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⚠️ワンク
sxxn様のnmmnです
前編。
紫、緑 先天性女体化
桃×紫、黄×緑
当作品はご本人様に全くもって関係ございません。
唐突に書いた自己満足作。
急展開注意。
前編、中編、後編あります。今日から三日間連続投稿です。
↑地雷に入っていない方のみお進みください
___その光景はあまりにも儚く、美しかった。
薄明かりが小さな窓から差し込み…無機質な部屋の真ん中を照らす。
そこに不自然に置かれた檻の中には1人の少女がいた。
「……。」
中性的な容姿。
彼女の容貌は間違いなく綺麗という言葉が似合う。
紫色の髪の毛は夜の闇の中で美しく艶めく。
檸檬色の瞳はゆっくりと細められ、やがて閉じていった。
飾りっ気のない真っ白なワンピースを華やかに見せさせる。
周りに舞う蝶たちを気にも止めず、ただ月明かりを見つめる姿には消えてしまいそうな危うさを覚えた。
そんな光景を、俺は今日も見つめている。
「…いるま」
静かに。ため息をつくようにその名前を呼ぶと…彼女は、静かに振り返った。
「らん」
女性の中では低くて落ち着いた声が俺を呼ぶ。
「体調はどう?」
「特に、変わりない」
「そっか…良かった」
数少ない会話。いつも通りの答え。
それが彼女にとってはどんなに辛いことなのだろう…と、最近よく考える。
辛くないわけがない。
こんな檻に閉じ込められて、毎日変わらない日々を過ごす。
ただそういう身体に生まれてしまっただけなのに、何故閉じ込めなければならないのか。
いるまも…他の子も、一人の人間だ。
たった一人の、意志を持って生まれた人間。
可愛くて綺麗な一人の女の子。
なのに…どうして。
「今日は何してたの?」
「特に何も…あ、仕事はこなしたから」
「優秀だねぇいるまは」
「どうも」
どうして、閉じ込めなければいけないのだろう?
必要事項を書き込みながら何処かイラつく気持ちを抑えられなかった。
閉じ込めている側の人間が考えることじゃないって、はなから承知の上だ。
こんなことを思っていつつ、助けることなどできないのだから。
「ねぇ…らん」
そんな思考を遮るように気怠げな声がする。
「何?」
「…仕事の邪魔になる?」
「別に大丈夫だよ」
今日の仕事内容。経過報告。様々なことを書きこんでいく。
体温や、脈や…蝶の様子。
何も変わらない。いくつも眺めてきたその用紙を埋めていく。
「いつになったら…出れんの?」
途端、ペンを動かしていた手が止まった。
「っ、」
あまりにも残酷な問いに思わず息を呑む。
カルテから顔を上げると、真っ直ぐにこちらを見るいるまがいた。
「……」
何て答えよう。
なんて言ったら、いるまは傷つかないで済むのかな?
俺には言えない。
一生。きっとこのままだと一生…。
出してあげることは、できない。
「…悪い、 変なこと聞いた」
間が空くと彼女は、何もなかったかのように。
そう言って視線を逸らす。
「ごめんね」
「別に」
謝ることしかできない。
俺は変えられない、この状況を。
「おやすみ…よく寝るんだよ」
「ん、」
扉が開いて外に出ると、俺はその場に座り込んだ。
「…すぅー」
息を思い切り吸って、吐き出す。
何とも言えないこの想いは収まらなかった。
「ごめんな…」
担当している中で、彼女と話すときだけ俺は…自分が嫌になる。
こんなことをしている自分が許せなくなる。
俺は今日も、いるまと会うことで自分の無力さを嫌った。
自分の周りを舞う桃色の蝶を鬱陶しく感じ、白衣の裾をぎゅっと掴んだ。
紫色の蝶が美しく舞い踊るあの空間に。
想いを馳せること以外……何も出来なかった。
この世界に生まれてきた人間は皆、〝蝶〟に寄生されている。
精神的なものではなく、実態として見えるものだ。
蝶は寄生した人間の元に集まり、群れを成す。
その者が一生を終えるまで…亡くなることはない。
人によって色形は異なり、 寄生から免れる方法は今のところ解明されていない。
それぞれが持つ特徴も異なるが…皆共通しているのは〝番〟という存在だ。
これがどうにも厄介で…色んな事態を招かざるを得ない。
自分が持つ蝶…それが誰かが持つ蝶の〝番〟であったとき、寄生された主同士は離れることができない。
互いの蝶は惹かれ合い、同時に寄生元同士も恋に落ちてしまう。
だからもし、蝶の番が自分の想い人ではない人だったら?
