「さあ行きましょう」
修道服に着替えた私の手をシスター・ジェルマが取りました。
「どちらへ?」
私の手を引いてシスター・ジェルマは教会の外へと出ました。
「ここの隣が孤児院なのよ」
「孤児院を運営なさっているのですね」
王都では国の施策でしたが、地方では教会が代わりに孤児を養育する場合もあると私も聞いたことがあります。
「そうなの。子供達にミレーヌを紹介しないとね」
「子供……ですが私は……」
私が罪人だと村には触れがあったはずです。私は人から受ける悪意にすっかり怯えてしまっていました。だから、子供達から向けられる拒絶の視線を想像するだけで心臓がばくばくと音を立て始めたのです。
私は不安の眼差しをシスター・ジェルマに向けたのですが、彼女は笑って私の手を引きました。
「安心して。みんな良い子だから」
「……はい」
シスター・ジェルマはとても心優しい方です。その彼女が言うのだからきっと大丈夫なのでしょう。それでも王都での民衆から向けられた悪意の目を思い出すと足がすくんでしまいます。
「もう日も暮れるわね」
教会の外へ出ると私は眼前に広がる真っ赤に染まった町並みに息を飲みました。
「綺麗……」
その光景を前に、いつの間にか私の弱気は消し飛んでしまっていました。
魔の脅威に脅かされている辺境。それでも目に映る景色の全てを赤く焼き尽くす夕陽はとても美しくて、とても雄大で……私の心の中にある昏い情念さえも全て焼き払ってしまいそうでした。
「こっちよ」
「あっ! はい……」
しばらくその景色に見惚れて立ち尽くしていましたが、シスター・ジェルマが私に声をかけて教会の隣の建物へと入って行きました。
その背中を慌てて追って私も扉を潜ったのですが、その建物の中の喧騒に私はびっくりしてしまいました。
「お姉さんだーれー?」
「うわぁキラキラしてるー!」
「お姫様?」
「え? え? 私ですか?」
入った途端に数人の小さな女の子達に囲まれてしまいました。そして、きらきらした幾つもの瞳に見詰められて、私はしどろもどろになったのでした。
「ほーら騒がないの」
シスター・ジェルマがぱんぱんと手を叩くと、一斉に子供達が私達に視線を向けてきました。
「今からみんなに彼女を紹介するわ」
シスター・ジェルマの言葉で私の存在に気が付いた他の子供達も初めて見る顔に興味を持ったのでしょう。彼らはわっと私達の方へと押し寄せてきました。
「ねぇ、ジェルマ。この人は?」
「ここに住むの?」
「ええ、そうよ」
そのシスター・ジェルマの答えに子供達が私に群がってきました。
「お姉ちゃんのお名前は?」
「これからずっとここにいるの?」
「すっごい綺麗!」
「どこから来たの?」
矢継ぎ早に声をかけてくる子供達に戸惑い、私は困り果ててどう対応したものかとシスター・ジェルマに目で助けを求めたのですが、彼女は声を立てて笑い出しました。
「あっという間に懐かれちゃったわね」
「え、あ、はい……」
子供達の顔はとっても輝いていて、私を嫌悪する色は少しもありません。
「ふふふ、だから私の言った通りだったでしょ?」
「え?」
シスター・ジェルマの笑顔はまるで包まれるみたいに素敵でした。
「こんなにもたくさんの価値がミレーヌには生まれたのよ」
「はい……はい……」
その言葉に私は涙を流しながら黙って何度も頷いたのでした……
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