テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
息がかかる距離
もう、ほとんど触れてる。
舜太の目が完全にこっちに捕まってる
逃げられないし
逃げない
📱ブッ
(……しつこいな)
でももうどうでもいい。
それよりも。
目の前の反応の方が、ずっと重要だった。
「……舜太」
名前を呼ぶとびくっと体が揺れる
「なに」
「さっきの」
少しだけ間を置く
「“じゅうやし”ってやつ」
「……っ」
言葉に詰まる
視線が泳ぐ
でも逃がさない。
顎に手をかけて無理やり向かせる
「それ、どういう意味?」
「……そのまんまやろ」
「分かんない」
即答する
「ちゃんと言って」
📱ブッ
また鳴る。
でも、もう舜太はそっちを見ない。
完全にこっちに引きずられてる
(できるじゃん)
「……柔やから」
「うん」
「……安心するし」
「うん」
「……嫌じゃない」
一つずつ、確かめるみたいに出てくる言葉。
曖昧で
確実にこっちに寄ってる
足りない。
「それだけ?」
「……それ以上、わからん」
舜太は苦しそうに眉を寄せる
「頭、追いつかん」
「そっか」
優しく返す
「じゃあいいよ」
そのまま
ふっと、距離を引いた。
「……え」
一瞬時間が止まる
舜太の目が大きく開かれる
「じゅう?」
さっきまで触れそうだった距離が一気に離れる。
空気が急に軽くなる
でもその分
何か足りない。
「……今日はやめとく」
何でもないみたいに言う
「は?」

舜太の間の抜けた声だけが響く
さっきまでの緊張が行き場をなくしてる
「なんで?」
「なんでって」
軽く笑う
「しゅん…よく分かってなさそうだし」
「……っ」
言葉に詰まる。
「そういうのはさ、ちゃんと分かってからの方がいいでしょ」
もっともらしい理由。
でも本当は違う
求められたい
ここで全部やったらもったいない
じわじわ壊した方が…
「……柔太朗」
低い声で呼ばれる
さっきとは違い、湿度を感じない声。
「なに」
「今のなんやったん」
「なにって?」
「……キス、するんかと思った」
(するつもりだったよ)
心の中でだけ答える。
「しないよ」
平然と返す
「なんで」
「さっき言ったじゃん」
「……」
納得してない顔。
当然だ
途中で切られた感情がそのまま残ってるから
「じゅう、」
「なに」
「……俺なんもわからん」
小さく呟く
「なんか、さっきから」
胸元を軽く押さえる
「変な感じする、」
「ドキドキして落ち着かんし」
「うん」
「……でも嫌じゃない」
「うん」
「むしろ」
言葉を探して止まる。
「……なんか足りん」
その一言に思わず笑いそうになる。
それだよ
「なにが」
あえて意地悪に聞く。
「……さっきの続きして」
「……」
「なんでやめたん」
まっすぐ見てくる。
さっきまでと違う目
戸惑いだけじゃない
欲しがってる。
(…いい感じ)
「なんでだろ」
わざと曖昧に返す。
「気分?」
「は?」
「またそのうちね」
立ち上がる
「帰る」
「え、ちょ」
慌てて腕を掴まれる。
「待って!」
「なに」
「……ほんまに、帰るん」
「帰るけど」
「……や、やだ」
さっきと同じ言葉
でも、意味が違う
さっきよりも重い。
「なんで」
「……なんでって」
言葉に詰まる
でも離さない
「このまま帰られるん、なんか嫌や」
(ほら)
(もう無理でしょ)
「しゅんはどうしたいの」
「…わからん」
正直すぎる答え。
「でも」
ぎゅっと、少しだけ力が入る。
「やっぱりじゅうが帰るん、嫌」
「……そっか」
静かに頷く
その手を軽く外す
「じゃあまた今度」
「じゅう!」
呼ばれる
さっきよりも、はっきりと。
振り返る
「なに」
「……逃げるん?」
その一言に少しだけ目を細める。
(それ、言う?)
「舜太のためにはさ」
「ちゃんと分かってからって言ったでしょ」
「……っ」
言い返せない顔。
「ちゃんと考えといてね」
ドアに手をかける。
「何がしたいのか」
そのまま振り返らずに出る。
背中に視線が刺さる。
(……いいかんじじゃん)
ポケットの中のスマホを取り出す
画面を開くと そこには、何件も並んだ通知。
全部、仁人から。
(まだ諦めてないんだ)
少しだけ口元が緩む。
(でもね)
ゆっくりと画面を閉じる
(もう遅いよ)
さっきの舜太の顔が頭に浮かぶ。
戸惑いと、欲と、手放せない感じ
全部混ざった目。
(もう戻れないから)
静かに息を吐く。
(君の幸せの作り方)
(ちゃんと進んでる)
舜太side
静かになった部屋
さっきまで、あんなに近かったのに
柔太朗は、もういない。
「……なんやったん」
ぽつりと漏れる。
ドアは 閉まったまま
当たり前なのになんだか変な感じ
胸の奥が落ち着かない。
締め付けられて。
「……もっと欲しい」
自分で言ってはっとする。
なんやそれ
意味わからん
でも、ほんまにそう思ってる
さっきの続きがないまま終わったことが、
ずっと引っかかってる。
📱
視界の端でスマホが光る
柔太朗?
