テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
ドンッ!
「——!?」
私は
身体に圧し掛かる強い衝撃に目が覚めた
ソファに横たわる私に
誰かが覆い被さっている
——夫だ
鼻を突く
強烈な酒の匂いと
仄かに香る
香水の匂い
「うわ、お酒臭!ちょ、ちょっと……大丈夫?」
「え~?……へ、へへ#$&@*$%~」
(だいぶ泥酔してるな……)
時計の針は
深夜2時過ぎ
とうに終電の時刻は過ぎている
きっと
深酒をして
タクシーで帰って来たのだろう
「もう……ほら、しっかりして!重たいから!」
私の上に覆い被さり
胸元に顔を埋める夫
「……」
「お水でも飲む?とりあえず重たいから降りて」
覆い被さる夫を
下から押し退け
起き上がろとした時だった——
ドンッ!
起き上がろとする私に
上から覆い被さり
私は
夫に
頭上で両手首を押さえ付けられた
目前に迫る夫の顔
酔いの回った赤い顔
酔いの回った虚ろな目
こんな近距離で見つめ合うのはいつぶりだろうか
荒ぶる夫の息遣い
猛烈に鼻をつく
アルコール臭
その合間を縫って
時折仄かに鼻をつく
女の香水の匂い
「ハァ……ハァ……ハァ……」
「ちょ、ちょっと……離して」
無言で
荒い息遣いで
私を見つめる夫の充血した目が怖い
聞こえているのか
聞こえていないのか
私の声が
届いているのかさえ分からない
——と、
私が困惑する間に
私の首元へ顔をうずめ
無理矢理服を脱がせ始めた
「——!?」
「ちょ、ちょっと!止めて!何するの!」
「……」
聞こえていないのか
聞こえていないふりをしているのか
夫は無言のまま
一向に止める気配がない
「ハァ……ハァ……ハァ……」
私の上に馬乗りになり
乱暴に服を剥ぎ続ける
「いやー!嫌だってば!そういう気分じゃないから!」
力一杯
暴れて抵抗するも
力一杯
ソファへ押さえ付けられる
力強い男の腕力
上から圧し掛かる
力強い男の圧力
私には
抗えるだけの力は無かった
「いや!止めてよ!」
抵抗虚しく
無残にも身動きの取れぬまま
剥ぎ取られていく衣類
何年ぶりかに直接触れる
夫の肌
酔いに火照っている
その体温は熱く
その心は冷たかった
「何言ってんだよ、お前は嫁だろ?たまに位いいじゃねえか!」
開口一番
本日の最初の会話だった
遠く久方ぶりに
体を重ね
肌を触れ合い
発したセリフがこれだった
私の心など
一切無視した
自分勝手で
自分本位な
ただの夫の欲望
私の訴え虚しく
私の声は届かず
その欲望に屈し
その日私は
——夫に無理矢理抱かれた
頭に浮かぶのは
何故か社長の顔
虚しさに
目頭に溜まる涙
実に何年かぶりの夫との営み
涙で夫が見えず
現実を直視する事も出来ず
脳裏に社長を想い浮かべたまま
私は
夫に犯された
力で押さえ付けられ
抵抗虚しく
ただの性欲処理の人形のようだった
虚しくて
悲しくて
涙が溢れ
頬を伝った
そんな私の顔すら見えていないだろう
そんな私の気持ちなど汲もうともしてないだろう
ただ
自分がそうしたかったから
そうしただけ
その時
そこに
無防備な私がいたから
そうしただけ
肉体的に
精神的に
私がどれだけ傷つくかなど
この人は
考えもしないのだろう——
***
——
「……」
事後
自分が
したい事を
したい様に
したいだけ
私の体を弄び満足したのか
夫は
そのままソファで
大いびきをかいて
半裸のまま眠ってしまった
少年のような
無垢な寝顔で
その寝顔に
嫌悪感に満ちた気持ちで
蔑んだ目で見降ろしながら
私は
無言で浴室へと向かった
シャーーー
熱いシャワーに打たれながら
想うは社長の事
あの日の甘い時間が忘れられず
あの日へと感情が現実逃避する
どうしてもっと早く出会えなかったのだろう
私の人生は
どうしてこうなってしまったのだろう
でも
これが紛れもない現実
私が
自分で選んだ道
もしも運命があるのなら
きっと
これが私の運命なのだろう
***
新社長の就任以来
私の環境は目まぐるしく変わった
暗転した事もあるが
その多くは
好転したように思う
しかし
現実は現実
その根本は変わらず
結局またここに戻ってしまった
いや
実際には何も変わってはいなかったのかもしれない
枝先の木の葉に差した陽の光を
森全体が発光したと勘違いしたのかもしれない
——色彩無き空虚な日常
忘れかけていただけの現実
虚しさに打ちひしがれながら
私は眠りについた
長かった今日が
やっと終わった
篠原愛紀