……恋を諦めるしかない。
実際にそんな事例はいくつも見てきた。
例え結婚した好きな者同士だったとしても、どちらかの蝶が番と出会うと想いは離れ離婚。
俺たちは自分の蝶に…抗うことができない。
ただ…そんな残酷な中にも、特例は稀に存在する。
〝自分の蝶を操ることができる人間〟
言い換えると自分の番を自分で決めることができる人間だ。
極少数だが…存在する。
そして…ここ、六奏第一研究所にはその希少種の者だけが閉じ込められ研究されている。
俺、桃井蘭もまたこの研究所の研究者であり…いるまは研究対象の一人だ。
ディスプレイに表示された研究対象の報告書たちを見つめながら、ため息をつく。
「はぁ…」
担当者の報告一覧をザッと流していくものの、いつも気に留めてしまうのはやはり彼女の報告書だった。
紫野 いるま
性別 女
年齢 18
経過 体温、脈拍共に良好
蝶の様子に異常なし
まだ…18歳だ。
俺も21と、かなり離れているわけではないけど。
普通に考えたらまだ高校生なのだ。
こんなところにいなければ、普通の平凡な人生を送っていただろうに。
いつも笑っていられただろうに。
研究者という立場でありながらそんなことばかり考える。
「今日はいつにも増して疲れてそうやな?」
「みこと…」
「はい、らんらんの分。ちゃんと休まなきゃだめよ?」
「うん、ありがとう」
俺のデスクの上に桃色のマグカップが置かれる。
疲れ切った姿を見て心配してくれるのは、同期の研究者であるみことだった。
「220番…いるまさん?」
「うん、そう」
「悩んどるね」
「…何に悩んでるのか、もう自分でもわかんない」
「そっか…ふふっ、俺も似たようなもんよ?」
俺の良き理解者であり、仕事仲間であり…友人とも言える彼。彼もまた…似たような悩みを抱えているという。
優しそうな蜂蜜色の瞳を見つめてみる。
「何が正解なのか、わからなくなるよね」
「本当に」
「俺も…ただ守りたいだけなんやけど」
「1218番のこと?」
「そう、らんらんにはお見通しやなぁ」
その色は優しさの奥で…いつも、何かに燃えていた。
「すっちーはいつも笑ってくれるんよ」
「自分が研究されてる側だってわかっていながら『みこちゃん』って呼んでくれる」
「……」
「本当は幸せを感じていいわけない。研究とか言って…暗い部屋に閉じ込めて、誰かの自由を奪うことなんて絶対に良くないこと」
「なのに…笑ってくれるのが嬉しくて」
彼のその想いはきっと恋…いや、愛よりも深い感情だった。
研究対象1218番の緑夜翠知は、みことの幼馴染だ。
幼い頃から一緒にいたけど、すちが希少種であると発覚してから…離れ離れになって。
そんなすちを守るため、一緒にいるために研究者になったらしい。
まぁ…表向きそんな理由だとは言えるわけではないのだけど。
「いいのみこと」
「何が?」
「そんなこと、上にバレたら首だよ?」
「わかってる」
「そんなこと…俺なんかに言っちゃっていいの」
「らんらんだから言ってるんよ」
信頼してるから。
「俺がどんなことをしても、きっとらんらんは味方でいてくれるやろ?」
「……犯罪とか庇いきれない範囲は流石に無理だって」
「ははっ、そこまではしないよ」
…純粋にそういう姿には、流石に完敗だ。
「考えたことある?」
「?」
「俺の蝶が番だったらいいのにって」
「それってさ、」
「うん…俺は思ってる。すっちーが選ぶ番が俺だったらいいのにって考えちゃうんよ」
我ながら重いなぁ、ってみことはまた笑う。
それだけすちのことが好きなのだろう。
自分の研究対象以外に会うことは少ないが、俺も一度だけ会ったことがある。
