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夜の部屋。窓の外に秋の風が吹いて、カーテンがふわりと揺れる。
机の上に置いたスマホには、まだゆうくんの名前が光っている。
『ちょっとだけ時間ほしい』
あの一文を送ってから、のあは一度もメッセージを開けないままでいた。
怖くて、胸が苦しくて、開けたら何かが壊れてしまいそうだった。
好きなのに、近づけない。
近づけば近づくほど、ゆうくんの気持ちが重たくなって、のあの心が小さく潰れてしまいそうになる。
「ゆうくん、ごめんね」
声に出して呟く。
誰にも届かない謝罪。
胸の奥がずきん、と痛んだ。
机の端に置いた赤いセットアップの衣装が目に入る。
文化祭の時、ゆうくんが「可愛い」って言ってくれた瞬間が蘇る。
あの時は、ただ嬉しかった。
ただ幸せだった。
でも今は、その思い出が逆に胸を刺す。
あんなに笑い合っていたのに、どうして今はこんなに遠いんだろう。
スマホの画面をタップして、ゆうくんのアイコンを見つめる。
送信欄には何度も打ちかけて消した文章が残っている。
『本当はね、今すぐ会いたい』
『ごめんね、でもまだ怖いの』
『大好きだよ、ゆうくん』
どれも送れないまま、指先が止まる。
のあはスマホを胸に抱きしめた。
窓の外の風が、頬に当たって冷たい。
その冷たさの中で、ぽろりと涙が落ちた。
好きなのに、近づけない。
好きだからこそ、距離を置かなきゃいけない。
その矛盾だけが、のあの心の奥に残っていた──。