コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「……なァ、ちょっと、ねぇ、そこの……、君だって!」
青信号になるのをぼんやりと待っていたスクランブル交差点で、ふいに背後から呼び止められた──ような気がした。
「……えっ、なに?」
──ターミナル駅前の賑わう繁華街、仕事帰りなどの人たちでごった返す中で、
大声で呼ぶ声に、好奇に満ちた視線が自分に一斉に集中したこともあって、怪訝に感じつつ声をかけてきたのだろう人物を振り返った。
「……誰、ですか?」
「誰とは、ごあいさつだな?」
そこには、毛先をピンと立たせた薄茶色の長めの髪をした長身の男が立っていて、恐らく初対面なはずの私に、そう軽口を叩いて、唇の端にどこかうさんくさそうな笑いをニッと浮かべた。
なに、このチャラそうな男……。
「ナンパなら、お断りだから」
顔をしかめて、きっぱりとお断りをさせていただく。
その男ときたら、辺りは日が落ちて暗くなりかけていると言うのにサングラスを掛けていて、茶髪にサングラスなんていういかにも軽そうな見た目に、いい加減付きまとわれても困るしとスッパリと切り捨てると、ようやく青に変わった横断歩道を渡ろうと足を踏み出した。
と──、右腕が後ろからぐいと捕まれて、また横断歩道の手前に引き戻された。
「ちょっと待ってって! あんたさ、けっこう気ぃ強いね? でも俺は、そういうタイプは嫌いじゃないけど」
「……嫌いとか嫌いじゃないとか、そういうのどうでもいいんで」
掴まれている腕を振りほどいて、
「ナンパとか、迷惑なんで」
まるで絶対に落とせるとでも思っているような、自信ありげな顔つきに告げた。
「違うって、ナンパじゃないから、ホントに」
そう言いながら、男が私の正面に回って来て、
「ナンパじゃなく、店へのお誘いだって」
ふっと口角を引き上げると、どう見たって営業スマイルにしか思えない、あからさま過ぎな作り笑いを浮かべた。
「……だったら、キャッチですか?」
青だった信号が点滅をして赤になってしまっても、まだ放してはくれないうっとうしさに、ややうんざりして聞き返すと、
「ああ、それも違うな……」
男は口にすると、胸ポケットから一枚のカードのようなものを取り出して、私に手渡した。
「何ですか、これ?」
反射的に受け取って、どうやら名刺らしいそれに目を落としてみると……、
『超イケメン✧ホストクラブ』
そこには、コレってネタなの? とも感じられる、どうにも悪ふざけとしか思えないような店名が記されていた──。