綺麗な緑色の髪に対照的な紅眼。おっとりとしていて…にこっと笑う姿はみことに似ていた。
彼の真似をしたのか、らんらんって柔らかい声で呼ばれたときは、本当にこの子が実験対象なのかって疑ったくらいだ。
対象に選ばれた者のほとんどは、希望を失って諦めた顔をするから。
あんなに優しく、普通に笑う子は初めて見た。
「…許してね、」
「……」
「いつか俺が、ここから消えても。逃げても。 せめて…らんらんだけは幸せになって欲しいから」
そんな言葉の意味。
俺にはわかってしまった。そっか、覚悟が決まったんだね。
寂しくなるなっていう気持ちの一方でその勇気が羨ましいと思ってしまう。
「みことも、幸せになってね」
「勿論そのつもりよ」
二人揃ってまた笑う。
随分と長く話をしていたらしい。
入れてくれたコーヒーはすっかり冷め切っていた。
「らんらんにはいないの?そういう人」
「…いないよ」
「いるまさんとかは?」
「……いるまは、」
その姿をまた思い返す。
いつも見ている儚い光景が頭に浮かぶ。
彼女が…彼女が、もし俺を望んでくれるなら。
なんて…考えてはみたけど、そんなことあるはずがない。
だって俺は、みことのように助けられていないのだから。
すちはきっと、みことがいるから。研究者という立場だったとしてもみことが隣にいるから笑ってられるんだ。
俺にはそんなこと…できない。
救ってあげられない。
「あの子は…俺には綺麗すぎる」
そう自分で呟いた言葉に、少しだけ…胸が痛んだ気がした。
真夜中。
ただ暗い闇の中、研究所にサイレンの音が響いた。
「何だ…っ!?」
「研究対象に何かあったのかっ!?」
辺りの研究員たちは揃って騒ぎ出した。
そんな光景を見回しながら俺は焦りもせずコーヒーを口に含む。
警告音から数秒後。
新たにアナウンスが入る。
『緊急連絡、黄瀬深琴の契約違反を確認』
その名前にやはりか、と顔を見上げた。
『研究対象1218番を連れて逃亡の模様。職員は見つけ次第、至急連れ戻せ』
一方で研究室内には困惑の声が広がっている。
あの黄瀬が?真面目な黄瀬が何でそんなことを…と。
その反応で…本当に伝えられていたのは俺だけだったんだなって察する。
相当信頼してくれていたのだろう。
…俺も、彼のことは同じくらい信頼していた。
騒ぎの中静かに廊下へと出て、人気のない別の研究室へと足を運ぶ。
人気のない場所。
みことが言っていた場所から窓を覗いてみると。
「っ…」
そこには、思わず目を見張るような光景があった。
この闇夜の中、黄色の蝶と緑色の蝶は…ひらひらと舞い踊っていた。
そこの一体だけが綺麗な色に輝き、何故か暖かさを感じる。
勿論、舞い踊る蝶の中心に立つのは…みこととすちだった。
「よかった…」
番になれたんだね。
すちは、自分の意思でみことを選んだんだ。
二人で話したあの晩から約数ヶ月。遂に、決行された。
「綺麗だよ、」
窓から覗く二人は…笑っていた。
研究対象の解放という禁忌を犯し、逃亡している身だというのに…本当に楽しそうで、幸せそうだった。
手を握って、走りながら研究所から遠ざかっていく二人の姿を俺は見届ける。
…強いな、みことは。
これからどうなっていくかの不安もあるはずなのに、そんなことより未来を見据えていた。
どうか、追っ手が追いつくまでに逃げて。
「…幸せになってね」
らんらん、と呼ぶ二人の声を同時に思い浮かべる。
きっと…今の彼らなら。
何処か遠い場所でも…大変な状況下でも上手くやっていける。
俺は逃亡という選択をとった友人の幸福を、願うばかりだった。
「ありがとう。また、どこかで」