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冬。
吐く息が白くなる季節。
伊波ライの受験も終わり、久しぶりに大きな親戚の集まりが開かれていた。
「ライくん受験お疲れー!」
「ありがとーございます」
「春から大学生かぁ」
親戚たちが賑やかに話している。
その輪の少し外側で、緋八マナはこっそりライを見ていた。
高校三年生だったライは、もうすぐ卒業する。
高校一年生だった自分も、気づけば二年生になる。
時間が経つのは早い。
でも。
好きは、全然薄れなかった。
むしろ会うたび強くなる。
「マナ」
「っ」
不意に隣にライが来る。
自然すぎて、誰も気づかない。
「また見てた」
「見てない」
「嘘」
笑われる。
悔しい。
でも好き。
「……受験、お疲れ」
「ありがと」
「大学決まったんだろ」
「うん」
「……そっか」
嬉しいはずなのに、少しだけ寂しかった。
ライはどんどん先へ進んでいく。
置いていかれそうで怖くなる。
そんなマナの気持ちを察したのか、ライが小さく言った。
「あとで抜ける?」
「……うん」
夕食後。
大人たちがお酒を飲み始め、リビングが騒がしくなった頃。
二人はこっそり家を抜け出した。
冬の空気は冷たい。
「さむ……」
「ほら」
ライが自然にマフラーを半分かけてくる。
「え」
「一緒に使お」
「……ずる」
「なにが」
「そういうの」
心臓に悪い。
でも嬉しい。
家の近くの神社まで歩く。
夜だから人はいない。
静かで、二人の足音だけが響いていた。
「懐かしいな」
「昔ここで遊んだよな」
「マナ転んで泣いてた」
「それもういいって!」
ライが笑う。
その横顔を見ながら、マナは思った。
昔からずっと好きだったのかもしれない。
ただ、“親戚のお兄ちゃん”だったライが、いつの間にか特別になっていただけで。
「マナ」
「ん?」
「こっち」
神社の裏側。
誰もいない場所。
そこに着いた瞬間、ライがマナの手を引いた。
「わっ」
軽く抱き寄せられる。
近い。
冬の冷たさとは反対に、ライの体温は温かかった。
「……ライ」
「マナ、今日ずっと元気なかった」
「そんなこと……」
「ある」
図星だった。
ライは昔から、マナの変化にすぐ気づく。
「……だって」
「うん」
「大学行ったら、今より会えなくなるかもって思って」
声が少し震える。
こんなこと言うつもりじゃなかったのに。
でもライの前だと隠せなかった。
「俺だけ置いてかれるみたいで嫌だった」
言ってしまった。
恥ずかしい。
重い。
でもライは笑わなかった。
「マナ」
「……」
「俺、何回も言ってる」
頬に触れられる。
優しい手。
「離れないよ」
「……でも」
「大学行っても会いに来る」
「……」
「親戚の集まりなくても、会いに来る」
その言葉に胸が熱くなる。
「マナに会うの、もう俺の習慣だから」
「っ……」
ずるい。
そんなこと言われたら泣きそうになる。
「……俺も」
「ん?」
「ライに会いたくて、毎回親戚の集まり来てた」
ライが少し目を見開く。
「知ってた」
「え!?」
「分かりやすすぎ」
「うるさい……」
恥ずかしくて顔を隠す。
するとライが楽しそうに笑った。
「でも嬉しかった」
「……」
「俺も同じだったから」
お互い、会いたくて来ていた。
親戚だから会えた。
親戚だから隠してきた。
でもその全部が、今は愛しかった。
「マナ」
「ん」
「キスしていい?」
「……聞くの今さら」
「ちゃんと聞きたい」
マナは少しだけ笑って、頷いた。
「……いいよ」
ライがそっと頬を包む。
優しいキス。
何度しても慣れない。
唇が触れるたび、好きが溢れる。
「ん……」
軽く離れて、また重なる。
冬の空気の中で、二人の熱だけがやけに甘かった。
「……好き」
唇が近いまま、ライが囁く。
「俺も……好き」
そのままもう一度キスされる。
長く、優しく。
苦しくなるくらい。
やがて離れると、ライが額をくっつけた。
「卒業しても」
「うん」
「大学生になっても」
「うん」
「ずっと恋人でいて」
その言葉に、マナは笑った。
「当たり前だろ」
ライが少し驚いて、それから嬉しそうに笑う。
「マナって時々かっこいい」
「時々ってなんだよ」
「普段かわいいから」
「うるさい!」
二人で笑う。
秘密の恋。
誰にも言えない関係。
それでも。
会いたい理由は、これから先も変わらない。
親戚の集まりがあっても。
なくても。
きっと二人は、何度でも会いに行く。
好きな人に。
たった一人の恋人に。
――伊波ライと、緋八マナとして。