【お願い】
こちらはirxsのnmmn作品となります
この言葉に見覚えのない方はブラウザバックをお願い致します
ご本人様方とは一切関係ありません
酔いがすっかり醒めた後は、そんなにすぐに寝つけるものでもなかった。
ようやくウトウトしかけた頃には、カーテンの隙間から朝日の光が漏れてきていた。
ガサガサという物音で目を開ける。
上体を起こして室内に目を配ると、すっかりスーツを着込んだまろと目が合った。
「…っ」
一瞬言葉を飲み込んでしまう。
どんな顔をすればいいのか分からなくて思わず目を逸らしそうになってしまった。
だけどここで態度悪く目を逸らしたら、何かが取り戻せなくなる気がする。
気まずくなるのも嫌なので俺は覚悟を決めたようにまっすぐまろを見つめた。
「…おはよ」
声をかけると、ネクタイを締めながらまろが「…はよ」と短く返す。
あいつも何か思うところがあったのか、目を逸らすことはなかった。
「俺もう出るから」
「…早くない?」
「朝イチで会議入っとんねん。昨日のリモート会議も長引いた上に結論出んかったし」
「大変じゃん」
平静を装え。いつも通り、いつも通り…。
自分に言い聞かせるように心の中で唱えながら、俺はまろと会話を続ける。
「夜は皆と練習だけど、大丈夫?」
「定時で上がる努力はする」
スケジュールを思い出しながら確認すると、まろは苦笑い気味に社畜らしい言葉を放った。
「それよりないこ、今日こそはうちの鍵、ポストに入れて帰って」
言われて俺は「あぁ…」と思い出す。
そう言えば昨日、前に預かったままだった鍵を使って入ってきたんだった。
だんだん蘇ってきた記憶に、自己嫌悪に陥りそうだった。
「分かった。でも夜会うときでもいいじゃん」
「1日持たせとったら、お前また返すん忘れそうやん」
肩を竦めながら言って、まろは近くに置いてあった鞄を手にした。
「ないこもはよ用意して行ったら? 二度寝すんなよ」
「分かってるよ」
「じゃあ行ってくるわ」
後ろ手にひらひらと手を振って、まろはそのまま玄関のドアを押し開いて行ってしまった。
その後ろ姿を見送って、俺は盛大なため息をつく。
お互いに、昨日のあのことには触れないように努めていたのが分かった。
それはそうだろう。
まろからしたら、俺にあんなことを言われて驚いたに違いない。
仲間だと思っていた…しかも男に抱きつかれて、「好き」だと言われて。
驚いただけならまだいい。
気持ち悪いとさえ思ったかもしれない。
自分でそう考えておいて、ズキンと胸が痛むのを実感した。
…このまま、もう戻れないんだろうか。
何となく昨日のできごとをお互い避けたまま、それでも気まずさを隠せなくなるんだろうか。
(…イヤだな、それは)
そう思った瞬間、ふと我に返る。
そもそもこんな消極的さ、俺らしくないんじゃないか?
いつもメンバーに「突っ走りすぎ」と言われる性格の俺なのに。
どうせバレてしまったなら、もう残された道は前向きに頑張るしかないんじゃないか?
