テラーノベル
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ひるのひかりが、窓辺の板をやわらかくなでていました。
小屋の中はしんとしていて、かまの火も、この日はちいさく息をしているみたいでした。ときどき、木のはぜる音がひとつだけして、そのあとはまた、草のこすれるような静けさにもどっていきます。
机のそばにすわったリルは、ひざの上に輪をのせていました。
草を編んだところは、さらさらと指にふれます。葉の通ったところは、朝の水をひいた石みたいになめらかで、継ぎ目にさした羽だけが、そこへ小さな空気を残していました。
ひとつは、もう前にできています。
もうひとつは、きのうのうちに、棚の端へ立てかけられていました。
そしていま、リルの手の中にあるのが、みっつめでした。
輪は、まるくきれいにそろってはいません。
手をひろげたくらいの大きさで、どれも、やさしくゆがんでいます。けれど、そのゆがみかたが、それぞれちがっていて、見ていると、森の小道が三本ならんでいるようでもありました。
リルは、草の先を指でおさえ、葉を橋のように通していきます。
ひもをひと巻きして、そこで手を止めました。
羽は、まだ机のすみにあります。白っぽいものと、うす茶のものと、ひかりにあたると銀みたいに見えるものが、布の上にちょこんとのっていました。
窓から入った風が、その羽の先をわずかにゆらしました。
リルは、ひとつをつまみあげます。しばらく輪を見て、羽を見て、また輪を見ました。
それから、継ぎ目へ、すっと差しました。
そこでようやく、手がとまりました。
リルは輪を持ちあげて、両手のあいだで向きを変えます。
葉のかさなり、草の編み目、羽のついた場所。目はあちこちへ移るのに、顔はいつものままで、眠たげなままです。けれど、たしかめる指先だけが、いつもよりきちんと動いていました。
小屋の壁ぎわでは、グルゥが布をたたんでいます。
厚い手で角をあわせ、ずれたところをなおし、たたみ終わると、となりへ重ねていくのでした。
ときどき火を見て、枝を一本だけ足します。
それからまた、何も言わずに布へ戻るのでした。
リルは立ちあがって、棚の前へ行きました。
先にできていたふたつを、そっと床へおろします。
それから、いましがた仕上がった輪も、そのとなりへ置きました。
みっつ。
まるいものが、ならびました。
ちいさな影が、床の上でくっついたり離れたりしています。窓のひかりがうごくたび、羽の先だけが明るくなって、葉のところはやわらかい緑を深くしました。
同じように見えて、みなちがう形でした。
ひとつは、右のほうがやや広く、
ひとつは、上の葉がななめにかかり、
いちばん新しいものは、下の草編みが、ほんのわずか厚く見えます。
リルは、その前にしゃがみこんで、しばらく見ていました。
手はひざの上にのせたままです。
けれど、ときどき視線だけが、輪から戸口のほうへ、また輪へともどります。棚のあいたところや、窓の外の細い道のほうも、一度だけ見ました。
グルゥが近くへ来ることはありませんでした。
布を棚へ置き、水差しを机のはしへ寄せ、火が大きくなりすぎないように枝の位置をなおすだけです。
それでも、リルのそばには、ちゃんと気配がありました。大きな木が、風のある日にもそこに立っているみたいに、ただ静かにあります。
やがてリルは、いちばん新しい輪の羽を、指の腹でひと撫でしました。
それから、ならんだみっつを見て、小さく息をつきます。
グルゥはそちらを見て、ひとつだけ、うなずきました。
リルも、なにも言いません。
ただ、輪のあいだの幅を、ほんのすこしそろえました。
みっつのやさしいゆがみが、床の上でおとなしくならび、午後のひかりを受けています。
小屋の外では、風が木の枝を鳴らしました。
その音は遠く、小さく、すぐにほどけていきます。
リルはそのまま、もういちどみっつを見ました。
見ているあいだじゅう、手は静かで、目だけが、いつもよりまっすぐでした。
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柘榴とAI
