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アウラウラ
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琉姫
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「ふふっ、相変わらず冷たい顔だね。前髪くらい、もうすこし短くしたら?あっ、それとも、私が切ってあげようか?」
にんまりとした笑みを浮かべながらアカリが言う。
少年はアカリを睨みつける。
「おい、さっさと本を返せ。」
「えぇ?嫌だよ。そもそも灯の中学生の頃の記録なんてソウは読まないでしょ?」
「そういう事じゃない。あと、本を読むなら俺に許可を取れ。」
「…はぁ、ほんとに面倒だね。読み終わったら返すからさ。ほんとだよ?」
「…」
ソウと言う名の少年は横にぴったりと身を寄せている金魚をちらりと見る。
金魚といっても、体が透明で、まるで飴細工のようだ。大きさも普通の金魚よりも大きく、体長は1メートルはありそうだ。赤色の混ざったオレンジ色の鱗が美術館の照明を反射してキラキラと輝いている。
なにかソウの視線から感じ取ったのか、
金魚は飴が溶けるようにぐにゃりと歪み、その姿はシャチとなった。
「おや?君じゃ私から本を取り返せないからかわりに従者に取り返してもらうの?いやぁ、面白いね。」
「こっちの方が効率がいいだけだ」
「へぇ、認める気は無いんだ?…にしても、君の従者はいつ見ても甘そうだね。」
「…」
飴細工のようなシャチが動く。
まるで水の中を泳ぐような動き。
アカリの手を尾びれではたく。
「わっ」
空中でふわりと体が傾く。
シャチがアカリの手から離れた本とペンを飲み込んだ。もちろん、透明な体だから、透けて飲み込まれた本とペンが見える。
そのままシャチはソウの元へ戻り、口からずるりとアカリから取り返したものを出す。
「ちょっと!鏡の人間だからってシャチは危ないよ!実像の人間だったら即死なんだから」
「勝手に書庫から本を盗んだお前が悪い」
声には明らかに苛立ちが混ざっている。
「はぁ、あのペン結構気に入ってたのに…」
わざとらしく大きなため息をつく。
「さ、用事は済んだでしょ。はやく書庫に戻ってくださーい」
不満そうな顔をしながらアカリが手をひらひらと振る。
「…あと2冊はどこだ」
シャチがゆらりゆらりとソウの周りを泳ぐ。
「なぁんだ、ちゃんと調べてから来たのか。
わかったよ、はいどーぞっ」
近くにあった鏡に手を突っ込み、本を引き抜く。そのままほいと本を投げる。すぐさまシャチが本を飲み込んだ。
ソウが不満そうな顔をする。
「もう少し丁寧に扱えないのか」
「いいじゃない。それより次からはシャチは出さないでね。今度叩かれたら体にヒビが入っちゃう」
「それはお前が勝手に本を――」
「…ん?」
そこでソウの言葉が止まる。
「……っ」
小さく息を吸う。
「ソウ?」
「……いや」
少し眉を寄せる。となりにいるシャチが体を寄せている。
「だからっ…勝手に本を…」
「…」
「――っ、げほっ……」
突然、咳が出た。
ソウは口元を手で覆う。
「…っ、げほっ……」
「ソウ、大丈夫?」
「……大丈夫だ」
そう言って顔を上げようとする。
しかし、まだ咳が残っていた。
「っ、けほっ……げほ……」
ソウが床に座り込む。
アカリは「あぁ、またか」とでも言うような顔をする。
「…そうだねぇ。今日は喋りすぎちゃったみたい。」
ソウは一度目を閉じ、呼吸を整えようとした。
「……」
「……」
アカリは何も言わずに待つ。
やがて。
「……もういい」
ソウが小さく息を吐いた。
「落ち着いた?」
「ああ」
「本当に?」
「…」
「…ほんとぉ?」
「……何度聞くんだ」
「そりゃあ心配だからだよ。この前みたいなことにはなってほしくないからね。」
「…」
アカリはパッと満面の笑みをつくる。
「さあさあ!お互い用事は済んだことだし?ソウは書庫に戻ってくださーい。どうしよっかな、気晴らしにコハルの庭園にでも遊びに行こうかなぁ」
「…この時間に?迷惑すぎるだろ」
ふらりと立ち上がりソウが言う。
「だいじょーぶ!あの庭園はいつも朝だからね。君の薄暗い書庫とは大違いだよ」
「…お前と話していると体調が悪化しそうだ」
「えぇ〜ひどいよー、理不尽だ!りふ…理不尽?…うん、理不尽!」
「…」
ソウは何も言わずにシャチとともに鏡へと戻る。
アカリも黙ってその後ろ姿を見つめる。
(にしても、もう少し本は読みたかったなぁ。昔の灯のことも知っておいた方が「本当の自分」を見つけやすいと思ったのに…)
そう考えてアカリは思った。
(…あの現実主義者の事だから、理由でも話せばワンチャン………ま、今度本を借りるときでいいか。)
それよりも。
「…まさかお互いの実像が同じ学校だったとはね。ふふっ、面白くなりそうだなぁ」
その声はアカリ以外、誰にも聞こえてはいなかった。