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一気に読み切ってしまいました!どちらも重くて、とても可愛いですね🫶
完結、ありがとうございました! 作者様のお話、どれも大好きなんですが、このお話特に大好きです♥️💛 💛ちゃんの白無垢姿、見たいです!笑 いつも素敵なお話、ありがとうございます🍏
お疲れ様でした、最高でした! 何回でも恋に落ちちゃうの……尊い🥰
目が覚めると、どこかの部屋でベッドに横たわっていた。腕には点滴が繋がってるからここは病院?え?なんで病院にいるんだっけ?
「元貴!?」
驚いた表情の若井が顔を覗き込んできた。
「わ、かい?」
喉が渇いてうまく声が出ない。
「ここは?」
「病院だよ。今、涼ちゃん手術してる…。」
「りょ、ちゃんが…手術…。…っ!!??」
一気に記憶が蘇る。
「若井っ。涼ちゃんは無事なの?!」
「落ち着けって!涼ちゃんは大丈夫だから!!」
「でも、手術ってっ。」
「頭切れてたから縫ってるだけだよ。」
「俺のせいだ…。」
「何があったの?」
「俺が階段踏み外して落ちそうになったのを、涼ちゃんが引っ張って助けてくれて。多分反動で涼ちゃんが…。」
「そっか。咄嗟に体が動いたんだろうね。」
「記憶がない状態であんまり知らない奴助けようと思う?普通…。」
「もうよく知らない奴じゃないってことでしょ。咄嗟に命を掛けちゃうくらいの存在になってんだよ。」
「それで涼ちゃん危険な目に合うんなら意味ない…。」
「そう言ってやるなって。」
「いや、だってさ?自分のせいで目の前で大切な人が死ぬかもしれなかったんだよ?トラウマレベルだって!」
もしも…なんてことがあったら、俺は迷わず涼ちゃんの後を追っていた。
「助かったんだからもういいじゃん。」
「だけど…。」
そこへ、チーフマネージャーが部屋へ入って来た。
「元貴君大丈夫?」
「俺は大丈夫。涼ちゃんは?」
「手術終わって病室に移った。麻酔でまだ眠ってるけど、静かにしてるなら少人数の面会OKだって。」
「会いたい!」
「そう言うと思った。はい、これ。」
チーフはカードを若井に渡す。それって…
「上層階に上がるためのカードキー?」
最初涼ちゃんが入院していた部屋は最上階の特別病室で、そこに上がるには専用のエレベーターに乗って更にカードキーが必要だった。
「前と同じ病室だから二人で行けるよね?」
俺と若井は頷く。
「で、その前にどういう状況だったのか説明してくれる?事務所発表もあるし、ご両親にも説明しないといけないし。」
「俺が足踏み外したのを涼ちゃんが引っ張って助けてくれて代わりに落ちた。涼ちゃんのご両親には俺から説明して謝罪する。」
「…分かった。事務所からも正式に謝罪する場を設けるから、あまり思いつめないように。」
「はい…。」
看護師さんを呼んで点滴を抜いてもらい、若井と二人で涼ちゃんの病室へ向かった。
最上階へ着き、いくつかある部屋の前を通り過ぎる。
(最初の時は今以上に落ち着かなかったな…。)
無事だと聞いてもその目で確かめないと信じられなかった。
一番奥の部屋へ着く。寝てるって言ってたから、ノックせずにそっと扉を開いた。
ベッドの上に座っていた人物がゆっくりこちらを向いた。
「涼ちゃん?!」
目覚めた涼ちゃんの姿に安堵すると同時に、なんとなく嫌な予感がした。
(なんだろう…、この既視感…。)
若井は病室に入ろうとしない俺に違和感を抱いたようで
「元貴?どうした?」
すると、涼ちゃんは俺たちを見て言った。
「どちら様ですか?」
「「!??」」
あぁ、そうだ。ついこの間見た光景だ。
「涼ちゃん…。」
記憶喪失中の記憶まで喪失したなんて…。
また最初からやり直しなの?
