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ラティアはディークが消えてしまった女神の宮殿から立ち退いたのは陽が登り、空が明るくなり始めてきた頃であった。
街〈ベルン〉へと戻る為、たった一人、アバール砂漠の地を歩きながら、ラティアはディークの体の一部であったアメジスト色の宝石の一部である欠片をポケットから取り出し、自身の両手で強く包み込む。
「ディーク、私は貴方という人がいたこの世界で、果たさなければいけない役割を精一杯こなしてから、貴方がいる天の国へ行くわ。だから、その時まで私のことを見守っていて」
自分の病を命をかけて治してくれた彼に対して、恥ずかしくない道をこれから歩み進んでいきたい。
それが少女がこの地で決意した最後の物だった。
その後、アバール砂漠を出たラティアは己の騎士である三人。
ベルロット、バロン、ハレクと再会を果たし自国ラピティーアへと帰る為、歩みを進め4日かけて、ラパニア国の港に辿り着きラピティーア国行きの船に乗車した。
「良かったわ、貴方達、三人が無事でいてくれて」
「はい。私達もラティア王女と無事にこうして再会出来て安堵しております」
「ええ、」
ラティアはハレクにそう返答し、出航した船から、まだ少し遠くに見えるラパニア国の港を見据えた。
今に至るまでディークと過ごした時間の中で、色々な事があったなとラティアは船の甲板から見える陽の光に照らされた水面を見つめながら思い馳せる。
(彼は、私の命の恩人であり、生涯忘れられない人)
ラティアは心の中で呟きながら、病を治した自分がこれから向き合い、やらなければならないことを精一杯取り組もうと強く心に誓ったのであった。
✧✧✧
ラピティーア国行きの帰りの船の中。
バロンとベルロットが食堂でお昼を済ませている間、ラティアとハレクは甲板から見える陽の光に照らされた透き通る水面を見つめながら会話をしていた。
「ディーク殿とは女神の宮殿で別れたと言っていましたが、本当は違うんじゃないんですか?」
「ハレク、貴方って意外と鋭いわよね」
「まあ、長年護衛としてお側におりますから、殿下が何か誤魔化していることくらいはわかります」
ハレクのそんな言葉にラティアはハレクの顔を見て悲しげに微笑む。
「ディークは、私の病を治すことの代価に命を落としてしまったわ…… 私は彼を助けることさえ出来なかった」
「そうなんですね……」
ディークは命をかけて、ラティアの病を治そうとしていたことをハレクは知っていた。
あの日、ラピティーア国の城から出発した日の夜。王都の宿屋に泊まった時。
「眠れないんですか?」
「はい。中々、寝付けなくて……」
同じ役職を担うベルロット、バロンと他国の研究者であるディーク。
そんな自分を含めて四人の男達が同じ部屋に居ながら、ハレクは中々眠りにつくことが出来なかった。
けれど、それは自分だけではなかったらしい。
「そうなんですね。実は俺も眠れなくて」
「そうですか、一緒ですね」
「はい。あの、俺、凄く気になって、治し方が解明されていない宝石の病をどう治すつもりでいるんですか?」
「儀式です。女神の宮殿には不思議な力がある。その力を使って宝石の病を治すことが出来るかもしれないんです。俺は何があっても例え自分の命を犠牲にしたとしても、ラティア王女の宝石の病を治すつもりでおります」
ディークはもしかしたら、殿下のことを一人の人として大切に思っていたのかもしれない。
ラティアを見るディークの顔が時折、凄く優しく愛おしそうにハレクには見えた。
きっとそれは気のせいではなかったのかもしれない。
「失う物は大きかったとしても、彼は殿下に生きて欲しかったのでしょう。自分の命を犠牲にする程に。それに殿下が強くまた会いたいと思っていれば来世でまたきっと巡り会うことが出来ます」
「そうね、私は彼に自信を持ってこの世で悔いなく生きたわと言えるように、これからの道を歩んでいくわ」
そう決意したラティアの顔は少し大人びて見えた。
ハレクはこの先も隣にいる自分の主である彼女の側で騎士として人として支えていこう。
改めてそう強く心に誓ったのであった。