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隷の威圧的な態度に、六葉の笑顔は消えなかった。
彼女は、隷の冷酷な拒絶の裏に、他人を巻き込みたくないという焦燥が隠されているのを感じ取った。
六葉は、隷が座る机の隅まで行き、震える手でハーブティーを置いた。
「これは、学院の誰かのためのものです。温かさを必要としない方も、体が温まれば、少しは安らげますから」
そして、六葉は深々と頭を下げた。
「申し訳ありませんでした。もう立ち去ります。でも…」
六葉は、立ち去る前に、隷の机の上に置いてあった古びた論文に、そっと癒やしの魔力を込めた。
「…大公隷様が、少しでも楽になりますように」
六葉が去り、再び研究室に静寂が訪れた。
隷は、論文の上の魔力の残光と、テーブルの隅にある湯気の立つハーブティーを見た。
彼は、自分の冷酷な拒絶にもかかわらず、六葉が自分を気遣う無邪気な優しさを残していったことに、激しく動揺した。
彼の左腕に刻まれた“”感情凍結“”の呪印が、チクリと痛んだ。
隷は、誰もいないことを確認し、論文に触れた六葉の指先が温めた部分を、そっと自分の指先で撫でた。
そして、ハーブティーに手をかざし、湯気の温かさだけを、静かに感じ取った。
「…無意味だ。だが…」
隷はハーブティーをひっくり返した。
「……チッ…」
この日、六葉は、隷の冷酷な世界に、消えない温もりを残していったのだった。