テラーノベル
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夜の帳が下りた草原。
月明かりに照らされる大地に、紅の帯と大剣の波動がぶつかり合う。
「はぁっ!」
大森の喉から放たれた旋律は紅の帯へと姿を変え、蛇のように舞いながら若井の身体を絡め取っていく。
若井は眉を吊り上げ、大剣を握る手に力を込める。
琵琶と融合したその刃が唸りを上げ、波動となって帯を切り裂いた。
火花のように散る音。
地面は抉れ、草木が薙ぎ倒される。
模擬戦と呼ぶにはあまりにも苛烈な光景。
だが二人はわかっていた――これは互いの敵意ではなく、囚われた藤澤を救い出す前に、己と相手の力を確かめ合うための戦いだ。
「若井……本気で来い!」
「言われなくても、最初から全力だ!」
若井の剣が唸りをあげ、赤い光の帯を切り裂く。
しかしすぐに 紅の帯は幾重にも重なり、若井の腕を再び絡め取る。
「くっ……っ!」
「もう終わり? 若井、そんなもんじゃねぇだろ」
喉を震わせながら、若井は必死に抗った。
その時、大森がわざと挑発するように口元を歪める。
苛立ちと同時に胸の奥が燃え上がる。
若井は歯を食いしばり、縛られた腕を無理やり振り払った。
「……言わせてろよ。ここからだ!」
その一瞬の隙を突き、大剣が月光を反射しながら大森の目前まで迫る。
「っ!」
大森の瞳が揺らぐ。
帯をさらに強く収束させ、若井の動きをぐっとこらえた。
二人の視線がぶつかる。
力と力がせめぎ合い、空気が震える。
だがその圧迫感の奥から、別の感情が込み上げてきた。
――藤澤。
大森の胸に、あの日の笑顔がよぎる。
小さな頃、3人で肩を並べて笑っていた。
「ずっと一緒だよ」
あの声、あの微笑み。
二度と見られないと思っていた光景が、紅の帯の奥に蘇る。
胸が痛い。
力を込めれば込めるほど、涙が滲んできた。
「……涼ちゃんを思い出すと……どうしても力が乱れるんだ……っ」
震える声が、夜の草原に響いた。
若井の胸も同じ痛みに締めつけられる。
「俺だって……あいつが…いなくなってから、ずっと剣を振るう意味をっ…探してた……!」
握る大剣がぶるぶると震え、波動が霧散し、2人は吹き飛んだ。
紅の帯も、剣の波動も消え去り、ただ荒い息だけが夜を満たす。
夜空を見上げる若井は、震える声で、しかし真っ直ぐに言葉を吐き出す。
「なぁ、もう一度……もう一度、3人で笑いたい」
その言葉に、大森の涙は止まらなかった。
夜空に浮かぶ月が、二人の頬を濡らす光の粒を映し出す。
「……涼ちゃんに……聴こえるかな……」
目を閉じ、胸の奥から溢れ出る旋律を紡ぐ。
『……愛してるとごめんねの差って
まるで月と太陽ね……』
五線譜の光が夜空に舞い上がる。
若井はその歌に応えるように大剣を構え、琵琶の弦を爪弾く。
深く低い音色が紅の旋律と重なり、やがて大地を包む穏やかな調和となった。
『貴方をまた想う 今世も……』
大森は涙を零しながらも歌い続け、若井は震える指で弦を叩き鳴らす。
音は祈りに変わり、風に溶けて草原を駆け抜ける。
『元貴ー!若井ー!こっちだよー!』
藤澤の笑顔。
風の中に溶けたその幻に、二人はしばし身を委ねる。
だが次の瞬間、強い決意が心に芽生える。
「必ず助け出す。どんな敵が相手でも」
「……あぁ、必ず」
二人は互いの手を強く握り、夜空に向けて誓った。
涙と汗で濡れたその手は、あの日の約束を再び結び直すものだった。
そして、森の奥に囚われた友のもとへ向かうために、二人は歩き出した。
コメント
4件
(⸝⸝⸝ᵒ̴̶̷ ⌑ ᵒ̴̶̷⸝⸝⸝)オォォ次で涼ちゃんと再開かな? そうだったら嬉しい!!
何か目標に向かって二人で鍛錬(?)してるシーンキングダムみたい! 続きまってます!今回も面白かった~!