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「蔭(おん)の白拍子?」
トモエは反射的にその言葉をオウム返しにつぶやいた。ヒミコに目を向けてさらに訊いた。
「普通の白拍子と、どう違うんですか?」
ヒミコは畳の上に左ひざを立てた姿勢で座り、話を続けた。
「白拍子は当時の貴族の館にも出入りできたと言うたやろ。中には院の館に入れるのもおった」
「イン?」
「上皇や法皇の館の事や。天皇はんを形ばかりのお飾りにして、退位した上皇、法皇が政治の実権を握っとった時期も長かった。日本史の授業で院政って聞いた事ないか?」
「あはは、あたし歴史の授業は苦手だったもんで……」
「まあええわ。早く言えば当時の最高権力者とその側近の貴族の家に堂々と出入りできる白拍子が、ようけおったわけや。その館の中には、政治の秘密、陰謀に関わる情報もあったわけやな」
トモエはようやく何かに気づいてハッとした口調で言った。
「そういう秘密を探れた。そういう事ですか?」
ヒミコは小さくうなずいて続けた。
「当時の白拍子はグループを作って芸能活動してた。その中に、そういう秘密を探り出すために、表向きは白拍子という皮を被った、スパイが本業のグループが出来てきたんや。それが蔭(おん)の白拍子。ウチらはその末裔なんや」
「暗殺もしてたんですか?」
「白拍子の中には、貴族はんの夜のお相手するもんもおったようやな。女の色香を使って寝物語で秘密を聞き出すのはお手のもんや。今で言うハニートラップやな。そして寝床の中なら、隙を突いてお命頂戴するのも、女の細腕でも出来る」
「よ、夜の相手! それは確かに……」
「平安時代は、天皇、上皇と貴族、あるいは貴族同士の政治的な陰謀が渦巻いとった時代でもある。権力者の館に、それも当人たちから招かれて、ちょいちょい出入りできる。そういう女たちを、権力者が利用せん手はないやろ?」
「そ、そんな昔に、スパイや暗殺をする女性の集団がいた、そういう事ですか?」
「そうやで。人間のする事なんて、何千年も本質的には同じや」
コメント
1件
「蔭の白拍子」の設定、めっちゃ面白いです……!白拍子っていう華やかなイメージの裏に、スパイや暗殺の歴史があったっていうのがもうゾクゾクしました。ヒミコの説明も分かりやすくて、トモエと一緒に「えっ!?」ってなりながら読んでました。平安の闇を感じさせるダークな世界観、大好きです。続きでどんな秘密が暴かれるのか、すごく気になります……🌙