テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
kaede🍁
12,147
みら

3,070
15,080
#AI
みら

10,531
「おはようございまーす。」
楽屋のドアが開く。
真っ先に入ってきたのは目黒。
そして、その腕の中には当然のように阿部が抱えられていた。
「おはよう。」
佐久間が一番に笑う。
「もう見慣れたね。」
「うん。」
宮舘も穏やかに頷く。
「驚かなくなった。」
翔太は肩をすくめる。
「もうそれでいいんじゃね?」
「あべちゃんも歩く気ないみたいだし。」
「いや、あるから!」
阿部はすぐに反論する。
「毎回降ろしてって言ってるから!」
「でも降ろしてもらえてないじゃん。」
康二が笑う。
「つまり、そういうことや。」
「違うって!」
部屋中が笑いに包まれる。
照れた阿部は、思わず目黒の肩へ顔を隠した。
「もう……。」
「みんなして。」
目黒はそんな阿部を見て満足そうに微笑む。
「かわいい。」
さらに笑い声が大きくなった。
___________
リハーサルも順調に進み、休憩時間。
メンバーは飲み物を飲んだり、雑談したり、それぞれ自由に過ごしていた。
そんな中、阿部は鞄から一冊の参考書を取り出す。
資格試験の参考書だった。
「また勉強?」
佐久間が覗き込む。
「うん。」
「少しでも進めたくて。」
阿部は真剣な表情でページを開く。
すると。
目黒は何も言わず、その隣へ座った。
肩が触れるくらい近い距離。
阿部がページをめくるたびに、静かに見守っている。
「めめ。」
「ん?」
「そんな近くにいなくても……。」
「いる。」
即答だった。
「また一人で考え込みそうだから。」
阿部は苦笑するしかない。
「大丈夫だよ。」
「信用して。」
目黒は優しく笑う。
「信用してる。」
「だから隣にいる。」
その言葉に、阿部は少しだけ照れながら参考書へ視線を戻した。
___________
生配信が始まる。
新曲のトーク。
ゲーム企画。
歌唱。
どの場面でも、偶然とは思えないほど目黒は阿部の隣に立っていた。
カメラが回っていない間も。
立ち位置が変わるたびに。
自然と阿部の隣へ戻ってくる。
その様子に、スタッフまで苦笑するほどだった。
___________
番組はいよいよエンディング。
深澤が司会として最後の挨拶を始める。
「それでは皆さん、本日は最後までご覧いただきありがとうございました!」
「新曲もぜひたくさん聴いてください!」
メンバー全員がカメラへ向かって手を振る。
その瞬間だった。
阿部が、おもむろに背中側へ手を伸ばす。
「ん?」
隣の目黒が気付く。
次の瞬間。
阿部は一枚の紙を両手で広げた。
白い用紙。
左上に大きく印字された文字。
『婚姻届』
ほんの二、三秒。
カメラがその方向を向いたままになり、画面にもその文字が映り込んだ。
「えっ!?」
佐久間が目を丸くする。
「ちょっ、あべちゃん!?」
康二が思わず吹き出す。
「待って待って!」
翔太は頭を抱え、
「今、映ったよね!?」
宮舘も珍しく驚いた表情を見せる。
司会をしていた深澤も一瞬言葉を失い、
「……え?」
と固まる。
そして誰よりも固まっていたのは、目黒だった。
「……あべちゃん。」
目黒は婚姻届と阿部の顔を交互に見つめる。
阿部は真っ赤になりながらも、その紙をぎゅっと握りしめていた。
___________
生放送が終わり、メンバー全員で楽屋へ戻る。
ドアが閉まった瞬間。
「あべちゃん!」
佐久間が勢いよく声を上げた。
「さっきの何!?」
「びっくりしたんだけど!」
康二も苦笑いを浮かべる。
「生配信で婚姻届なんか出す人、初めて見たわ。」
深澤は額に手を当て、大きくため息をついた。
「司会してるこっちが固まったんだけど。」
