テラーノベル
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第一章 事件はリビングで起きている
いる
「研磨!! いい加減にしなさい! 今日は何時間ゲームすれば気が済むの!?」
孤爪家のリビングに、母親の怒号が響き渡った。
テレビ画面には「ボス戦:残りHP 5%」の文字。
あと数撃で長時間の死闘が報われるという、まさにその瞬間だった。
カチッ。
「あ」
母親が無慈悲にも電源プラグを引っこ抜いた。
画面が暗転し、虚無の黒が研磨の顔を映し出す。
「……何すんの」
「何すんのじゃないでしょ! 明日も学校でしょ! ご飯も食べないでずっと画面ばっかり見て!」
「今……いいところ、だったのに……っ!」
絶賛反抗期まっただなかの高校2年生・孤爪研磨。
普段はローテンションで感情を表に出さない男だが、ゲーマーの聖域を侵された怒りは沸点を超えた。
「お母さんの……バカ!! ぶっ◯す!!(※ゲーム内で)」
「なんですって!?」
「もういい!! こんな家、出て行ってやるーーーッ!!」
ヒック……ッ、うぐっ、ふえぇ……っ!!
悔しさと怒りとボス戦の巻き戻りに対する絶望で、しゃくり上げて泣き出す研磨。
彼は涙と鼻水をぬぐいもせず自室に駆け込むと、巨大なボストンバッグを引きずり出した。
詰め込むものは厳選されている。
ニンテンドースイッチ(本体+ドック)
PlayStation 5(無理やり押し込む)
モバイルバッテリー3個&各種充電ケーブル
着替え(下着2枚とTシャツ1枚)
「絶対……帰ってやんない……っ! ヒック……!」
パンパンに膨らんだバッグを背負い、研磨は夜の街へと全力で疾走していった。
第2章:ターゲット・宮城
東京の某所。
孤爪家からのSOSを受け、音駒高校バレー部主将・黒尾鉄朗のスマホがけたたましく鳴り響いた。
『クロちゃん!? 研磨が……研磨が「家出する」って叫んで泣きながら出ていっちゃったのよ!!』
「はあ!? 研磨が!? 理由は!?」
『ゲームの電源抜いたら……』
「くだらねえええええええ!!」
頭を抱える黒尾。
すぐさまバレー部のグループLINEに緊急連絡を回す。
黒尾:【緊急】研磨が家出した。見かけた奴は拘束しろ。理由はゲーム奪取によるブチギレ。
夜久:は? アホなの?
山本:研磨さんがああああ!? どこだ! どこにいるんだ俺の拳が火を噴くぜ!!
福永:(冷やし中華のスタンプ)
犬岡:駅前探してきます!
研磨が選んだ目的地。それは——宮城県。
第3章:突撃、隣のヒナタ家
ピンポーン。
時刻は夜の9時過ぎ。宮城県にある日向家の玄関ベルが鳴った。
「はーい! どなたですかー?」
ドアを開けた日向翔陽は、そこに立つ人物を見て目を丸くした。
目元を真っ赤にし、しゃくりあげた名残で肩をヒクヒクさせ、パンパンのボストンバッグを担いだ金髪プリン頭の少年。
「……研磨ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!??!?」
「……翔陽……泊めて……」
「えええええええ!? なんで!? ていうか連絡なし!? ここ宮城だよ!? 東京じゃないよ!?」
「連絡したら……黒尾にバレるから……」
「勝手に来るなよ!!」
困惑する日向を押し切り、研磨はすいーっと靴を脱いでリビングへ侵入。
初対面の日向の母親と妹の夏に「お邪魔します」とペコリとお辞儀をし、そのまま日向の部屋へと吸い込まれていった。
「まあ可愛いお友達! 研磨くん、ご飯食べたの? カレーあるわよ?」
「いただきます……」
「食べるのかよ!!」
日向の部屋に居座った研磨は、真っ先にコンセントを確保。
「翔陽、Wi-Fiのパスワード教えて」
「お前マジで何しに来たんだよ!!」
第4章:大混乱の音駒と平和な日向家
その頃、東京では黒尾が胃を痛めていた。
「出ねえ……電話に出ねえ……! LINEも既読がつかねえ……!」
その時、研磨のInstagram(鍵アカウント)が更新された。
一枚の写真。美味しそうなカレーライスと、背景にチラッと映る**「烏野高校バレー部」の部活動Tシャツ**。
kenma_kenma: ごはんおいしい。Wi-Fiも快適。
「宮城にいるーーーッ!?!?」
黒尾の叫びが東京の夜空に響き渡った。
すぐさま黒尾は烏野の澤村大地へ電話をかける。
『もしもし澤村!? 頼む、日向の家に確認してくれ!! うちのネコが勝手に上がり込んでるっぽい!!』
『えっ? 日向の家? ちょっと待て……』
数分後、日向から澤村へ、澤村から黒尾へ連絡が入る。
『……黒尾、いたわ。日向の部屋で『モンスターハンター』やってるって』
『やっぱりかよ!! 申し訳ねえええ!! 今すぐ新幹線で引き取りに行く!!』
『あ、いや……日向の母ちゃんが「せっかく来てくれたんだから泊まっていきなさい」って引き留めてるらしい。研磨も「黒尾が来たらベランダから逃げる」って言ってるぞ』
『あいつマジでふざけんなよ!!』
第5章:反抗期の終わり(?)
翌日。
結局、黒尾と研磨の母親が揃って新幹線で宮城へ駆けつけた。
日向家の玄関前。
黒尾に襟首を掴まれた研磨は、ぷいっと横を向いている。
「お前な! お母さんどんだけ心配したと思ってんだ!!」
「……だって、お母さんが悪い。あと少しでクリアだったのに」
「あんたが約束の時間破るからでしょ!!」
親子喧嘩が再発しそうになったその時、日向が間に割り込んだ。
「まあまあ! 研磨、お母さんにちゃんと謝りなよ! 俺、研磨とゲームできて楽しかったけど、研磨がいなくなったら黒尾さんたちめっちゃ困ってたぞ!」
「……翔陽……」
大好きな日向に言われ、研磨は少しだけ気まずそうに目を伏せた。
「……お母さん、言いすぎたのは、ごめんなさい」
「……研磨。私も急に電源抜いて悪かったわね」
感動の仲直り——と思いきや。
「じゃあ帰るぞ研磨」
「やだ。今週は翔陽の家から学校通う」
「通えるわけねえだろ新幹線通学かよ!!」
結局、黒尾に担ぎ上げられ、ドナドナのように東京へとドナドナされていった研磨であった。
【後日談】
音駒の部室にて。
「研磨、もう家出するなよ?」
「……次は、木兎光太郎の家にする……」
「あそこは絶対やめろ!! 収拾がつかなくなる!!」
音駒高校バレー部の平和な(?)日常は、こうして続いていくのだった。
#ハイキュー
コメント
1件
ああ、もうめちゃくちゃかわいいし面白かったです……! 研磨があんなに感情剥き出しで泣きながら家出するとか、逆に新鮮でちょっと笑っちゃいました。でも「ゲームの電源抜かれた」って理由、彼ならではで納得です。日向の家に着いて「Wi-Fi教えて」って普通に聞いてるところとか、二人の距離感がほんとに自然で好き。黒尾の胃が痛くなる気持ち、よーく分かります(笑)。最後の木兎さんネタも最高でした。次も絶対読みたいです!