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遡る事、いつ月程前。
テオドールが城を立った後、テオドールがいない寂しさと、彼にフラれてしまった事でヴィオラは暫く気落ちしてしまい、食事も喉が通らなかった。
そんな時、ふと思い出すのはミシェルの事だった。
レナードが現れてからは、目まぐるしく世界が一変してミシェルの事を考える事が減った。だが、それでもミシェルの事は決して忘れてなどいない。
ミシェルのいない寂しさは、未だ埋める事は出来ない。
どんなに笑っていても、心に穴がぽっかりとあいてしまった様に感じる。
ミシェルもいなくて、デラもいなくて。
レナードもいなくて、テオドールもいない。
泣きたい気分になる。声を上げて叫びたい、そんな気分だ。
毎日、中庭で空を仰ぎ見ている。
切り取られた空を。
幼い頃から見ていた、あの部屋の窓の世界と同じだ。窓に切り取られた世界は余りにも狭くて小さかった。
また、あの頃に戻ったような錯覚を覚える。
「私……何してるんだろう」
自分で自分が、分からない。どうしたらいいのか。何をするべきか。
「やあ」
暫くぼうっと立ち尽くしていたヴィオラだったが、不意に聞こえた声に振り返った。そして、少し驚き跳ねた。
誰……⁉︎
声の主は、ヴィオラを見て微笑んでいる。
その人は、長身で身体の線の細い、美青年だった。彼はの周りはキラキラ光ってる様に見えて、ま、眩しい……ヴィオラは思わず、瞬きをする。
「ヴィオラ嬢」
「へ……」
見知らぬ青年に名を呼ばれ、ヴィオラは呆然とした。青年はゆっくりと、こちらへ向かって歩いてくると、そのままヴィオラの目前に跪くと手触れた。
「驚かせてしまって、すみません。初めまして、私の名はヴィルヘイムです。貴女の事は、弟からよく聞いてます」
弟って……まさか、テオドール様の事⁉︎
ヴィオラは青年を凝視していたが、ハッとする。
「テオドール様の、お兄様ですか⁉︎」
驚き声を上げるヴィオラに、ヴィルヘイムは頷いた。
そ、それは……王太子殿下⁈って事⁉︎
「も、申し訳ございませんっ‼︎非礼をお赦し下さいっ」
慌てて正式な礼をとろうとするが、ヴィルヘイムは手を離してくれなかった。
「構わないですよ。貴女は、弟の大切な人です。それは、私にとっても同じという事を意味します。畏まる必要はありませんよ」
大切な人……。
ヴィオラは、居た堪れない気分になった。視線を彷徨わせ、落ち着かない。何しろ自分はテオドールにフラれた身だ。大切な人とは違う気が……大切な友人との意味だろうか……。
「実は、以前から貴女と話をしてみたかったんです。よければ、私の話し相手になって頂けませんか?」
そう言って優しく微笑むヴィルヘイムに戸惑うが、ヴィオラは断り切れず頷いた。
「わ、私などで宜しければ……」
「貴女の様な美しい方に、話し相手になって頂けるなど、私は幸運ですね」
ヴィオラは、ヴィルヘイムに手を引かれ彼の部屋へと移動した。
いつだって、きっかけは些細な事から始まる。
「そう……テオドールが」
ヴィルヘイムの部屋でお茶をしながら、2人は話をしていた。
ヴィオラは、自分のこれまでの事を簡潔に話す。多少は、テオドールからは説明を受けている筈なので、正直どこまで話して良いものかは悩んだ。
ヴィオラが自分自身の生まれや、テオドールと出会った経緯、何故この城にきたのかなどを話すと、やはり知ってはいたようだった。だがヴィルヘイムは、嫌な顔1つ為ずに聞いてくれた。とても、聞き上手だ。
その所為かヴィオラは、余計な事まで口走る。先日テオドールにフラれてしまった事は言うつもりが無かったにも関わらず、つい口が滑り話してしまった……。
「意外でした。あの子は、貴女の事を好いているとばかり……」
ヴィルヘイムは、眉をひそめ悲しそうにしている。
「大丈夫ですか」
不意に、優しい声でそう言われた。
「へ……ぁ」
泣くつもりなんて、なかった。だが、涙が勝手に流れてしまった。改めて、テオドールにフラれてしまったと、口に出すと悲しかった……。
ポンッ。
「で、殿下⁉︎」
ヴィルヘイムは、ヴィオラの頭にそっと手をのせると撫でる。
「弟が、貴女を悲しませてしまった様で……申し訳ありません」
「そんなっ、殿下の所為では」
彼は関係ない。ただ、自分に魅力が無かっただけだ。彼が謝る必要など、何処にもないのに……。
「ヴィオラ嬢」
真っ直ぐ射抜く様な視線に、ヴィオラは息を呑んだ。
「私では、貴女の力にはなれませんか」