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体育館は、もはや悲鳴すら上がらなくなっていた。
倒れ伏す教師たち。
動かない者。
うめき声を漏らす者。
すべての混乱は、
ヘビのパペットが原因だった。
噛まれ、
認識が反転し、
互いを敵だと信じ込んだ末の――
同士討ち。
その中心から、
タヴェルとサークルだけが、
かろうじて距離を保ち続けていた。
「……避けろ……!」
二人は、
攻撃しない。
ただ、
噛まれないように、
必死に避け続ける。
時間だけが、
過ぎていく。
――1分。
それは、
永遠のようで、
唐突でもあった。
ヘビたちが、
一斉に動きを止めた。
紙が、
糸が、
力を失って落ちる。
「……止まった……?」
タヴェルが、
荒い息の合間に呟く。
見上げると、
樹の枝の上。
少女の邪――ラナが、
寝転がっていた。
退屈そうに、
目を閉じている。
攻撃は、
完全に終わっていた。
残されたのは、
傷だらけの二人と、
壊れた空間。
そして――
次の気配。
空気が、
重く沈む。
床から、
樹の根が伸び、
影が一つ、形を取る。
リンゴの葉の髪飾りをつけた少年。
――アビーの邪。
彼が立った瞬間、
体育館全体が
“思い出す”。
「……来るな……」
サークルの声が、
震えた。
アビーの能力は、
攻撃ではない。
最大級のトラウマの具現化。
逃げ場は、ない。
空間が歪み、
サークルの視界に
巨大なコンパスが現れる。
針が、
狂った角度を指し続ける。
測れない。
定まらない。
正しさが、存在しない。
――かつて。
サークルが、
アビーに向けてきたもの。
規則。
評価。
線引き。
「正しい方向」を
押し付け、
外れた者を切り捨てた記憶。
それが、
今度は自分に向けられる。
「……違う……!」
サークルは、
後退る。
だが、
コンパスの影は、
逃がさない。
アビーは、
何も言わずに近づいた。
責めない。
怒鳴らない。
ただ、
再現する。
サークルが
他人にしてきたことを、
寸分違わず。
タヴェルは、
動けなかった。
声も、
出なかった。
結果だけが、
残る。
サークルは、
そこからいなくなった。
存在は、
邪の中に溶け、
アビーの影が
わずかに濃くなる。
――吸収。
アビーは、
一度だけ、
コンパスを見下ろした。
針は、
まだ狂っている。
それでも、
少年は静かに立ち尽くす。
体育館に残ったのは、
傷だらけのタヴェルと、
重すぎる沈黙。
そして、
次に来る者を
待つ2つの邪。それだけだ。
追い詰める過去編 ー完ー
解放・救済編 へ続く