裏切り者には制裁を、裏切り者には訣別を。 我が魔術師の集いに要らぬ存在は排除し、秩序を保つ。
そうして完全な魔術師達が集まった暁には、真なる支配者がこの世を統べるであろう。だが、まだその時では無い。
裏切り者は多数存在する。
他の術師に加担した者、魔術師である事を捨てた者、妖術師と歩む事を選んだ者。そして、自身が魔術師である事を忘れた者。
「その全てを殲滅させるのが、私の役割です。例え如何なる人物であろうと、誰にも邪魔はさせませんよ」
魔術師にのみ伝わる情報の中で、一時期姿を消し、その行方を眩ませていた人物が一人。
京都で妖術師を迎え撃つべく、大人数の仲間を各所に配置して待機している魔術師の大将の前に現れる。ゆっくりと、宙を降下して行く。
「………何が言いてぇんだ」
瞬間、京都の魔術師は、マントを羽織っている魔術師の首に短刀を差し出し、寸前でそのまま停止する。どちらも動揺する事無く、互いに互いを睨み合っている。
「この戦いで、妖術師とその仲間には一切、手を出さないでください。『殺せ』と言ったのは僕ですが、事情が変わりました」
「………へぇ、妖術師の肩を持つのか?」
「仲間になる、言う訳ではありません。少しばかり厄介な相手が出来たモノで、それらを排斥するまで妖術師には手を出さない約束になっているのです」
魔術師と妖術師のどちらをも壊滅させる程の力を持つ何かが、両陣営に迫って来ている。 油断すれば、どちらもが破壊され、亡きモノにされるだろう。
「約束、ねぇ。俺たちはソレが終わるまで待機って事か?」
「ええ、それが終わったら後はご自由にどうぞ」
京都の魔術師は首元に差し出していた短刀を仕舞い、そのまま踵を返して闇夜に消えて行く。真っ暗で、何も見えない空間へと消えて行く。
マントを羽織った魔術師………否、魔術の道化師は高い高いビルの屋上でただ一人、夜空を見上げている。
「最強の妖術師を育て上げた呪術師、彼を殺さなければ………全てが終わってしまいますからね」
魔術の道化師はそう言い残し、ビルの屋上から飛び立った。自然落下せずに地球の重力に逆らい、スイスイと空中を歩いて行く。
そのまま京都の魔術師と同様に、魔術の道化師は漆黒の空間へと姿を消した。
………それをたまたま目撃していた一般人は眠たい目を擦り、今見たものが現実か非現実かを必死に考えていたのは、別の話。
戦いが終わった後、俺は残った妖力をフルで回し、再び『空間転移』を使って氷使いと晃弘の居る場所へと戻る。
妖力切れで少し倒れかけたが、晃弘に支えてもらってどうにか堪えることが出来た。
「………氷使い、こいつに魔力を分けて延命させる事は出来るか?」
「あぁ、出来るとも。魔力は万物共通の動力源だからね」
氷使いの魔力を創造系統偽・魔術師に渡し、俺の『黒影・深層領域』を使って創造系統偽・魔術師の腕となる部分を補う。
少し歪な形になってしまったが、腕として成り立つなら特段問題は無い。
「いいぞ、氷使い。この辺りをなるべく頑丈な氷で包み込んでくれ」
周囲を氷で囲い、人間に危害が加わる事無く、尚且つ地面が抉れる程度の最小限の被害に抑えて創造系統偽・魔術師の蘇生を行う。
方法は至って簡単、分け与えた魔力を全部消費し、あの時に放った光をもう一度再現する。『湖の乙女よ、導き給え』を再び放つのだ。
「……いいか?行くぞ?」
補助腕から生成された小さな剣から、微かな光が溢れる。それは二度、俺を焼き殺そうとしたあの光とは思えない程にか弱かった。
弱々しい光が収まると同時に、創造系統偽・魔術師の肉体がボロボロと土のように消えて行く。
「再構築を、開始する」
………あの時の様に行くのか不安は残るが、ただ起こる事実を受け止めるのみ。
その場に残され、光を失った小さな剣が薄緑色に輝く。このタイミングで光出したという事は、間違いなく『再構築開始』の合図。
「―――魔術師の消失を確認しました。演算の 結果、現時点で魔術師殲滅作戦は不可能と判断。 魔術師殲滅作戦を再び軌道に戻すには、最重要人物を蘇生させる必要があります」
「偽・魔術師の識別番号確認:鷹羽真悟。蘇生許可、―――承認。肉体を再構築し蘇生を行います。 蘇生まで、残り180秒。100、60、20………創造偽・魔術師の蘇生を確認」
『再構築された肉体を召喚します』
足元から徐々に、人間の皮膚と思わしき物体が生成されて行く。
完全に脚が完成すると同時に、履いていたズボンと靴が一瞬で身を包み、そのまま上半身も同じように元に戻る。―――蘇生は成功したのだ。
「………僕の体は一時間前の僕と同じ。この場でもう一度、一般市民を含めたあなた達を一掃出来ますが………僕はあなたに負けた身です」
「これから僕は―――否、私はあなたの剣となりましょう。ご自由に、いつ以下なる時でもお使いください」
騎士道、と言うやつだろうか。なんとも律儀な性格をしているが、少しばかり扱いにくそうだ。
これで、晃弘に氷使い。そして俺と創造系統偽・魔術師の四人が揃った。 本来の目的である京都の魔術師と戦う為の戦力は十分。
「それじゃ、行くとするか!!」
日が完全に沈むまで残りあと少し。日が昇るより早く決着をつける為に、俺たち妖術師一行は予定より数刻早めに出発することにした。
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