うじうじと思い悩むよりも、きっとその方が俺の性に合っている。
覚悟を決めたように顔を上げると、俺はベッドから勢いよく立ち上がった。
その日の夜は、スタジオで歌とダンスの練習があった。
まろはきちんと定時で仕事をあがったらしく、予定通りの時刻に現れた。
メンバー全員で振り付けの確認をし、ああでもないこうでもないと議論し合う。
数時間集中して取り組んだおかげで、今日やっておきたいところまでは何とかなった。
汗をかいて冷えないうちにタオルで拭き取っていると、ほとけがダンスを終えた直後とは思えない高いテンションで周りに声をかけているのが耳に入ってくる。
「ねぇねぇ、誰かこの後ごはん行こうよー」
予定のない日は、大体こうやってほとけがみんなに声をかける。
その時行けるメンバーは乗るけど、俺はこの中で一番参加率が悪かった。
大体夜にはまだ仕事を残していることが多かったし、それこそ取引先の人たちと会うこともあったし。
逆にまろは大体ほとけに付き合っている気がする。
チャンスかもしれない、と思った。
あの後ろくに話もできていないし、「前向きに頑張る」んなら、少しでも近くに行けるいい機会なんじゃないか。
アニキやりうらが二つ返事でOKしているところ、俺もほとけに向けて片手を挙げる。
「ほとけっち、俺も行く!」
振り返ったほとけは目を丸くした後嬉しそうに笑んだ。
「ないちゃんが一緒に行くの久しぶりじゃない? 何食べよっかー。しょうちゃんも行くでしょ?」
それまで黙っていたしょうちゃんに、ほとけは続けて声をかける。
「僕は今日やりたいことあるから、帰ろうかな」
「えーっ、つまんなーい」
頬を膨らませるほとけに、しょうちゃんがなだめるようにポンポンと肩を叩いていた。
その横でまろが、近くに置いてあったバッグに手を伸ばしながら口を開く。
「俺も帰るわ」
「え、いふくんも帰るの?」
いつもなら何だかんだ言いながら付き合ってくれるまろが断ったことで、ほとけがきょとんとした目で瞬きを繰り返す。
これが配信上でならビジネス不仲全開で「別にいふくんは来なくていいよーだ」くらいは言っているかもしれない。
「じゃあまろちゃん、途中まで一緒に帰ろ」
「おー…」
しょうちゃんの言葉にまろが小さく頷いている。
それを眺めていた俺は、胸がざわつくのを感じた。
…いつもなら来るじゃん。
何で俺が行くって言ったときだけ?
たまたまかもしれないけど、前向きになろうとしていたときに限ってこれだ。
ため息をつきたい衝動を何とかこらえる。
だけど次の瞬間俺は、ほぼ自分でも無意識のうちにしょうちゃんと連れ立って帰ろうとしているまろの後ろ姿に声をかけてしまっていた。
「まろ!」
振り返った瞳が、まっすぐ俺を見つめ返す。
吸い込まれるような感覚に襲われそうだった。
…思うように言葉が出てこない。
そんな俺のただならぬ様子を感じ取ったのか、しょうちゃんが「…まろちゃん、外で待ってるわ」と先に歩いて行ってしまった。
「どしたん、ないこ」
スタジオの練習室から出て、まろがそう尋ねてくる。
廊下の先を歩くしょうちゃんがずいぶん向こうへ行ってしまったのを見送ってから、俺は後ろの空間をも遮断するように練習室のドアを閉めた。
「…珍しいじゃん、お前がメシ行かないの」
本当はそんなことが言いたいわけじゃなかった。
でも引き留める言葉は他に出てこなくて、自分でも不甲斐ない気持ちでいっぱいになる。
「結局仕事が終わらんかってん。持ち帰った分やらなあかんから」
苦笑い気味に言ったまろは、それからふと表情を消した。
「それよりないこ」と真顔で言葉を継ぐ。
身長差は数センチしかないはずなのに、この目に見下ろされると何も言えなくなる。
「鍵、やっぱりポストに入れていけへんかったやろ」
呆れたような…いや、何かを諦めているかのような声音で続け、まろはスッと俺の前に手を出した。
上を向いた大きな手の平が、促すように伸ばされる。
「……」
有無を言わさないような無言の圧力を感じ、俺は自分のポケットに手を入れた。
