新世界運輸社長は徹底抗戦を宣言し、親会社である原商事から派遣された三人の社外取締役に対して、会社の建物に立ち入ることを禁止した。
それに対して、原商事側は兵糧攻めで対抗。新世界運輸の売り上げの半分を占める原商事発注の荷受けがある日突然ゼロになった。社長派社員は続々と反社長派に寝返り、もはやここまでと社長は辞任を表明。原商事は原商事副社長の原光留を新世界運輸の新社長として送り込んだ。
新社長は体制の一新を図り、その第一歩として無実の罪をでっち上げられ旧社長派によって会社を追放された元専務をはじめとする元社員たちの名誉を回復し、会社に呼び戻した。そして、彼らのうちから特に有能な者を数人選抜し、社長直属の不正追及チームを組織した。
不正追及チームは旧社長派社員による不正を次々に暴き、責任者を処罰した。処罰される前に辞表を出す者も多かったが受理されなかった。罪状の重い者の何人かは懲戒免職処分となり、退職金の支給がなかったばかりではなく、会社に与えた損害に対する賠償金の支払いまで請求された。
管理課長の慎司も不正追及チームから呼び出しを受けた。
「麻生課長には資料にあるように収賄や横領など会社に一千万円以上の損害を与えた嫌疑がかけられています。釈明はありますか?」
「誤解です。すべて否認します」
「分かりました。再調査します。一ヶ月後にまたお話をさせていただきます」
慎司への尋問はこれで終わり。聞いていた話とはずいぶん違う。慎司は胸をなでおろしたが、光留は香菜さんを通じて私にその情報を漏らしていた。慎司の口座にお金があるうちにそこからお金を全額引き出して逃げるように、と。
「それって窃盗なんじゃ……」
「大丈夫。警察は家族間のお金の問題には民事不介入を理由に介入しないから」
「いいことを聞きました」
「いよいよクライマックスね」
と香菜さんは力強くそう言った。
私が帰宅すると、凛と竜也の姉弟がリビングで何やら深刻そうに話している。
「つまり公立中学に転校になるかもしれないってこと?」
「そう。今まで私の学費はおじいちゃんが出しててくれたけど、もう出せないって。お金がないわけじゃないと思うんだけど……」
「お父さんにも聞いてみた方がいいんじゃない?」
「そうね」
そのとき凛と目が合った。いつも私に見せる嫌な顔になっていた。
「あんた、三十五歳だっけ? グズなあんたでも風俗なら勤まるんじゃない? 風俗で働いて、私の学費を稼いでよ。セックスなんて簡単じゃん。裸になって寝てればいいんだから。ただなるべく遠くで働いてね。あんた一応身内だしさ、母親が風俗で働いてるってバレたらみっともないもんね」
私は何も答えずリビングを出て、LINEグループに短いメッセージを投稿した。
〈凛の動画を拡散して下さい〉
まだ十四歳の実の娘の行為動画の拡散を望む私は母親としては間違っているに違いない。でも凛と竜也の母であることをやめた私にはもう関係ない。
動画は凛の通う学校の生徒たちが開設した非公式の学校掲示板に投稿された。誰が投稿したかたどれないように、海外サーバーを経由して投稿されたそうだ。凛は翌日登校したものの午前中で早退。手首を切って自殺を図りそのまま入院した。
数日後、動画の存在が学校の教師の知るところとなり、校則に厳しい学校だったから不純異性交遊を理由に退学勧告され、舅が学校に出向き退学手続きをした。投機に失敗して財産を失い孫の学費を出す余裕のなくなった舅にとっては渡りに船だっただろう。