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#ゲーム
#風見裕也
緑茶は飲めないが紅茶は飲める
「――あっ。雪が降ってきました」
北の街を目指している途中、薄曇りの空から、白い雪が降ってきた。
メルヴィナは空を見上げながら、右手で雪の欠片を掴もうとする。
「ふふっ、メルちゃんは可愛いねぇ」
オルビスを殺す――という話を聞いて以来、メルヴィナの元気も無くなっていた。
ずっと、どこか心に棘が刺さっているような……そんな状態だった。
「教都の方は、雪が滅多に降らないからなぁ。
……おー、寒い寒い」
雪を見たからか、ザインは急に寒気を感じてしまった。
「そんなに寒いなら、ガルドさんの背中に戻れば~?」
「ははは。もういい大人なんだから、自分で歩けるよな?」
アリアの冷めた提案に、ガルドは生温かい言葉を付け加える。
アリアの話を無視して強引に付いてきたザインは、未だにどこか居心地が悪かった。
「そろそろ勘弁してくれよ……。
宿屋の手配とかは俺が全部やるからさ。な?」
「それじゃ、お肉料理が美味しいところを探してきてねぇ」
「おう、任せておけ……!」
ザインの言葉に、アリアは仕方の無さそうに――ようやく、少しだけ笑った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
その日の夕方、北の街に辿り着くと――ザインは早速、宿屋を探しに走り始めた。
街自体はそれなりに大きく、人の出入りもまた多い。
神職者の姿は王都よりも多く、教都よりは少ない……といった具合だ。
「さて。情報屋を置いて、先を急ごう!」
「いやいや……。そういうブラックジョーク、止めてくださいよ……」
「危険だと分かって、それでなお強引に付いてきたんだ。
もう、素直に迎えてやった方が良いぞ」
「あはは……。はいはい、冗談です。冗談ですよーっ」
アリアは溜息をついてから、改めて辺りを見まわした。
近くに街の地図があったため、まずはそれを確認しに行く。
「私たちの目的地は、もっと北の方ですよね?
この街では、何かやることがあるんですか?」
「うん、最後の準備をしちゃわないとね。
情報屋が増えたから、追加の準備もしなくちゃいけないし……」
「ふむ……。ザインのために、時間が掛かる……と」
「それだけでもないんですけどね。
この辺りにはダンジョンがあって、他の街よりも希少な品が流通しているんです」
「なるほど。数日は滞在する形になるかな?」
「そうですねー。この先はもう、目的地しかないから――
……あとは、気分の問題ですかね?」
その言葉に、メルヴィナが少しだけ身体を震わせた。
彼女が信じるオルビスと、直接会う――そんな時間が、徐々に近付いてきているのだ。
「私も……アリアさんから頼まれた魔法陣の、再確認をしたいです。
……その、じっくりと」
メルヴィナの言葉に、アリアは何度も頷いた。
「うん、そうだね。気が済むまで確認してね。
……ああ、そうだ。あたしも鍛冶屋に行かないと」
「アリアさんが? 何か用事があるのか?」
「ガルドさん用に、武器と防具を作ってあげないと」
「うん? オレは、ずっと使っているものがあるんだが……」
アリアの言葉に、ガルドは不思議そうに返す。
「後戻りが出来なくなりますから。
絶対に折れない剣と、絶対に砕けない盾――を作りたいなぁ、って」
「そんなものが、存在するのか?」
当然のことながら、それらは流通していない。
しかしアリアに掛かってしまえば……そんな存在も、生み出されてしまうのかもしれない。
「折れないし砕けない……って、そもそも加工ができるんですか?」
「あたしがどうにかしてる間に、鍛冶師さんにいろいろやってもらうんだよ~」
「……なるほど」
アリアのふわっとした言葉に、メルヴィナの頭はスルーを決め込んだ。
アリアがそう言うなら、きっとそうなのだろう。違っていても、まぁそんな感じなのだろう。
「そんなわけで、あたしはしばらく忙しくなりそうだからね。
だからふたりとも、良い感じで準備をしておいてね~」
そんな話をしていると、ザインが走って戻ってきた。
どうやら既に、今夜の宿を決めてきたらしい。
「ふふふ、どうだ!? この値段にして、焼き肉食べ放題!!
――酒も飲み放題ッ!!」
「……でも、お酒の方は種類に制限がありますね」
「アリアと旦那が飲みそうな酒は、大丈夫だろ?
