど入った大学芋はまだ熱々だった。それらを頬張って、藍の両親が待つ大判焼きのキッチンカーに辿り着く頃には、二人ともおなか一杯で苦しいくらいだった。
藍が空を仰いだ。
ここに着いたときはまだ明るかったが、陽はすでに暮れて紺色の夜空には小さな星が輝き始めていた。
「両親から聞いたの。あの事故が起きる前、私たちは会う約束をしていたって」
振り向いた壮太と向かい合ったとき、藍の髪が夜風に揺れた。その髪に藍が手をやる。壮太はうなずいた。そしてちょっと気恥ずかしくなってうつむきながら言った。
「気持ちをね、ちゃんと伝えようと思っていたんだ。あのとき大学生になって、けじめっていうか友達以上になりたくて」
そこで顔をあげると、藍が真っすぐ壮太を見つめていた。
「今もあのときと気持ちは変わっていない。藍が好きだ。あのときも、今も、これからもずっとこの気持ちは変わらない」
「ごめんね。記憶をなくしてしまったことで、あなたにとてもつらい思いをさせたのだと思うの。あなたと出会って話を聞いても、やっぱり思い出せないこともあって、でも、でもね、壮太…」
全身が震えた。壮太の身体に駆け巡るものは幸せだった。壮太…って、あの頃のように藍が呼んでくれた。
「今とこれから先に壮太と私に起こること、全部全部もう忘れたりしないから、しないから絶対に…」
壮太は藍の細い腕を引き寄せて抱き締めた。強く、けれど優しく数年分の想いと一緒に抱き締めた。
「私も好きよ、壮太が好きよ」
胸の中で小さく藍がつぶやいた。
夜風がそっと二人を包んだ。
コメント
1件
「黄色いライオン」という言葉で一気にあの頃に戻る壮太の感覚、すごく伝わってきました。藍が「壮太」って呼び直した瞬間の震え、鳥肌が立ちましたよ。二度目の初恋って表現、いいですね。忘れてしまった過去を埋めるんじゃなくて、これから新しく作っていくんだっていう二人の決意が、夜風に包まれるラストシーンにきれいに溶け込んでいて、読後感がとても温かかったです。