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「僕の手を絶対離さないで!」
「大丈夫。おまえの手は離さない」
そう言われてホッとした僕はまだ彼女の狂気を理解していなかった。
「離すのはフェンスをつかんでる方の手だ。約束通りいっしょにいこうぜ」
〈いこうぜ〉というのは漢字で書けば〈逝こうぜ〉なのだろう。僕の生殺与奪の権利はすべて目の前のメンヘラ女に握られていた。真下の地面を見下ろして、白いコンクリが凶器にしか見えず、僕は絶望のあまり少し気が遠くなった。
「おしっこ漏らしたぞ。高校生にもなってお漏らしか」
と彼女に笑われたがもう反論する気力もなかった。
「恥ずかしい秘密を持つ者同士。これでおまえと私は対等の立場になったな」
そんなわけあるかと思ったが、下手に反論して手を放されたら困るから黙っているしかない――
そのとき屋上のドアが乱暴に開けられた。口々に僕らの名前を叫んでいる。屋上からぶら下がっているから屋上の様子を目で見ることはできないが、屋上から誰かが落ちそうになっていると生徒から聞いて、先生たちが助けに来てくれたようだ。
助かったと思った。だから彼女と先生の会話を聞いて、さらに絶望の底まで突き落とされた。