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雨音を聞きながら、咲はふと口を開いた。
「……小さい頃、夏祭りの帰りに雨に降られたこと、ありましたよね」
自分でも不思議だった。思い出したままを、つい言葉にしてしまったのだ。
悠真は驚いたようにこちらを見て、それから少し照れたように笑った。
「ああ、覚えてる。妹ちゃんが泣いて、俺が必死に走って家まで送ったんだよな」
その一言に、胸の奥が一気に熱くなる。
――忘れてない。悠真さんも、覚えてくれてた。
「……私、あの時、すごく安心したんです」
ぽつりと漏らした声は、雨音にかき消されそうだった。
悠真は答えず、ただ優しく微笑んでいた。
それだけで、咲の心臓は破裂しそうに跳ねていた。