テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
あの日を境に、私たちはまた言葉を交わすようになった。でもそれは、以前とまったく同じじゃない。
お互い、どこかで“無理をしないように”気をつけている感じだった。
昼休み、すみれが珍しく先に私の席に来た。
「ねえ、今日は屋上行ってみない?」
「……うん」
校舎の階段を登っていくと、春の風がふわりと制服を揺らした。
屋上には誰もいなかった。
ふたりでベンチに腰を下ろす。
「この前の写真、まだある?」
すみれがぽつりと尋ねた。
私は少し迷ってから、鞄の奥にしまっていた封筒を差し出した。
すみれはゆっくりと中を覗き、何枚かを手に取る。
風に吹かれて、彼女の髪が揺れる。
「……ねえ。私ね、やっぱりあなたのこと、見てたんだと思う」
「……え?」
すみれは写真を見つめながら、続ける。
「私、人のこと覚えるのが苦手だって言ったよね。
でも、あなたのことだけは、なぜかずっと残ってて……
今思えば、それってたぶん、私も依存してたのかも」
私は言葉を失った。
すみれの横顔が、とても穏やかで、でもどこか遠くを見ているように見えた。
「“幻の続き”ってさ、
もしかしたら夢の中だけじゃなくて――現実でも見られるのかなって思って」
私はすみれを見つめた。
言葉じゃなく、ただその存在を確かめるように。
「ねえ、明日、もう一回行こうか。
あの場所。すみれの咲く場所へ」
すみれは少し笑って、うなずいた。
「うん。きっと、まだ咲いてるよ」
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!