テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「そうか。やっとふたりはくっついたのだな。ご苦労だった」
オーウェン司祭から報告を聞いた陛下がふぅと大きく息を吐き、大きな執務机と対になっている立派な椅子の背もたれにぼふっともたれた。
「陛下も大変ですね」
オーウェン司祭は伊達眼鏡を外し、髪の毛を手でくしゃくしゃとし、カツラを外す。
もうその場に「オーウェン司祭」はおらず、長身で筋肉の均整の取れた青年が立っている。
「お前もな。とんでもない王命をよくやり遂げたな。アーデン嬢の救出が少し間に合わなくて怪我を負わせてしまったがよく救出してくれた」
「本当にそうですよ。いくら俺が陛下の優秀な影だからと言って、無茶を言い過ぎですよ。この案件、俺でなければやり遂げられなかったと思いますよ。だから、そのところよろしくお願いしますね」
「全くお前は… そういうところが抜け目がないと言うか、可愛くない。前司祭の方が幾分かまだ俺に従順だったな」
それでも陛下は上機嫌だ。
「長かったな…」
陛下がポツリと呟くように言った。
「ええ、本当に。ルーカス様がアーデン嬢に学園で恋をしてから8年ぐらいにはなりますかね」
ふたりは昔を見るかのように遠い目をしながら、ふふふと微笑んだ。
「そうだな。ルーカスが恋をしているようだと報告を受けてからが長かったな。その間にいろいろあった。弟夫妻の事故があって、まさかルーカスがこの件に関して勘付くとはな」
ふたりは顔を見合わせてため息をお互いに吐き、陛下は話を続けた。
「だから、あいつはもう誰も不幸にするまいと家族を作るつもりも結婚をする気もなかったようだしな」
影の青年は大きく頷いた。
「前モルガン公爵ご夫妻の事故が実は王弟を担ぎ上げる動きを阻止するための事故に見せかけた暗殺だと、王都の学園におられたルーカス様は気づくはずもないのにあれは恐らくいろいろと気づいておられますよね」
「優秀すぎるからなあいつは。モルガン公爵家を自分の代で終わらせ、二度と同じようなことが起こらないようにしようとしたんだろう。本当に優秀だよ」
「恋は朴念仁ですけどね」
ニヤニヤする影の青年を見ながら、陛下は苦笑いをした。
「表向きは「両親の死が悲しくて思い出したくもないから領地には帰れない」だったか。傷ついているように見せ「冷酷・冷淡・冷静の氷の次期宰相候補」というふたつ名を隠れ蓑に与えられた仕事だけを一所懸命にしていると見せかけて、いろいろと王家の政敵を探って暗殺の黒幕を探しているようだな。ルーカスにとって弟夫妻は本当の親以上の存在だったんだろう。私も弟夫妻に可愛い我が子を託して良かったと心から思っている。私は表立って動けないことをわかっていてルーカスはひとりで犯人捜しをしているようだが、とりあえずルーカスの恋の成就に私は一役買えたぞ」
「一役買えた……って、それはアーデン嬢に「王命」を出しただけではないですか。アーデン嬢にしたら、最初は辛かったと思いますよ。いや、辛そうでしたよ。これからは大事にしてあげてくださいよ」
影の青年は、少しあきれ顔で陛下に進言した。
「もちろんだ。アーデン嬢は少しも思っていないだろうが、私の娘になったんだ。それにいままでにトンプソン侯爵家には災害の支援が遅れて苦労をかけた。今回はちょうどいいきっかけだった」
「やっと災害支援の制度の見通しが立ったんでしたか?」
「ああ。ようやくな。トンプソン侯爵家の領地の被害の支援には間に合わなかったから、なんとかしてやりたかったが、今回良い理由ができて本当によかったよ」
陛下がおもむろに執務机の引き出しを開けて、一枚の絵姿が入った小さな額を出した。
「それは?」
「ルーカスの実の母親の絵姿だよ」
金髪で色白の綺麗な女性が微笑むその絵姿を愛おしそうに陛下は撫でた。
「ルーカスに私は父親らしいことが出来ているのだろうか?次はルーカスの大事な嫁のアーデンを襲った真の黒幕をルーカスと捕まえるからな」
「えっ?」
陛下に鋭い眼光を向けられて、影の青年は姿勢を正した。
「さて、「オーウェン司祭」次の仕事だよ。アーデンを襲うように直接指示をしたのはシェイラ嬢だ。しかし、これには黒幕がいる。シェイラ嬢は無意識で操られていた」
影の青年は唖然としている。
「ルーカスはもう動いているぞ。ぼやぼやせずにお前も早く加勢しろ」
「へい、あっ、はい! 」
そう言うと、影と呼ばれる青年は足早に執務室を後にする。
(ご心配なさらずとも陛下はなんだかんだと言ってもルーカス様の父親ですよ)
影の青年は手早くカツラと伊達眼鏡を付け直し「オーウェン司祭」になると、次はなにが起こるのかと想像すると自然と口角が上がる。
そして、愛しのモルガン公爵家領地に向かうのであった。