チャリ、と中で金属音がする。
ゆっくりとそれを取り出し、まろの方へ向けた。
その手の上に乗せようとしたところで、ふと動きを止める。
…イヤだな、と思った。
返すのは簡単だけど、これを返してしまったら自分たちの間の目に見えない何かも切れてしまいそうで。
「…やだって言ったら、どうする?」
思わずそんな無意味な質問をしてしまったのは、ざわざわとうるさいこの胸の鼓動のせいだ。
「……」
言われたまろは、片方の眉を持ち上げて俺を見つめ返した。
こちらの真意をさぐるかのように凝視してくるけれど、きっと俺の本音なんてこいつには読み取れないだろう。
まろの手のひらに今にも触れそうな距離で、俺は鍵ごと拳を握りこむ。
「…ないこ」
静かな声が俺の耳朶を打った。
「返して」
一語一語を置くように、まろの声がはっきりとそう告げた。
それ以上抗うこともできず、俺は小さく息をつく。
観念したように手の力を抜くと、鍵は俺の指をすり抜けてまろの手の平に落ちた。
鍵を受け取ったまろは、それをすぐに自分の鞄に入れる。
すぐにでも踵を返して行ってしまいそうな予感がして、俺は思わずさっきまで鍵を握っていた手を伸ばしてまろの服の袖を掴んだ。
「まろ、あの…」
縋りつくかのように言葉を継ぐ。
勇気を出すなら、ここだろ。
今言わなかったらきっと後悔する。
昨日酔ってなら言えた一言を、もう一度伝えればいいだけだ。
「昨日のことだけど、俺…」
今までは絶対に自分の気持ちは隠し通さなきゃいけないと思っていた。
でも今は、逆に言わなきゃいけないと思う。
中途半端に伝えた宙ぶらりんな状態が一番辛い。
視線も絶対逸らさない。
泳がせることなく瞳は目の前の男を見据えていたはずだった。
「…昨日…」
先に目を逸らしたのはまろの方だった。
視線をずらし、小首を傾げてみせる。
「何かあったっけ」
「っ……」
「昨日もう眠くて眠くて、何も覚えてないんよな」
言いながら、やんわりと制すように俺の手から袖を引き抜いた。
「……」
「で、昨日が何?」
重ねて尋ねられても、今更何も言えるわけがない。
俺の一番好きな声が、一番残酷な言葉を吐いた瞬間だった。
「…何でも…ない」
そう答える以外に、どうすれば良かった?
もう俺の目を見つめ返すこともなくなったまろに、それ以上言葉を重ねる勇気と気力はもう残されていなかった。
「じゃあまた明日な、ないこ」
軽く片手を挙げたまろは、そのままゆっくりと廊下を歩いて行ってしまった。
その後ろ姿を見送って、俺は胸の辺りでシャツをぎゅっと掴んだ。
痛むそこをごまかすこともできず、ただ耐えることしかできない。
息がしづらい。
浅くなる呼吸に思わず眉を寄せてしまった。
だって、まさかなかったことにされるなんて思ってなかった。
間違いで「好き」だと言ってしまったけど、どうせバレたならちゃんと伝えるべきだと思ったのに。
何もなかったことにされるのが、一番つらい。
「……っ」
自分の気持ちもこれまでの想いも全て、まるで存在してはいけなかったかのように否定された気がして胸が軋んだ。
コメント
4件
お話として見ている側とすると青さん気づいて……!!と思ってしまいますけど2人の中では心情なんて読み取れないし難しいですね…🤔 恋なんてまともにしたことが無いのでこんな気持ちになることもあるのかなぁなんて思ってしまいます!😖 知らないふりをされるともう術が無くなっちゃう気がしてここからどうなっちゃうのか続きが気になっちゃいます-`🙌🏻´- 青桃好きですがもっと沼ってきちゃってます😽💕
深夜にごめん〜! ないふのペア好きっ!これからも頑張って〜!
好きだったら好きな程こういうのって敏感になるんですよね……。 ないことにされるって本当に辛いですよね。振るなら振るでちゃんとはっきり降ってくれた方がスッキリしますよね。桃さん…まぁ、切り替えよで、直ぐにこれは結構ダブルパンチでヤバいですね。 桃さんを自分と置き換えると、すごい辛いですね。 今日もお疲れ様ですっ、.ᐟ.ᐟ いつも楽しみに待ってます.ᐟ.ᐟ