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夏。
蝉の声がうるさいくらい響く季節。
親戚の家に集まる恒例のバーベキューの日がやってきた。
「マナ、荷物持って」
「自分で持てる!」
「はいはい」
ライが笑いながら結局半分持っていく。
そういうところがずるい。
付き合ってから数か月。
二人は相変わらず秘密の恋人だった。
親戚たちは当然何も知らない。
だからこそ、こういう集まりでは普通に振る舞わないといけない。
それが少し寂しくて、でも楽しくもあった。
こっそり目を合わせたり。
机の下で指先だけ触れたり。
二人だけが知ってる秘密みたいで。
「ライくーん!」
明るい声が響く。
振り返ると、親戚の女の子がライに駆け寄っていた。
「大学受験どうー?」
「ぼちぼち」
「絶対モテるよねー!」
そのまま自然にライの隣に座る。
マナは少し離れた場所からそれを見ていた。
「……」
別に。
ただの親戚。
普通の会話。
なのに胸がもやもやする。
ライは誰にでも優しい。
分かってる。
でも。
「マナ兄ちゃん焼きそば食べるー?」
「あ、食べる」
小さい子に呼ばれて返事をしながらも、視線は無意識にライを追ってしまう。
ライが笑ってる。
他の人と。
それだけなのに落ち着かない。
「……なにしてんだ俺」
自分でも子供っぽいと思う。
高校一年生の自分と、高校三年生のライ。
二歳差。
ライの方が大人で、余裕があって、周りにも人が集まる。
そんなの当たり前なのに。
「マナ?」
「っ」
急に後ろから声がして肩が跳ねた。
振り返るとライが立っている。
「なんで逃げてんの」
「逃げてねぇし」
「嘘」
「……」
図星すぎて言い返せない。
ライが少しだけ目を細めた。
「もしかして嫉妬?」
「は!?」
「違う?」
「違っ……」
否定しようとして、できなかった。
ライが静かに笑う。
「かわい」
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「うるさい……」
悔しくて顔を逸らす。
するとライが小さく言った。
「裏来る?」
「……え」
「二人で話したい」
その声が少し真面目で、マナは黙って頷いた。
家の裏側。
物置の近く。
人の声は聞こえるけど、ここまでは来ない。
昔から二人の避難場所みたいな場所だった。
「マナ」
「……なに」
「こっち向いて」
「やだ」
「なんで」
「恥ずい」
ライが小さく笑う。
「ほんと分かりやすいな」
「ライが悪い」
「俺?」
「誰にでも優しいから」
言ってしまった。
子供っぽい。
面倒くさい。
そう思ったのに、ライは笑わなかった。
「マナ」
「……」
「俺、お前以外にこういう気持ちになったことないよ」
その声が真っ直ぐで、胸がぎゅっとなる。
「でもライモテるじゃん」
「興味ない」
「嘘だ」
「ほんと」
ライが一歩近づく。
逃げ場がなくなる。
「俺が好きなの、マナだけ」
「……っ」
「だからそんな顔すんな」
頬に触れられる。
優しい手。
その熱だけで不安が溶けていく。
「……俺、子供みたい」
「高一じゃん」
「そういう意味じゃなくて!」
ライが吹き出す。
「ごめんごめん」
「笑うな!」
「だって可愛い」
「またそれ……」
恥ずかしくて顔を隠そうとした瞬間、手首を掴まれた。
「ライ?」
「……俺も嫉妬するよ」
「え」
「学校でマナが誰かと仲良くしてるの想像したら普通に嫌」
意外すぎて目を見開く。
ライって余裕あると思ってた。
自分だけが振り回されてるんだと思ってた。
「ライでもそうなんだ」
「むしろかなり」
「……なんか安心した」
「ひど」
でもライは嬉しそうに笑った。
そのあと、不意に空気が変わる。
ライの視線が熱っぽくなる。
「マナ」
「ん……?」
「キスしたい」
最近、ライは前よりストレートになった気がする。
そのたびマナの心臓は限界になる。
「外……」
「誰も来ない」
「でも……」
「だめ?」
少し低い声。
そんなふうに言われたら弱い。
「……少しだけ」
「ん」
ライが満足そうに笑う。
そのまま腰を引き寄せられ、背中が壁に触れた。
「っ」
「逃げんなよ」
「逃げてない……」
唇が重なる。
最初は優しく。
でも今日は少しだけ深い。
「ん……っ」
呼吸が乱れる。
ライの手が背中を撫でて、力が抜けそうになる。
「……ライ」
「なに」
「近い……」
「もっと近づきたい」
「っ……!」
耳元で囁かれて、完全に無理だった。
ライが笑いながらもう一度キスする。
触れるたび好きになる。
苦しいくらい。
長めのキスのあと、ライが額を押し当ててきた。
「マナ好き」
「……俺も」
「ちゃんと言って」
「……好き」
ライが嬉しそうに目を細める。
その顔を見るたび思う。
この人を好きになってよかったって。
すると遠くから声がした。
「ライー! マナー!」
「やば」
「戻るか」
二人同時に笑う。
ライが離れる直前、こそっと耳元で囁いた。
「あとでまた会おうな、恋人」
「っ……!」
その一言だけで、また顔が熱くなる。
秘密の恋は、今日も誰にも知られないまま続いていく。