テラーノベル
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ルシアンは私を真っ直ぐ見据えていた。
冷静な当主代理の目。――だが、その奥には、妹を守れないかもしれないという焦りが滲んでいた。
「……実は、現王妃派から何度か嫌がらせを受けている」
ルシアンが重い口を開く。
「今の公爵家だけでは、リリアンヌを守り切れない可能性がある」
公爵家は富も権力もある。だが――武力だけは足りない。
私は頷いた。
「ですから、私たちが『盾』になりますわ。護衛兼、剣術の指導者を派遣いたします」
その瞬間――
「じゃあっ!!」
リリアンヌの顔がパァァァッと輝いた。
「本当に本物の剣術の先生がいらっしゃるんですの!?!?」
張り詰めていた空気が、一瞬で吹き飛んだ。
「……お前は少し黙れ」
ルシアンがこめかみを押さえる。
だが、リリアンヌの暴走は止まらなかった。
「だってお兄様! ベルシュタイン騎士団ですよ!? アレク様! 今度ぜひ直々に、私をご指導――」
「断る」
「えっ! えええええええええっ!?!? なんでですのーー!?!?」
応接室に悲鳴が響き渡った。
私は思わず吹き出す。
(だめだわ、この子。本当に面白すぎる……!)
だが、アレクの目は、一切笑っていなかった。
「俺は俺の部下と――婚約者以外を教えるつもりはない」
「ちょっとアレク! その言い方はないでしょう!」
慌てて止める私を無視して、アレクは淡々と続ける。
「俺は、バイオレッタ以外の女に興味がない」
リリアンヌがぽかんと口を開けた。ルシアンが目を細める。
(……はあ。この男、本当に重すぎるわ……)
「何を言われても時間の無駄だ」
「アレク!!」
私が叱りつけると、リリアンヌがキラキラした目でこちらを見た。
「きゃーーーーっ!! 何その鉄壁! 尊すぎますわーーーっ!!」
「……」
(尊くなんてないわよ!!)
私は頭を抱え、深いため息をついた。
結局。アレク本人ではなく、彼の右腕を派遣することで話はまとまった。
***
帰りの馬車。
私は隣に座るアレクをジロリと睨みつけた。
「ちょっとアレク。さっきのはなんなのよ?」
「これはビジネスなの。もう少し愛想良くできないわけ?」
「……俺は、お前以外どうでもいい」
即答だった。
「っ、だから、そういうことを平然と――!」
(もう、なんなのよ……!)
その時。
ガタンッ!!
馬車が大きく跳ね、椅子から体が投げ出される。
「あ――」
転げ落ちそうになった私の身体を、アレクの腕が後ろから抱き寄せた。
「……大丈夫か?」
耳元を掠める低い声。
背中に触れる硬い胸板。距離が近い。
「っ……」
心臓が、うるさいくらい跳ねる。
腰を抱く腕に、さらに力がこもった。
「ちょ、ちょっとっ!!」
ふいに彼と目が合った。
「……あ、すまない」
アレクは気まずそうに、ゆっくり腕を離した。
私は頬の熱をごまかすように、慌てて視線を逸らした。
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