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雄二さん、本当は今すぐにでもゆりかさんを追いたいだろうなぁ(涙)ます
うわあ、この回も重くて美しかった……。百合香が置いていったブーケや写真、ネックレスに「しろ」の骨壺まで持っていった描写、一つひとつが雄二の心を抉るようで胸が苦しくなった。それでも「させるかよ」って思う雄二の強さと、「まだ追えない」っていう自覚のギャップが切なすぎる。ちゃんと片付けてから迎えに行くって決めたんだな……。次の展開が待ち遠しいです。
第1節 千崎雄二『まだ、追えない』―8―
「……」
雄二はゆっくり室内を見回す。
そして……視線がテーブルの上で止まった。
薄桃色のチューリップ。
雄二が相良へ〝花嫁のブーケは九本だ〟と助言したことを思い出す。
きっとあの男は、その通りにしたのだろう。
花弁は少しずつ開き始めていた。
このままでは、そう遠くないうちに枯れる。
雄二は無意識に手を伸ばし、その一本へ触れた。
百合香はこの幸せの象徴みたいなブーケを置いていった。
だが、自分は捨てる気になれなかった。
(残すか……)
ふと、そんな考えが頭をよぎる。
昔、取引先との雑談で聞いたことがあった。
大切な花束を特殊加工し、一生物として保存する職人がいるのだと。
聞いた時には馬鹿げている、と思った。
花など、枯れるから意味がある。
そう思っていた。
だが、今は違う。
百合香が花嫁からの〝次は貴女の番〟という祝福とともに受け取った花だった。
彼女は、それすら置いていくつもりなのだろう。
(……させるかよ)
だけど雄二は、百合香との未来を失うつもりはない。
花束のそばには二人で撮った写真、ネックレス、時計、指輪……。
雄二に関するもの、雄二が百合香へ贈ったものばかりが、まるで〝幸せ〟ともどもここへ置き去りにしたいみたいに整然と並べられていた。
「……は」
乾いた笑いが漏れた。
(百合香らしいな)
最後まで実に律儀だ。
雄二はゆっくり部屋の奥へ足を向けた。
寝室。
洗面所。
クローゼット。
彼女が好んで着ていた服がことごとくなくなっている。
旅行の量じゃない。
家出でもない。
だが、必要最低限のものだけを掻っ攫っていったような……そんな気配が漂っていた。
百合香は、本気で出て行ったのだ。
「……しろ」
百合香と一緒に可愛がっていた猫の名を、思わず呟く。
彼の遺骨が祭られていた棚の上へ視線を向ける。
だが、当然のようにそこへあったはずの骨壺はなくなっていた。
胸の奥が大きく脈打った。
――しろを連れて行った。
それだけで分かる。
百合香はもう、ここへは戻るつもりがないのだと。
雄二はこの部屋を訪うたびに座っていたソファへ腰を下ろした。
「百合香……」
(お前は……俺との結婚を望んでいなかったのか?)
そんなわけがないことは、雄二が一番知っていた。
ただ、雄二の状況が、百合香にそれを言わせなかっただけ。
今頃は、ここで百合香を抱き締めていたはずだった。
雪絵とのこと、百香とのこと……。
そういう諸々を清算してくると告げて、ふたりで前へ進もうと話すつもりだった。
だが、遅かった。
全部。
何もかもが遅すぎた。
雄二は顔を覆うように手を当てる。
今すぐ下関へ行きたい。
今すぐ愛する百合香を見つけ出し、有無を言わせず腕の中へ閉じ込めたい。
そうして、こんなにも待たせてしまったことを、彼女が納得するまで謝りたかった。
だが――。
「……まだだ」
低く呟く。
雪絵のことも、百香のことも、まだ片が付いていない。
それらを先に終わらせなければならない。
そうしてからでないと、百合香を迎えにいくことなんて出来ないと思った。
今度こそ、ちゃんと向き合うと決めたのだから。
雄二は静かに目を閉じた。
そして……テーブルの上に残されたチューリップへ再度視線を向ける。
今の自分には、まだ彼女を連れ戻しに行く資格がない。
――まだ、追えない。
#大人ロマンス