練習室の扉を開けた瞬間、冷房の風と、まっすぐな視線が同時に飛んできた。
灰色のパーカーを着た少年が、音もなくこちらを見上げた。
その目だけで、空気が変わる。
知らないはずなのに、胸の奥がざわついて、落ち着かない。
「……こんにちは。今日から参加します、莉梨奈です」
自分の声が思ったより緊張しているのがわかる。
YM「りりな?」
少年が小さくつぶやいた。
「うん。りりなって言います」
YM「へぇ……なんか、名前かわいいな」
不意打ちすぎて、胸がドキってした
初対面でそんなこと言う?
でも、その声が妙に優しくて、胸の奥がじんわり熱くなる。
YM「俺、YUMAって言います。」
少年──YUMAくんは、少しだけぎこちなく笑った。
その瞬間、さっきまで怖く見えた目が、急に子犬みたいに見えるから不思議だった。
他のメンバーも次々と集まり、全員が揃った。
けれど、気づくと視線は無意識にゆうまくんを追いかけていた。
YM「莉梨奈、緊張してんの?」
さっきより近い距離で、ゆうまくんが覗き込む。
「……してるよ。初めてだし」
YM「大丈夫やって。俺も最初ビビってたし」
関西弁がこんなに柔らかく響くなんて、知らなかった。
Kくんが全員をまとめ始めると、メンバーは円になって座った。
YM「ここ、空いてるで」
気づけば、ゆうまが隣の席を軽く叩いて、当たり前のように誘ってきた。
え、近くない?
心臓がばれそうなほどうるさい。
でも──
「ありがとう」
気づけば、ゆうまくんの隣に座っていた。
ゆうまくんの体温がほんの少し触れそうで、それだけで呼吸が浅くなる。
顔合わせが進むにつれ、メンバーの空気は少しずつ柔らかくなっていった。
だけど、意識はずっと、、横にいるゆうまくんに吸い寄せられたままだ。
視線がふっとぶつかる。
そのたびに、ゆうまくんは照れたように目をそらす。
なのに、またすぐこちらを見る。
なんでそんなに、見てくるの?
YM「……莉梨奈」
声が近い。
心臓が跳ねる。
「なに?」
YM「なんかさ。初めて会った気せぇへんねん」
「え?」
息が止まる。
YM「分からんけど。前から知ってたみたいな……そんな感じする」
そんなこと、ほぼ初対面な私に言う?
でも。
不思議と、私も同じ気持ちだった。
この人とは、きっと何かが始まる。
そんな予感だけが、確かに胸の奥で灯っていた。
まだこの時は知らなかった。
この出会いが、
この目が、
この声が、
後に「日本一のアイドル夫婦」と呼ばれる物語の最初の1ページになるなんて。
そしていつか、
幸せすぎて怖くなるほど愛しく思う日が来てしまうことも──
まだ、知らなかった。
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