なんだか徐々に涼ちゃんが消えてなくなってしまいそうな気がして
胸が締め付けられるように苦しくなった
「なーんてね☆」
俺と若井は目が点になる。
「ただいま!元貴、若井。」
にっこりと笑った涼ちゃんは、俺が知ってる涼ちゃんの笑顔だった。
「え、記憶戻ったの…?」
若井の言葉に、涼ちゃんは頷き
「手術後治っててさ、どうせだからサプライズ的なことしたいなってチーフに話して。」
「あ、だからチーフが俺と元貴二人で行かせたんだ。なんかおかしいと思ったんだよな。いつも必ずスタッフ同行だったから。」
「記憶喪失なんて貴重な経験だったね。」
「マジかー。よかったな、元貴。」
若井が俺の肩を叩く。
「涼ちゃん。」
「なーに?」
「涼ちゃんなんだよね?」
「うん。涼ちゃんだよ。」
にっこり笑う涼ちゃんは間違いなくいつもの涼ちゃん。
泣くのは涼ちゃんの専売特許だけど、流石に涙が溢れてきた。
「もう、二度と会えないと思った!!」
「僕は僕だよ。」
「そうだけどっ。」
涼ちゃんに近づいて、手を握る。本当は抱きしめたかったけど、頭を怪我してるから我慢した。俺の涙が伝染して、若井も涙ぐみ、涼ちゃんに至ってはすでに大粒の涙を流していた。
「ごめん!俺を助けたせいで…。」
「元貴のせいじゃないよ。俺が助けたかったから助けたんだよ。」
「でも…。」
「元貴。」
「なに…?」
「何点?」
「え?」
涼ちゃんが記憶喪失になって初めてのお見舞いの時のことを思い出す。
「ねぇ、藤澤さん。」
「なに?」
「”涼ちゃん”って呼んでいい?」
「うん。いいよ。」
「俺のことも”元貴”って呼んで。」
「”元貴”。」
「うーん….30点。」
「涼ちゃんのくせに生意気。」
「あははは。」
そこへ若井は呆れ気味に
「俺もいるのに二人の世界に入らないでよ。」
「若井も心配かけてごめんね。」
「記憶戻って今度は逆にキーボード弾けなくなってるとかないよね?」
「あははは。あるかもね。」
「涼ちゃんならありそうだなぁ。」
そこへ、俺はずっと思っていた疑問を聞いた。
「涼ちゃん、チーム辞めたいとかないよね….?」
「絶対ない!だって元貴となら、このチームとなら、絶対楽しい嬉しいが勝つって知ってるし!」
あの日と同じように、楽しそうに涼ちゃんは笑った。
「本当に良かった…。」
俺は力なくベッドの端に腰掛ける。若井は
「涼ちゃん今回もしばらく入院?」
「そうだね。頭の傷がある程度治るまでかな。」
「そっか。ねぇ、元貴。」
「なに?」
「曲浮かびそう?」
それは、涼ちゃんがトラックに撥ねられたと聞いて俺と若井が涼ちゃんの病室に駆けつけた日。帰り際に若井が気を利かせて俺と涼ちゃんを二人きりにするきっかけを作った言葉。
「若様のウィンクサービスはナシ?」
「今回からは有料になりまーす。」
「金取んのかよ。」
俺は涼ちゃんを見ると、俺と若井の会話は分かってないがニコニコしている。この感じ、久しぶりだな。
「10曲くらい浮かびそう。」
「多すぎる。5曲に抑えて。」
「なるべく頑張る。」
「なるべくかい。」
若井は涼ちゃんを見て
「またお見舞いに来るね、涼ちゃん。」
「うん。」
若井は病室を出て行った。
「元貴は帰らないの?」
「気を使って二人にしてくれたんだよ。」
「そうなんだ….。」
涼ちゃんの表情が曇る。あれ?ここは喜ぶところじゃないの?
「僕、元貴にちゃんと謝らなきゃなって思ってたんだ…。」
「何を?」
「僕は…確かに元貴のこと、好きだった…。」
「”だった”…?」
なんで過去形なの…?
「ちゃんとさよならを言えなかった…。ごめん…。」
「…..!?」
何でその可能性を考えなかった?
自惚れていたんだろうか?
涼ちゃんが俺のこと嫌いになるはずないって
でも、もし記憶喪失の原因が俺だったら?
それに付随してチームのことも忘れていたんだとしたら?
涼ちゃんを苦しませて悲しませていた全ての原因は
俺….?
