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コメント
2件
ゆりかさん、こんな時でも人のことを考えてる。優しいなぁ。
ああ…なんかもう、胸がぎゅーってなったよ。 百合香さん、新幹線の中で一人で過去を振り返るシーンがとても切なかった。特に、しろちゃんの遺骨だけは置いていけなかったってところが、彼女の優しさと弱さの両方を物語ってて…。アクセサリーも写真も全部置いてきたのに、しろちゃんだけは手放せなかったんだね。 芽生ちゃんからもらった花束を残してきたことに後悔してるのも、彼女らしい繊細さだと思う。佐山くんに「自分のせいだと思わないで」って笑顔で別れたところも、泣けたよ… 次、どこに向かうんだろう。新しい街でちゃんと生きていけるのかな。すごく気になる…
第2節 桐生百合香『知らない街で』①
午後三時を少し回った頃。
桐生百合香は、新幹線の自由席に座っていた。
指定席を取ろうとは思わなかった。
これから自分がどこで暮らすのかも、どんな仕事をするのかも、まだ何ひとつ決まっていない。頼れるあても、迎えてくれる誰かもいない。
しばらくは、手元にある貯金を切り崩して生きていくしかないのだ。
だから、少しでも節約したかった。
幸い、車内は思っていたほど混雑していなかった。
窓際の席へ腰を下ろした百合香は、膝の上にバッグを抱える。
その中には、愛猫しろの遺骨が納められた骨壺が入っていた。
何度も抱き締めて、何度も撫でた、小さな骨壺。
もう鳴くことも、甘えてくることもない。
けれど、置いていくことだけは出来なかった。
雄ちゃんが用意してくれた部屋に。
あのマンションに。
自分だけが消えたあと、しろまで残していくなんて、どうしても無理だった。
(ホントは……)
しろだって雄二との思い出のひとつだ。
アクセサリーも。
写真も。
思い出に繋がるものは全部置いてきた。
なのに、この子だけは連れてきてしまった。
(だって、しろは……)
百合香にとって、しろはただの飼い猫ではなかった。
雄二と一緒に育てた、大切な家族――。
そんな可愛い我が子を、置いてくることだけはどうしても不可能だった。
百合香は窓の外へ顔を向ける。
流れていく景色を見ているつもりだった。
けれど実際には、何も見えていなかった。
トンネルに入る。
暗くなる。
窓ガラスに、自分の顔が映る。
少し疲れた顔をしていると思った。
トンネルを抜けると、街並みが流れていく。
家々の屋根。
ビルの壁。
たくさんの建物のひとつひとつに、誰かの営みや生活があるんだろう。
山が近付いてきて、また、トンネル。
その繰り返しの中で、百合香はぼんやりと朝からの出来事を思い返していた。
芽生と京介の結婚披露宴。
大好きな男性の隣で、幸せそうに笑う花嫁。
少し照れくさそうで、それでもどうしようもなく嬉しそうだった花婿。
ブーケトスで芽生から受け取った、薄桃色のチューリップ。
〝次は百合香さんの番です!〟
声こそ掛けられなかったけれど、ブーケを受け取った百合香を見て笑った芽生からは、そんな想いが溢れているように感じられた。
結婚披露宴のあと、そんな芽生と話すのが怖くて、逃げ帰るように雑踏にまぎれて式場をあとにしてしまった。
佐山に頼んで連れ帰ってもらったマンションでの、荷造り――。
雄ちゃんからもらったもの、彼と過ごした日々に繋がる全てを置いていくと決めた時の、胸の痛み。
それはしろだって同じはずなのに、……どうしてもこの子だけは置いてこられなかった。
佐山の提案で、雄相会へ立ち寄ったとき、心の片隅で最後に一目、雄二に会えることを期待していたと言ったら、罰が当たるだろうか。
結局雄二には会えなかったけれど、きっとそれで良かったのだ。
もし、彼の顔を見ていたら、雄二は百合香の決意を鈍らせていたかもしれない。
雄相会の皆へ託したデジカメ内のデータを、『雄ちゃんにも絶対見せてあげてね? あの人、素直じゃないから、自分からは見たいって言えないと思うの。だから……佐山くんから上手に見せてあげて欲しい』。――車中で、再度そう佐山にお願いを重ねたら、佐山に泣きそうな顔をされた。
泣きたいのはこっちなのに……という思いをグッと押し殺して、駅まで送ってもらったこと。
心とは裏腹に、晴れ晴れとした微笑みを浮かべて、佐山に別れを告げたこと。
(どうか……自分のせいだとは思わないでね?)
心の中でそんなエールを送ったつもりの笑顔だった。
――百合香さんは、笑顔で旅立ちました。
きっと雄二から責められるであろう佐山に、そんな言い訳をさせてあげたいと思ってしまった。
(だって、きっかけはどうあれ、雄ちゃんから離れる決意を固めたのは私自身なのだから)
その責任を、佐山や……ましてや花束を贈ってくれた芽生に抱いて欲しくなかった。
(芽生ちゃん……)
花束を置いてきたことは、良くなかったかもしれない。
見るのがつらくても、あれを残してきたことで、芽生に嫌な想いをさせてしまうかも……と思い至って、百合香は小さく吐息を落とした。