「俺、本番中なの忘れそうだった。」
翔太は笑いながら首を振る。
「二、三秒だったけど、しっかり映ってたよ。」
宮舘が穏やかな声で言う。
「まずは確認しよう。」
阿部は少し恥ずかしそうに紙を取り出し、目黒へ手渡した。
目黒は慎重に開く。
その周りを、メンバー全員が自然と覗き込んだ。
「……これ。」
岩本が思わず呟く。
「本物だよね。」
市役所でもらえる正式な婚姻届。
冗談で作った紙ではない。
目黒はゆっくり視線を落とす。
そこには阿部の名前。
生年月日。
個人情報は空欄だが、丁寧な字で書かれていた。
目黒の欄だけが、ぽつんと空いている。
「……あべちゃん。」
目黒は静かに名前を呼ぶ。
阿部は少しだけ俯き、ゆっくりと話し始めた。
「女の子になって、少し経ってから書いた。」
楽屋が静まり返る。
「めめは、ずっと俺に愛情をくれた。」
「毎日、大好きって言ってくれて。」
「不安にならないように、いっぱい支えてくれた。」
阿部は少し笑う。
「でもさ。」
「めめって、本当にモテるじゃん。」
誰も否定しない。
「ファンもたくさんいるし。」
「仕事先でも人気者だし。」
「かっこよくて、優しくて。」
「……俺なんかより、もっと素敵な人はいっぱいいるって。」
その声は少し震えていた。
「いつも。」
「心のどこかで、自分に自信がなかった。」
目黒が何か言おうとする。
しかし阿部は首を横に振った。
「それでも。」
「俺は、めめが好きだった。」
「だから。」
婚姻届へ視線を落とす。
「結婚なんて、できないかもしれない。」
「法律のこともあるし。」
「世間の目もあるし。」
「現実は難しいって分かってた。」
「でも。」
阿部は少し照れくさそうに笑った。
「名前を書いてみたかった。」
「誰にも見せるつもりはなかった。」
「お守りみたいな気持ちで。」
「ずっと本棚に隠してた。」
楽屋にいる全員が、その言葉を静かに聞いていた。
阿部は今度は目黒だけを見つめる。
「記憶がなくなった時。」
「俺のこと、忘れちゃったけど。」
「それでも。」
「また俺を好きになってくれた。」
「また俺を選んでくれた。」
自然と涙が溢れる。
「その時、思ったんだ。」
「もう隠さなくていいかなって。」
「この人は。」
「何度でも俺を選んでくれる人なんだって。」
阿部は照れながら笑う。
「だから。」
「ほんの二、三秒だけ。」
「全国のみんなに見せた。」
「『目黒蓮は俺の大切な人です』って。」
「俺なりの覚悟。」
「俺なりの、お詫び。」
そう言って小さく頭を下げた。
誰もすぐには言葉を返せなかった。
目黒は婚姻届を大切そうに胸へ抱き寄せる。
そして阿部の前まで歩いていき、優しく抱きしめた。
「……あべちゃん。」
目黒の声も少し震えていた。
阿部がゆっくり顔を上げる。
目黒は涙を浮かべながら微笑んだ。
「俺、あべちゃんの覚悟。」
「ちゃんと受け取った。」
「ありがとう。」
その一言に、楽屋の空気がふっと和らぐ。
佐久間は目元を押さえながら笑い、
「あべちゃんらしいサプライズだね。」
と呟いた。
誰も茶化さなかった。
その婚姻届は、法律上の意味ではなく、阿部が「もう逃げない」と決めた証として、メンバー全員の心に深く刻まれた。
コメント
2件
💚の覚悟がぶっ飛んでた🤣 婚姻届を渡すのは🖤だと思ってたら…保証人の欄はパパとママだね
ああ、もう泣きそうになりました……。阿部ちゃんが婚姻届を「お守り」としてずっと隠していたっていうのが、もう本当に切なくて。自信がないからこそ書いた名前、それを「もう隠さなくていい」って思えた瞬間の強さ。生配信のあの二、三秒に全部の覚悟を詰め込んだ阿部ちゃん、本当にかっこよかったです。目黒くんの「受け取った」も優しすぎる……。メンバーみんなの温かい空気も素敵で、読後感がじんわりしました。