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『バイト終わったらまた来るから。何時に終わる?』
私は、結局、その申し出に甘えた。
その夜、誰もいない公園で、今までの苦しみと悲しみを吐き出すように全て話し、そして……号泣した。
ずっと長い間1度も泣かずに我慢してた分、気が狂ったみたいに泣いてしまった。
その間、私の声は切なく響き……
闇に静寂が戻るまで、この人は、こんなみっともない私をそっと抱きしめて、ただ待ち続けてくれたんだ。
少し落ち着いて、涙でぐちゃぐちゃになった顔をゆっくり上げたら、
『何も心配することないよ。大丈夫だから』
って、とても優しい笑顔で言ってくれた。
その言葉と表情にホッと気持ちが軽くなり、久しぶりに「生きてる」って、実感することができた。
『大学にはおいで。授業以外はずっと一緒にいるから。そしたら、何か言われても俺が守れるだろ?』
守る……?
彼女でもない私を守ってくれるの?
でも「どうして?」とか、そんなこと考える余裕もなく、とにかくこの人に頼りたいって……その思いだけで私はうなづいていた。
『正孝って呼んでくれたらいいよ。君は、真美ちゃんだね』
『私の名前……?』
『ごめん、前に友達に聞いてた。とにかく、何かあればいつでも連絡して』
私達は連絡先を交換し、その日は家の近くまで送ってくれて、そして、別れた。
正孝君は、1人電車で帰っていった。
どうしてこんなところまで来てくれたのか、その時はわからなかった。
だけど、今ならわかる。
あの時、正孝君は、私にわざわざ会いにきてくれたんだって。
それに、後になって父が言ってた。
彼がパン屋に来てくれてから、しばらくして「榊グループ」という有名な大企業から新しい仕事が急に直接うちの会社に入ったって。
驚くほど大きな仕事で、親会社の吉木工業はかなり悔しがったらしい。
正孝君が榊グループの御曹司だなんて、私は全く知らなかったし、彼も一切何も言わなかった。
でもきっと、うちの作る製品のことをちゃんと調べてくれて、信頼して、仕事を回してくれるようお義父さんに頭を下げてくれたんだろうと……そう思ってる。
両親も私も、彼には感謝してもし切れない。
そのことは今でも忘れてはいない。
正孝君は、私達家族の命の恩人。
それからは、有り難いことに金銭的に一切困ることなく、つらい時を支えてくれた従業員みんなの生活が少し潤った。
大学に行って、最初のうちは私にイヤミを言ってきてた彼女も、
『君には君の夢があるだろ? そこに向かって一生懸命頑張っていけばいいよ。他の人を攻撃するような時間はないはずだ。もう、これ以上、彼女に近づかないでくれ』
そんな誠実な正孝君の言葉に、いつしか何も言わなくなった。
毎日の勉強は大変だったけど、いつも側に彼がいてくれて……