テラーノベル
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うとうとしつつ時折り目を覚ますと、車はうねうねとした山深い道を登っていた……。
「智香、もう着きましたよ…」
耳元で声がかけられて、目をこすりながら「うん…」と顔を上げた。
「よく眠っていましたね。目的地に着いたので、降りましょうか?」
彼が先に車を降りて助手席のドアを開けると、私に手を差し伸べた。
「ありがとうございます」彼の手に支えられて座席から立ち上がると、丸太で組み上げられた大きな三角屋根のログハウスの前に、車は停められていた──。
「ここは……」と、隣に立つ彼の顔を仰いだ。
「ここは秘密の隠れ家だと、父が生前によく話してくれました」
「お父様の…秘密の隠れ家…」
さわさわと揺れる背の高い木立に囲まれた木の家には、お父様のあたたかな温もりが宿っているようにも感じられた。
「このログハウスは、父が母と結婚する前から持っていたもので、私と父以外は知らないものなんですよ」
彼が指の先を唇にあてて、ふっ…と小さく笑みを浮かべる。
「父はここへふらりと行ってしまうことがあって、私は子供の頃、連れて行ってほしいといつもせがんでいました。けれど、『ここはお父さんの秘密の場所だからね』と父は笑って、『おまえが大きくなって、愛する人ができたら二人で行ってみなさい。これは約束の鍵だ…必ず一人ではなく、二人で行くんだよ』そう言って、この鍵を渡してくれたんです」
彼が話して、鍵を握っていた手を開いた。
「そうなんですね…」
「君と出会わなければ、ここへ来ることもなかったと…」
言って私の手をそっと握ると、彼が扉の鍵をカチャリと開けて、家の中へ足を踏み入れた──。