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窓から見える空が宵闇に染まる頃、病室には賑やかな声が響いていた。
「先輩、退院の日にちが決まったんですか」
そう、里美と三崎君が仕事終わりに立ち寄ってくれているのだ。
この二人と居ると、気持ちが前向きになれる。
「うん、昼間に担当医の先生からお話があって、もう痛みも引いているから、自宅療養でもいいって言われて……」
「美緒さん、それなら、ちょうど良いね。この前話したマンション、OKでて直ぐに入居できるよ」
「ホント⁉ 良かった。退院後にさっそく移らせてもらおうかな。お布団だけあればどうにかなりそうだし」
三崎君のおじさんが持っているマンションに空きがあるからと、紹介してもらった物件。その審査が通ったなら、独り暮らしが始められる。
「先輩、良かったですね。わたし、引っ越し手伝いますよ」
「そうだよ。いくらでも言って」
「ありがとう。今回も甘えさせてもらおうかな」
家具などはネットで注文して、配送から設置までしてくれるお店で頼むつもりだけれど、カーテンをつけたり、布団を仕舞ったりなど、ケガも治り切っていないうちは無理もできない。二人が手伝ってくれるならすごく助かる。
「……正直言って、自宅に帰るのすごく不安だったから、本当にうれしい」
健治とふたりきりの空間で優しくされたら、過去の想い出に引きずられ、離婚の決心が鈍りそうな自分が怖かった。
「いいんですよ、先輩。思いっきり甘えちゃってください。うーんと甘やかしてあげます」
「ふふっ、お礼に美味しものご馳走するね」
「あっ、それと頼まれていたもの。持ってきましたよ」
そう言って、里美は茶色い封筒をバッグから取り出した。
中身は、離婚届の用紙。今はコンビニのマルチコピー機で受け取れるから、お昼休みに取って来てもらったのだ。
「ありがとう。変な事、頼んじゃってごめんね」
私の言葉に、里美はふわりと微笑んだ。
「いいんですよ、先輩」
「やっと、決めたんですね」
里美に言われ、私は強くうなづいた。
「うん、さすがね……。不倫相手に、こんな大ケガを負わされて、許せるほど寛大にはなれなかったの」
「そんなの当たり前じゃないですか! 打ちどころが悪ければ、障害が残ったり、命を落としていたかもしれなかったんですよ!」
「……本当に骨折だけで済んだのは、運が良かったのかもって思う。落ちた時は、さすがに死を覚悟したから」
私の言葉に、里美と三崎君は顔を曇らせる。
「美緒さん……」
「あ、変な空気にしっちゃって、ごめんね。でも、見ての通り回復しているから大丈夫」
カラ元気かもしれないが、私は笑顔を二人に向けた。
「そうですよ。悪縁は早く断ち切らなくちゃ!」
里美が小さくガッツポーズをして、私を励ましてくれる。
「うん、弁護士さんも探しているし、三崎君のおかげで新居も借りれたし、少しづつ前に進めているの」
早々に弁護士さんに相談をして、果歩の罪を白日の|下《もと》に晒したい。
「美緒さん、応援しているよ」
三崎君の優しいダークブラウンの瞳が私を見つめる。
「ありがとう。三崎君」
すると、横から里美の声が飛び込んできた。
「わたしだって、最大限の応援します!だから、なんでも言ってくださいね」
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