【お願い】
こちらはirxsのnmmn作品となります
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ご本人様方とは一切関係ありません
「ないちゃん大丈夫やったん?」
ビルの外に出ると、しょにだが壁にもたれかかって待っていた。
待たせたことを軽く詫び、頷いて返す。
「ん、大丈夫」
大した話じゃなかったと続けると、「…そうは見えへんかったけど」と苦笑される。
「こないだからあいつ、俺の家の合い鍵持ったままやってん。それ返してもらっただけ。なんか知らんけどなかなか返してくれへんでさぁ」
軽い笑い話にでもするように努めて明るい声を出す。
嘘ではないと内心で自分に言い訳をした。
ないこが、何を言おうとしていたのかなんて知らない。
鍵を返すのを「嫌だ」と言ったのは何の意図があったのかも分からない。
ただ「誰か」想ってる相手がいるないこから、何を聞かされるのも嫌だった。
間違えて抱きついてきたことを謝られる?
それとも間違いで「すき」だと告げたことを後悔される?
どっちもごめんだと思うと、自分でも無意識のうちにないこの話を拒絶した。
聞きたくない。
両手で耳を塞ぐ子供のように、心を固く閉ざしてしまう。
これ以上自分の内に入られたくなかった。
自分でだって自分の想いに気づいていなかったっていうのに。
「それは…返したくなかったんちゃうん?」
小首を傾げるしょにだが隣でそう呟く。
思いがけないことを言うものだから、驚いて目を見開きながら振り返ってしまった。
「……何で?」
「さぁ。ないちゃんが怒ろうが泣こうが、ないこハウスの合い鍵をりうちゃんがなかなか返せへんって例もあるしな」
「……くっだらね」
「ふふ」
ここにはいない最年少のことを思い出したのか、俺の毒づいた一言にしょにだは軽く笑う。
思わずつられるように笑ってから、俺はふと表情を戻した。
「…しょにださぁ、ないこに好きな相手がおるかどうかって知っとる?」
「え? 急に何の話?」
「…例え話」
それにしてはめっちゃ具体的やん、としょにだは苦笑い気味に首をひねった。
目の前の信号が点滅し始めたせいで、歩みを止める。
いつもならダッシュしていたかもしれない彼が止まったのは、俺の問いに向き合おうとしたからかもしれない。
「ないちゃんからそういう系の話聞いたことないし、そんな素振りもなくない? 今大事な時期やから、炎上しそうなことを避けたいっていうのもあるかもしれんけど」
…確かに、恋愛禁止と言われているわけではないけれどどこで誰の目があるか分からない。
大っぴらに恋愛できる立場とは思えないし、リーダーであるないこが進んでそうするような性格じゃないとも思う。
俺と同じことを思ったんだろう。
だけどしょにだは、そう言った後少し思案するように黙りこんだ。
やがてゆるりと顔を上げる。
「もし…、もしもやで? 仮にないちゃんが誰にもバレんように誰かを想っとるとしたら、それって…」
「『それって』?」
一瞬息を飲み込んだしょにだの言葉を、促すように繰り返す。
しょにだはもう一度考えこむように黙りこんだ。
横に立つ俺を振り返るように見上げて、凝視する。
数秒の沈黙。
だけど俺にはやけに長い時間に思えた。
それからやがてふと目線を外すと、「…いや、なんでもない。忘れて」と意味ありげに続ける。
「なんやねん。気になるやん」
「憶測で発言するんはよくないし、やめとく。まぁでもとにかく、鍵は返してもらえたんやろ? それやったら別にいいやん」
話をすり替えるように話題転換したしょにだ。
恐らくそれ以上食い下がっても答えてくれないだろう。
空気からそれを感じた俺は、「なんやねん」ともう一回不満げに口にしただけでそれ以上の追求はやめた。
それから話題は今後の新曲やライブの話に移り、そのまま元の話に戻ることもなく別れた。
「ただいまぁ」
自宅にたどり着いたところで、ドアにカギを差し込む。
誰からの返事も得られずはずがないのに、何故かそう口にしていた。
ゆっくりと回すとカチャンと錠のはずれる音がする。
重い扉を引き開き、中へ入った。
電気を点ける気にはならず、真っ暗な部屋を記憶を頼りに進む。
鞄を床に投げ、上着はソファに乱暴に放った。そうして自分はベッドにダイブする。
昨日あの後ろくに眠れなかったせいで、自分の家に戻ってきたと実感した途端に疲労がどっと押し寄せてきた。
加えて頭まで悩ませたせいで、今日の仕事の成果は褒められたものじゃなかった。
それでも今日はどうしても酒すら飲む気にはなれず、ベッドになだれこんだまま全身を俯せる。
「……」
シーツから、微かにないこの香水の匂いがした。
それに気づくと同時に昨日からのあの胸の痛みが一気に蘇ってくる。
「誰か」を熱っぽく見つめる虚ろな瞳と、少し掠れた声が「すき」だと告げるあの妖艶な笑みが脳裏をよぎった。
痛みをごまかすように目をぎゅっと固く閉じるけれど、そんなに現実は甘くない。
目を逸らそうとすればするほど、ないこが想う「誰か」がいるという事実を突きつけられる気がして。
(やばい)
鼻腔をくすぐる、このないこの甘い香水の匂いが好きだったはずなのに。
今は鷲掴みするように心臓をぎゅっと締め付けられる。
「泣きそう…」
思わず声に出してしまっていた言葉は、誰の耳にも届くことなく虚空へと消えた。
コメント
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すれ違いって難しいですよねꌩ ̫ ꌩ 青さんの気持ちも分かる。 けど桃さんの気持ちも分かるから恋愛って難しいんですよね。 つい全員の恋が実ればいいのに、って思っちゃいますよね 好きな人の恋愛話って聞いてたら息苦しくなりますよね。 逆に好きな人に否定されても同じことが言えるんですけど。 青さんも桃さんもお互いの事がちゃんと好きだから難しいんですよね(^_^;)