メルヴィナはあんまり飲まないし……!」
「完全に飲み食い自由だと、営業が成り立たないからね。
うん、凄く良いんじゃない?」
アリアの言葉に、ザインは顔をぱぁっと明るくした。
ザインはやはり、強引に付いてきたこと自体には、思うところがあったのだ。
「アリアさん。ザインさんがいてくれて、良かったですね!」
「……はぁ。まぁ、そういうことにしておいてあげるよ。
まったく、もう……」
そう言うと、アリアはザインに飴玉を渡した。
ザインはそれを口に入れて、嬉しそうに頬張り始める。
「――でも。ここからは本当に……あたしの言うことには、従ってね?
もう追い返したりはしないから、さ」
「おう! 約束はできないが、約束するぜ!」
「どっちなのよ……」
ザインの困った発言に、一同は笑い合った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
翌日の朝、ザインが宿屋の食堂に向かうと……アリアとガルドの姿が見えなかった。
代わりに、席にはメルヴィナがひとりで座っている。
目の前にノートを広げて、じっと凝視をしているようだ。
「おはよう。魔法の勉強でもしてるのか?」
「……あ、ザインさん。おはようございます」
ザインはコーヒーを注文すると、メルヴィナに向き直った。
「ところで、アリアと旦那は? まだ寝てるのかな?」
「おふたりなら、鍛冶屋に行きましたよ」
「え? 何で?」
「アリアさんが、絶対に折れない剣と、絶対に砕けない盾を作るんだー……って」
その言葉に、ザインは大聖堂の主教が封じられたときの――
……あの不思議な金属のことを思い出した。
この世界の技術では壊せない金属……きっとそれが、使われるのかもしれない。
「いいなぁ……。俺も、そういうのが欲しいなぁ……」
「余力があれば、頼んでみるのはどうですか?」
「……余力があっても、くれなさそうな気がするなぁ……」
ヴェルガ教の多元主義派の長――と戦ったときの『ありがたいお言葉』も、自分だけは無かったし……。
特別扱いされているような気もするが、特別扱いされていないような気もする。
こればかりはアリアの匙加減、といったところか。
……ザインはそんなことを、悶々と考えていた。
「良くも悪くも、ザインさんは日頃の行いが……って感じですからね」
「そうなのかなぁ……。
……ところでメルヴィナは、何か貰うの?」
「私はガルドに守ってもらう予定なので、特には……?」
そう言うメルヴィナのノートには、初めて見るような魔法陣が描かれている。
きっとアリアから提供されたものだろうから、少なくとも戦いの場では使うはず。
それを考えると、自分には――
「だああああっ!!」
「きゃっ!? ど、どうしたんですか!?」
「……ああ、すまん。考えが、嫌な方に行ってしまってな。
少し、散歩してくるわ……」
「コーヒー、お待たせしましたぁ!」
先ほど注文していたコーヒーが、このタイミングでやってきた。
何となく気まずくなったメルヴィナは、自分のノートで顔を覆って隠す。
一方のザインは、目をきょろきょろとさせながら――コーヒーを急いで啜っていった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
宿屋の外に出て、ザインは小さく息をついた。
いくらアリアが同行を……結果的には許してくれたとしても、危険であることには変わりない。
そして今は、最後の準備のチャンス……ともいえる時間だ。
それなら自分は、何を準備すれば良いのか――
「……っていうか、アリアはどこに向かうつもりなんだ?
メルヴィナと旦那は、着実に準備しているけど……」
思い返せば――
アリアがザインのことを『情報屋』と呼んでいるのは、最初にしっかり名乗らなかったのが原因だ。
だからこそ、今度こそはしっかり目的を聞かなければいけない。
自分の同行が断られていたことを考えれば、大聖堂やヴェルガ教の騒動よりも厄介なことには違いないのだが――
「……あれ以上、だっていうなら……。
本当に、何をしようとしているんだ? 全然わからん……」
詳しくは、アリア本人から聞いた方が良いだろう。
早速今夜にでも――……とは思いつつ、まずは今この時間だ。
ザインは自分のできることを探して、雪の街を歩き始めた。
コメント
1件
うわ〜ん第53話めっちゃ良かった…!😭💕 雪の街に着いてからのアリアたちの会話、温かくて切ない…「後戻りできなくなるから」って折れない剣と盾を作る発言、もう覚悟がガチすぎて泣ける…!ザインがようやく認められて、飴玉もらって喜んでるの可愛すぎる〜!でもやっぱり最終決戦に向けて緊張感がじわじわ来てるね…次が気になりすぎるよ成瀬りん先生😤🌸