テラーノベル
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しばらく誰も訪れる人のなかった家は、ひっそりとして薄暗く静まり返っていた……。
「まずは、掃除をしましょうか…」
うっすらと白く埃が積もった家の中を見回して、彼が呟く。
「はい」と頷いて、さっそく掃除に取りかかった。
二人で分担をして、床や家具の汚れを取り払っていく。窓を拭いて照明の曇りを拭き取ると、部屋が明るく照らされるようになって、ようやくひとごこちがついた。
掃除が済んで改めて見ると、中にはあまり置いてあるような家具もなく整然としてシンプルな様は、彼の部屋の雰囲気にもなんだか似ているようで、やっぱり親子なのかなと微笑ましくも感じられるようだった……。
木製のテーブルとセットになっている木のベンチチェアーに座って、ほぅーっとひと息をついていると、
「部屋を片付けていたら、こんなものを見つけました」
そう言って私の隣に並んで腰を下ろした彼が、アルバムらしき一冊をテーブルの上に置いた。
「写真…ですか?」
「一緒に見てみましょうか?」
ハードカバーの厚めの表紙を開くと──
そこには、彼の幼い頃からの写真がたくさん収められていた。
「あっ……」と言ったきり、彼が声を失う。
以前に写真を撮ったこともあまりなくてと話していたのが思い出されると、
「写真、あったんですね…」
私まで感慨深く感じられるみたいだった。
「ええ、この写真は、私も知らないうちに撮られていたもののようですね」
アルバムをめくりながら一枚一枚を彼と見ていくと、どれも目線こそ向いてはいなかったものの、それが逆に自然な感じでありのままの姿が写し撮られているようにも思えた。
「これ机に向かっているところですね…先生の小さい頃、かわいいです」
「かわいいなどと言われると、照れますね…本当にこんな写真をいつの間に……」
彼が呟いて、目尻に滲んだ涙を指先でスッと横に拭った。
コメント
1件
お父様は、ここで一人でアルバムを見ていたんでしょうか。 いつか愛する人と一緒に来て、このアルバムを見てくれる事を願っていたんでしょうね。