テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
5巻ネタバレ注意
ほぼ妄想と構造でできてる
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「はああああ」
禁酒を言い渡され早数年。
もう慣れたものかと思ったがアル中を極めぬいた体はふとした瞬間に相も変わらず酒が飲みたいと訴えてくる。元々やめるつもりなど一切無かったし、生涯ホストをやり続けられるものならしたかったし、アルコールが原因で死んでもむしろ、ホストとして生きて死ねるなら名誉でもあると思っていた。そんな男が、たった一人が原因でお酒をやめていること自体が異常なのだ。
「うう、お酒が恋しい」
「まだそんなこと言ってるんですか」
そう、今茶碗片手にご飯を食べながら僕の隣に座っているこの男、ハジメこそが僕にお酒を辞めさせた張本人なのである。
「重度のアル中だったからねえ、そう簡単に辞めれるもんじゃないよ」
「それでも今はやめれてるんでしょう?まさか本当にやめるとは思ってませんでしたよ 」
「君がいうかい?僕にやめさせた張本人の君が」
少しイジワルに言ってやると、彼は悪びれもせず「アナタがあのまま死んでいたら目覚めも悪いですしね、言うだけ言っただけですよ」
と口悪く言い返してきた。
「ていうか本当に禁酒してます?隠れ酒とか 」
「してないよ、も〜ハジメ君は心配性なんだから」
「…そんな事ないですよ」
皿の中身が2人とも空っぽになったのを見て、ハジメ君は一言言い残し、皿を片付けにいった。
僕たちは今同居している。元々僕がホストをやめて数ヶ月後くらいから、ハジメ君はよく家に来るようになったし、ハジメ君は自分の家への執着もほとんどなかった。僕が同居を提案してみたところ、ハジメ君は最初こそ少し申し訳なさそうに断ってきたがもう少し押したら首をたてにふった。
文字通り、金は余るほどある僕としては、家事を手伝ってくれる人が来たことは純粋に助かった。
「コーイチさん、今日お風呂どっちから入ります?」
「先入っていいよ〜今は動きたくない気分、それとも一緒に入る?」
「っ、遠慮しときます」
「まあこんな老いぼれと一緒に入ってもアレかあ、昔のコーちゃんなら入ってたりした? 」
「昔も今も変わりませんよ」
その何気ない言葉に、僕の心臓はちょっと痛くなった。
シャワーの音がなりやみ、少ししたあと少し変わったパジャマを来たハジメ君が戻ってきた。思えば最近、ハジメ君からは昔より大人の色気を感じる気がする。僕が知らないところで遊んでいるのか、ただ単に年の積み重ねが彼をそうしているのか。僕には知るよしもないし立場でもない、その事実にまた心臓が締め付けられる。
「最近ハジメ君、色っぽくなった?」
「はい?なんでそんな突然」
「別に理由はないけどね、なんとなく」
「元ナンバーワンホストに比べたらなんでもないですけどね」
「そんな元ナンバーワンホスト様ももう歳だよ〜はあお酒飲みたい」
「まだ言ってるんですか?ぶっ叩かれたくなかったらやめてくださいね」
「老体大事に!」
僕がそう言うと、ハジメ君は口を少し歪ませ僕の隣に座ってくる。
「ちゃんと大事にしてますよ、目の前で倒れたら、僕、本気で怒っちゃいますから」
本音が混じったその声色に照れ隠しの笑みを返す。
「なにそれ、惚れちゃうじゃん」
「惚れればいいじゃないですか」
「…え?」
柄にもなく動揺してしまった僕にハジメ君は焦って「冗談ですよ、コーイチには通じませんでしたかね」と付け足した。
僕も何か言い返そうと思ったけど、頭と喉は上手く働いてくれなかった。
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