手を伸ばして画面を見る
——仁人から
何件も並んでる
着信履歴
メッセージ
「……あー」
軽く息を吐く
(連絡、返さな)
そう思うのに
指が動かない
代わりにさっきのことが浮かぶ
柔太朗の顔、 声、 手つき
触れられそうだった距離
「……っ」
無意識に唇を押さえる。
(なんなんこれ)
頭では分かってる
おかしいって
今までの自分ならこんなんならん
仁人のことで悩んでたはずやのに。
なのに
「……じゅう」
名前が勝手に出る
それだけで胸がざわつく
📱
また通知
仁人から。
——「どこにいる?話したい。」
——「無事?」
——「頼むから出て」
——「今からそっち行く。」
「……」
その一文に少しだけ現実に引き戻される。
(来るんか)
めんどくさいと思った
一瞬で
(……は?)
自分でびっくりする
なんでやねん
ずっと好きで苦しんでた仁人やのに。
「……心変わり?…ちゃうな」
首を振る
でも、
(今は)
(来てほしくない)
その気持ちが消えない
ピンポーン
インターホンの音が静かなリビングに響く。
思ったより早かったな
「……」
少しだけ迷って立ち上がる。
ドアを開けると
「舜太、」
仁人が息を切らして立ってた。
「大丈夫か?」
「……全然、大丈夫やけど」
「連絡つかないから、何かあったのかと思って」
「いや、別に」
そっけなく返す。
自分でも冷たいと思う。
でも
どうしても、温度が合わない。
「……中、入るな」
「うん」
仁人が入ってくる。
部屋を見渡して、少しだけ顔を曇らせる。
「……柔太朗、来てたのか?」
一瞬止まる。
「……なんで」
「通知のタイミングとかでなんとなく」
「……まぁ」
否定はしない
「……そうか」
小さく呟く
少しの沈黙
そのあと、仁人がこっちを見る。
「舜太」
「なに」
「少し話せるか」
真剣な顔
これ
嫌な予感する
「……なに」
「舜太のこと」
自分の名前が出た瞬間
心臓が、強く跳ねる。
「……なに」
同じ言葉を繰り返す。
「気づいてるか?」
「なにに」
「柔太朗の気持ち」
「……」
分かってる
分かってるけど
言葉にしたくない。
「……知らん」
逸らす
「嘘だろ」
静かに返される
「さっきの顔見たら分かる」
「……」
「お前、もう引っ張られてる」
「……っ」
図星すぎて、何も言えない。
「舜太?」
一歩近づいてくる
「やめておけ」
はっきり言われる
「柔太朗は優しく見せてるだけだ」
「……は?」
思わず顔を上げる。
「お前のこと、ちゃんと見てない」
「なにそれ」
「コントロールしてるだけだ」
その言葉に、
胸の奥が、ざわっとする
「違う」
反射的に否定する。
「違わない」
「違うって」
少しだけ声が強くなる。
「……なんでそんな言い方するん」
「事実だから」
「見てれば分かる」
「お前、あいつに都合よく扱われてる」
「……っ」
分かってる
どこかで
でも。
「……それでもええわ」
気づいたら、そう言ってた。
仁人の表情が、固まる。
「……は?」
「別に」
目を逸らさずに言う
「それでもええ」
「舜太、お前」
「なんなん」
少しだけ苛立ちが混ざる。
「なんでそんな否定すんの」
「否定してるわけじゃない」
「守ろうとしてる」
「いらん」
即答する。
空気が、一瞬で張り詰める
「……いらないって、どういうこと」
「そのままやろ」
「俺、別に困ってへんし」
「これからの舜太が」
「困ってへん」
言い切る。
「……むしろ」
少しだけ言葉を選んで、
でも、結局そのまま出る。
「俺が必要としてる」
沈黙。
仁人の顔がゆっくりと歪む
「……それ、危ないって分かってるか」
「分かってる」
即答する
「でも」
「もういい」
「……え?」
「戻れん」
はっきり言う。
自分でも驚くくらい迷いがなかった
「柔太朗がいる方が、楽なんや」
「……」
「何も考えなくていいし」
「……それ、依存だ」
「うん」
「じゃあなんで」
「楽やからやろ」
静かに言う。
「しんどいの、もうええ」
仁人が言葉を失う
そのまま何も言えなくなる。
「……じんちゃん」
少しだけ、声を落とす。
「今まで、ごめん」
「……」
「でも」
ちゃんと、伝える
「ちゃんと好きだった」
完全に線を引く言葉
仁人の大きな目が揺れる。
「……俺の気持ちは?」
小さく聞かれる
「……」
一瞬迷う
でも。
「…知らなかった、今更知ったから。ごめん」
それしか出てこない
仁人が目を伏せる。
静かに笑う
「……そうか」
「……じんちゃん」
「これ以上は いいよ」
仁人は軽く手を振る
「分かった」
そう頷いて背を向ける。
「…じゃ、…帰る」
ドアに向かう足取りが
少しだけ重く見えた
でも、止まらない
ガチャ
ドアが閉まる音
部屋にまた静寂が戻る。
「……」
しばらく動けない。
でも。
胸の奥はさっきよりもはっきりしてる。
(……これでええ)
スマホを手に取る
開く
柔太朗とのトーク画面
少しだけ迷って、
でも、すぐに指が動く
——「さっきの続きいつする?」
送信
数秒後
既読
すぐに、返信。
——「もう待てない?」
小さく笑う
「……うん」
独り言みたいに呟いて、
もう一度打つ
——「無理」
送信
(……終わったな)
何がとは言わない。
でも
分かってる。
戻れないところまで来た
でも、不思議と後悔はなかった
(これでええ)
(柔太朗がおれば)