「涼ちゃん、気づかずにごめん…。」
「元貴…?」
「涼ちゃんが俺と別れたがってるって気づいてなかった…。」
「え、違っ。」
「ちょっと落ち着いて考えたいから俺もう帰るね。」
「元貴!待って!」
止める涼ちゃんを無視して帰ろうとしたら、
「痛っ!」
振り返ると、涼ちゃんが頭を押さえて俯いていた。
「涼ちゃん?!」
慌てて涼ちゃんに駆け寄る。
「看護師さん呼ぶ?!」
ナースコールに伸ばそうとした手を掴まれた。
「涼ちゃん?」
「元貴。記憶喪失中、僕はもう一回元貴に恋をしたんだよ。」
真っすぐに俺を見つめる涼ちゃん。その表情は嘘や冗談を言ってるんじゃないと分かる。
「でも、それは叶わぬ恋って分かってて。」
「どういうこと?涼ちゃんは涼ちゃんでしょ。」
「元貴からしたらそうかもしれないけど、記憶ない僕からしたら、別の人を想う元貴に横恋慕してる感覚だった。元貴の瞳には確かに僕が映ってるのに、元貴は僕を見ていなくて、悲しくて苦しかった…。」
まさか涼ちゃんがそんなことを思っていたなんて…。
「…ごめん、涼ちゃん。俺が涼ちゃんを苦しめてたんだね。」
「元貴は悪くないっ。僕が勝手に嫉妬してただけだから。でも、元貴はモテるからきっとこれからも僕は嫉妬したり悲しんだりすると思う。それはとても辛くて苦しいから、だから…。」
やめて
「元貴。僕と….。」
貴方の口からそれ以上聞きたくない
「結婚を前提にお付き合いしてください!」
「…………….へ?」
「ただの恋人同士より、婚約者っていうのが安心できるかなって思って…。」
俺は思わず倒れこみそうになるほど脱力してしまった。
「…ねぇ、涼ちゃん。さっきの”好きだった”だの””ちゃんとさよならを言えなかった”だのはどこに繋がってるの…?」
「記憶喪失中の僕が元貴のこと好きだった。でもこのままじゃ駄目だと思って身を引こうとした矢先、ちゃんと元貴にさよなら言う前に僕に記憶が戻って…。」
成程。記憶喪失中の涼ちゃんは一つの個体として涼ちゃんの中で確立されていて、さよならを言えなかった記憶喪失中の涼ちゃんの代わりに今の涼ちゃんがさよならを言おうとしたってことね。
「紛らわしっ!!」
これ下手すりゃ”すれ違い悲恋”っていうベタな展開生むところだったじゃん。
「涼ちゃん、安心して。俺にとって涼ちゃんは涼ちゃんだし、涼ちゃん以外興味ないし、見ないし、涼ちゃんを離すつもりはこれっぽっちもないから。」
「よかった。婚約してくれるんだね。実は断られるんじゃないかとドキドキしてたんだ。」
「結婚しよう。」
「え?」
「ママさんには許可貰ってるし、あとはパパさんに貰えばいい。」
「え?え?!結婚?許可貰ってるって…。」
「涼ちゃんとママさんが言い合いっぽいことした時『うちの涼架をよろしくお願いします』って。」
「あれは本当にそういう意味じゃ…。」
「大丈夫。今俺たちの周りでは結婚ブームだから。」
「そうなの?」
「退院したら小さい教会で結婚式でも挙げる?」
「式はいい。写真は撮りたい。」
「いいねぇ。ドレス?和装?」
「流石にドレスはいいかな。あ、でも白無垢は面白そうだよね。」
「面白そうっていうか、似合いそう…。」
頭の中で白無垢を着る涼ちゃんを想像する。違和感は全くなかった。
「とにかくまずは元気に退院を目指して。」
「うん!」
後日、事務所発表で涼ちゃんが階段から落ちて怪我したことが発表されたが、涼ちゃんの強い意向で俺を助けたことは公表されず、涼ちゃん自身が足を滑らせて落ちたことになった。
立て続けに悪いことが起きたことから”涼ちゃん前厄じゃね?”というSNSのコメントがバズり、”涼ちゃんはやはり女性だったww””女神にも厄とかあるのか””来年本厄だからお祓い行った方がいい!”などのコメントが次々と投稿された。
「でも、なんで涼ちゃんはチームのことだけ忘れたんだろう….?」
諸々落ち着いた頃、やっぱりその疑問に辿り着く。
「そのことなんだけど、多分逆に強く思いすぎてたのかもしれない。」
「どういうこと?」
「あの事故の瞬間ね、”手を怪我したらチームに迷惑かけちゃう!”と思って咄嗟に体丸めて手をかばったんだ。幸い大きな怪我無かったけど、チームのことを強く思ったことと、トラックに撥ねられるというショッキングなことで相乗効果が働いてチームの記憶だけなくなった可能性があるってJAM”S先生言ってた。」
「世話になってる担当医の名前くらい覚えなさいよ。」
「で、階段で”元貴を助けなきゃっ!”て強く想ったのと落下して頭打ったのがトラック事故と同等のショックとなって記憶が戻るきっかけになった….ってのが先生の見解らしい。まぁ実際どうか分からないけど、戻ってよかったよね。」
「のほほんと言ってるけど、二回目は本当に死ぬかもしれなかったんだよ?!無茶しないでよ!」
「だって、元貴いない世界なんて耐えられないし。」
「え….?」
「元貴を忘れていたなんて信じられないくらい、元貴は僕にとっての心臓なんだよ。元貴が死んだら僕も死んでしまうから。だから死なないで。」
「なにその脅迫。」
「ずっと一緒に居てくれるよね。」
「そりゃもちろん。」
まるで誓いのキスのように、そっと唇触れる。
「今日は日本酒味じゃないんだね。」
俺の言葉に、涼ちゃんはふふふと笑った。
【終】
ここまでお付き合いいただきましてありがとうございました。