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「慶都おじさん、あっちでボーリングしようよ」
そう言って、真斗君が慶都さんを呼びにきた。
「ああ、真斗、ごめんな。すぐに行くから」
「うん、先に行ってるから来てね」
「わかった」
慶都さんは、真斗君の頭を撫でた。
そして、また雪都に振り返って、
「じゃあね、雪都君。ママを大切にするんだよ。また……必ず会おう」
「うん、またね」
笑顔で手を振り合う2人、とても良く似た2人。
そんな2人を見ていたら「雪都、この人があなたのパパだよ」って……思わず話してしまいたくなった。
「彩葉先生」
「え? あっ、理久先生」
「大丈夫ですか? 何かありましたか? 目が赤いです」
やっぱり理久先生にはすぐに気づかれてしまう。
「さっきから目がかゆくて。ホコリが目に入ったかな?」
全く、変なごまかし方だ。
「そうですか……じゃあ、僕は雪都君と向こうに行ってきます」
「うん。ありがとう、理久先生。よろしくね」
きっと、慶都さんは雪都の顔を見て自分の息子だとわかったんだと思う。
理久先生も、今、目の前の2人のやり取りを見て、雪都と慶都さんがすごく似てることに気づいたかな?
ううん、まさかね……大丈夫だよ、きっと。
そんなことを考えていたら、ふと、向こうにいる慶都さんが視界に入った。
近くにいるお母さんや先生達は、隙を見ては次から次へと慶都さんに話しかけてる。
慶都さんもきちんと受け答えしてて、みんなニコニコと嬉しそうだ。
スマートな対応、さすが九条グループの御曹司だと思った。
遠くからでもそのオーラはハッキリと確認できる。
私は、思わずそちらの方に向けてカメラを構えた。
ファインダー越しに写る慶都さんは、信じられないくらいとても綺麗で……
私には、あまりにも眩しかった。
でも……
なぜか、シャッターを切ることはできなかった。
せっかく美しい被写体に向けたカメラを、私は胸の位置までゆっくり下ろした。
そう言えば、今まで目の前で他の女性と慶都さんが話してる姿をあまり見たことがなかった。
不思議だな……
そんな慶都さんを見て思ったんだ。
ちょっとだけ、心の奥がチクチクして痛いって。
何だかザワザワして、変な気分で落ち着かない。
私、まさかヤキモチ妬いてる?
嘘でしょ?
私が慶都さんみたいな素敵な人にヤキモチ妬くなんて、厚かましいにも程があるよ。
彼女でも奥さんでもないのに。
もう、いろんな感情がたくさん混ざり合って、どんどん自分の本当の気持ちがわからなくなる。
子ども達はみんな可愛くて、楽しい夏祭りなのに、どうしてこんな気持ちになるの?
マリエさんの時みたいにまた一喜一憂するの?
ううん、そんなんじゃダメだよ。
保育士として、今日は最後まで笑顔を絶やさずに頑張らなきゃ。
必死で自分にそう言い聞かせ、何とか夏祭りを無事に終えることができた。
みんなで園長先生の話を聞いてから、さよならの挨拶をして、そのまま解散した。
慶都さんはまた私の方に向かって軽く会釈をし、真斗君と一緒に帰っていった。
「慶都さん、行っちゃった……」
背中を見送りながら、そんな風に心の中でつぶやいた。
ホッとしたのか、それとも寂しいのか? よくわからない感情が揺れ動いてる。
「彩葉先生。やっぱり気分が悪いんじゃないですか?」
「だ、大丈夫だよ。今日はありがとうね」
心配してくれた理久先生の声掛けにも、笑顔が引きつって上手く返せない。
「今日、片付けの後はお疲れ様会ですけど……体調悪かったら無理しない方が……」
「ううん、ちゃんと参加するし、本当に心配しないで。大丈夫だから」
どこまでも優しい理久先生に対して、ちょっと冷たい態度を取った自分が、すごく嫌な人間に思えた。