この作品はいかがでしたか?
12
この作品はいかがでしたか?
12
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
敷地内の見回りを終え、離れへと向かう。
自室の扉を開け、電気を付け、ベッドに腰掛けた。
職務中は必要ないからと、部屋に置いていたスマホが机の上で光っていた。
手に取れば、通知が数件来ていた。
「…きたみん…?」
見れば、任務に一人で向かうという数十分前のメッセージと、それに応えるメッセージ、そして、
『だれかきて』
というたった今来たメッセージと、位置情報アプリのスクリーンショットが貼られていた。
「っ!」
すぐさま立ち上がり、部屋から駆け出す。
大丈夫、屋敷の窓は全て閉めたし、敷地内の防犯装置も先程運転を確認した。
万一のことがあれば、自分の通信機に通知が来るはず。
屋敷を抜け、夜の街を走る。
意識を浮上させる。
左手を刺激する何かに気づいた。
「…ん。よるむんがんど…」
相棒が起こしてくれたのだろうか。
彼?はスマートフォンへ駆け寄る。
「…なんか来とると?」
スマホを見れば、先程任務に行くと行っていた彼が、『だれかきて』と送ってきていた。
「…っ!やっぱり助け必要だったんじゃねえか!」
重い上着を羽織り、いつも持ち歩いているセットを手に取り、相棒に声をかける。
「ほな、行くで。 」
それを聞くと、彼?はするすると自分の腕を登り、肩口に収まった。
そして、扉を開け、戸締りをする。
目を細め、夜の闇を見据え、闇へ走り出した。
「くっそ…!子どもいるならいるで言ってくれよ師匠…!」
手を、足を動かしながら、つぶやく。
もっとも、このつぶやきは師匠には届かないし、なんなら師匠は呪いを感知しておれに式神を送ってきただけなので、師匠は何一つ悪くない。
…まあ、おれ一人で大丈夫とか言ってたの嘘じゃん!ってなるけど、少しは信頼されてるとでも思っておこう。無茶振りではなく。
とりあえず、二人に要請は送った。
あとはこの幼い子ども二人を守りながら…
「ぐゥッ!」
くそ、一撃は弱いのに、腕が六本あるから、速い…!
「だいじょーぶ、だいじょーぶだからな…!」
子どもたちに、そして、自分に言い聞かせる。
「ぅらァッ!」
拳は当たる。いける──────
「きたみん!」
「…ッネス!」
あぁ、良かっ___
「ッ!?」
俺の姿を見て安心したのだろうか、友人は気を抜いて、体をゆっくり地面へ近づけていく。
咄嗟に腕を伸ばし、すんでのところで受け止める。
「きたみん!」
脈も呼吸もある。
一時的に意識を失っているだけだろう。
だが…
「…ッ!」
目の前から攻撃を仕掛けてくる厄介な奴がいる。彼を安全なところまで運べれば戦えるのだが、そんなことをしていればきたみん諸共背中から貫かれて終わりだろう。
かろうじて彼を抱えながら攻撃を避け続ける。
大丈夫、あとはあいつさえ来てくれれば
「遊征!ネス!」
「魁星!遅い!」
「悪い、遊征は?」
「一時的に意識失ってるだけ。こいつ向こうまで連れてって、ついでにあの子達のこと見といてくんない?」
「…ネスは、大丈夫やんな?」
「もっちろん」
「ほな、任せたわ。」
そう言うと、魁星は俺の手からきたみんを受け取り、子どもたちの方へ向かった。
「…さて、一働きしますか。」
ジャケットの右裾を払い、右腿に手を当て、得物を抜く。
刃の部分に指を添えれば、ひんやりとした感触が伝わってくる。
大丈夫、これには彼の呪いがかかってる。
膝を折り、軽く腰を沈める。
敵が腕を振り上げた。
──今だ。
反動をつけ、飛び上がった彼は、敵の攻撃を躱し、攻撃してきた腕に切りつけた。
反撃しようと、他の腕が迫ると、軽く飛んで地面に戻ってくる。
今度は蹴りも入れながら、右手の得物を縦横無尽に動かす。
そんな彼を見ながら、俺は三人の手当をする。
「もう大丈夫やけんな〜」
「…お兄さん達、だぁれ?」
「ん〜?…せやねぇ、悪い人たちじゃなかとよ。」
「そっか、ならいいや。」
「あのね、さっき、ここで遊んでたら、なんか鏡?が落ちてて。それ拾おうとしたら、ぶわぁー!ってなって、あれが出てきたの。」
「なるほどな〜。」
「ねぇ、お兄さん。」
「ん?」
「まだ、ここにいていい?」
「そやねぇ、静かに、動かないって約束出来たらな。」
「約束できる!」
「できる!」
「ほな、ええよ。」
そう声をかけ、今度は遊征の方を向く。
パッと見、大きな裂傷や打撲痕は見受けられない。細かい切り傷に、店から持ってきたテープを貼る。
彼と過ごすようになってから、絆創膏を持ち歩くようになったし、店に簡易的な救急キットを置くようになった。
軽く彼の額をぺち、と叩き、再度ネスの戦いを見守る。
本当に、彼の動きはしなやかで、美しい。
エクステやジャケットの羽飾りも相まって、鳥の飛翔にすら見える。グローブに飾り爪あるし。
そして、彼の口角が上がった。合図だ。
再び、地面に彼が戻ってきた。
眠る遊征の腕からそっと数珠を外し、ネスに向かって投げる。
彼はこちらを見ずに受け取り、ありがと、と前を見たまま発する。
「きたみん。ちょっとだけ力借りるわ。」
いけ、ネス。
俺の口からか、遊征の口からか分からない声がした。
彼の赤い瞳孔は、ただ一点を見つめ、
翔んだ。
腕を高く振り上げ、左手の数珠と、右手のナイフを合わせ、強く握る。
敵の肩口に着地すると、腕を振り下ろした。
怪しい光を纏ったナイフは、見事に敵の体に入り、
右腕を三本、葬り去った。
そのまま地面に落ちてきた彼は、言う。
「榊、神だし、舐めんなし!」
ふっ、と笑いがこぼれる。おっと、彼には聞こえていないようだ。
本当に、戦っている姿は美しいのに、あの一言で子どもっぽくなってしまうのだ、かわいいものだろう。
彼はこちらに数珠を投げて返してきた。
「はい、ありがと。」
そして、敵の右腕が再生しないことを確認し、今度は左腕と戦い始める。
「ほんま、本職でもなんでもないのによぉやるわ…」
「ほんとな。」
「おっ、遊征、起きとったんか。」
「わりぃ、おれどれぐらい気ぃ失ってた?」
「ん〜、十分くらいやね。」
「うわ、師匠に怒られる…」
「で、体は大丈夫なん?」
「おん!この通り!」
そう言い、彼は立ち上がった。
「ありがとな、二人とも。」
数珠を右手に持ち、ネスの元へ歩き出す。
「待たせたな。」
「んや?そんな待ってないけど?」
「ふはっ、そっか。…それじゃ、」
「北見が来たぜ、遊ぼうぜ。」