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*中学時代設定
*ハッピーエンド
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side omr
___これは違うな
PCモニターに映る作りかけの楽曲をぼんやりと眺めながらdeleteキーを押す。
一瞬にして画面から消え去った作りかけの曲。
飽きてしまったその曲に未練は無いがそれでも何とも言い表せない喪失感に襲われる。
時計に目をやると朝7時を指し示していた。
いつの間にか朝になっていたらしい。
大きく伸びをしてPCの電源を落とし、シャワーへ向かう。
熱いお湯を頭から浴びながら、毎朝家に来るはた迷惑な彼の顔が頭に浮かぶ。
「…今日も来るのかな」
苦手だ、迷惑だ、と思っているはずなのに声が上擦ってしまう。
いつからだろう、 苦手なはずだった彼に会うことが楽しみになったのは。
いつからだろう、嬉しそうに笑って話す彼から目が離せなくなったのは。
いつからだろう、彼の口から出る彼女の話を聞きたくなくなったのは。
いつからだろう。
恋をしてしまったのは。
「…っ」
自覚してから苦しくて仕方ない。
男同士、 告白なんて出来るわけも無い。
彼は女の子が好きなのだから。
親友のその先になることなんて無いのだから。
絶対に実らない恋に一喜一憂している。
心臓をまるごと握られているようだ。
心底惨めだと思う。
いっそ伝えてしまおうか、そんなことを毎日考えている。
周りに言いふらして笑いものにするようなクズでは無い。
きっと戸惑いながらも誠意を持って答えを出してくれるはずだ。
でも、だからこそ気持ちを伝えて自分だけが清々しくこの恋を終わらせたいという自己満足で彼を困らせたくない。
それに、告白できないでいる理由はもうひとつ
それこそ自分勝手で醜い想い。
僕が何度突き放しても、諦めずに手を伸ばし築いてくれたこの関係が切られてしまった時。
なんにも無い空っぽの自分になってしまうのが怖い。
この日々を失いたくないと思ってしまう。
___全部いっしょに流れてくれたらいいのに
シャワーから流れ落ちる水が排水溝に吸い込まれていく様を眺めながら願う。
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シャワーから上がり身だしなみを見れる程度に整えると時刻は7時40分を示していた。
学校に行くつもりはないが、あまりにもくたびれた装いでは彼に幻滅されてしまう。
携帯電話を手に取るといつも通りメールが届いていた。
(おはよう!今日も家寄る!)
そんな短い一文に心躍ってしまう自分をアホらしいと思うのに、どうしても喜びが隠しきれず滲み出てしまう。
緩んでしまった頬を一度強めに叩くと
「……若井は、女の子が好きだから。」
目を瞑り自分に言い聞かせるように呟く。
自分の言葉に悔しくなり唇をぐっと噛みしめる。
自分を呼ぶ音が部屋に響き、玄関へ向かいドアを開ける。
「おはよう!今日は学校行く?」
「おはよう、行かない」
若井は残念そうに口を尖らせ言葉を続ける。
「えぇー、元貴いないと楽しくないよ」
「おまえ友達多いじゃん」
「でも俺元貴と喋ってる方が楽しいよ」
「……友達が可哀想」
慌てて目をそらす。
友達が可哀想などと言ったくせに、 自分が1番だと言われているようで頬が熱くなった。
「…僕は今日も行かないから、早く行きなよ遅刻するよ」
ずっとこのまま居てくれたらなんて思いながら真逆の言葉を吐く。
「えぇー、もう休んじゃおうかな」
冗談だと分かりきっているその言葉についつい舞い上がって頬が火照ってしまう。
火照った顔がバレないように俯いていると若井が顔を覗き込んでくる。
「なんか…顔赤くない?大丈夫?熱?」
若井の手のひらがゆっくりとこちらに近付いてくるのが見えた。
パシッという音を立てて 額に伸ばされた腕を反射的に払ってしまった。
若井は一瞬驚いたような表情を見せると少し悲しそうな顔で狼狽する。
「ご、ごめん…いきなり触ろうとして」
「っ、ちょっとびっくりしただけだから……気にしないで 」
触れられたくない
触れられたら、手のひらの温度を知ってしまったら、欲張りな僕はもっと欲しくなってしまうから
その先を期待してしまうから
その先の相手に僕が選ばれるわけが無いのに
どうせ手に入らないのだから触れないで
教えないで、貴方の温度を。
「あ、れ…へんなの…なんで… 」
気付けばぽろぽろと涙が零れ落ちていた。
「っごめん、ごめんなさい…若井っごめん…っ」
手を払ってごめんなさい。
困らせてごめんなさい。
自分勝手でごめんなさい。
好きになってしまってごめんなさい。
「元貴…?」
突然泣き出した僕に困惑している若井の声に応える余裕もなくなり、嗚咽を漏らしながら涙が溢れて止まらなかった。
とにかく若井の目の前から消えてしまいたくて急いで自分の部屋に駆け込み床に座り込んで泣きじゃくる。
追いかけて来た若井は部屋に入るととなりに座り、 1度深く呼吸したかと思うと、僕の体を引き寄せて抱きしめた。
「…嫌だったら突き飛ばして。」
耳元でそっと囁かれると、心地よい声に心がほぐれた。
そのまま抱きしめられていると落ち着きを取り戻し、やがて涙も止まった。
そっと体を離されると、じっと見つめられる。
しばらく見つめ合っていると若井が口を開いた。
「…なにがそんなに苦しいの…教えてよ。俺じゃダメなの?」
「…困らせちゃうから、だめなの」
「もう十分困ってるよ?」
少し茶化して言われる
若井の言うとおりだ、自分でも意味のわからない懺悔をしながら泣きじゃくってもう十分すぎるほど困らせている
それも登校時間がとっくに過ぎているというオマケ付きだ。
泣きすぎて頭も回らない、なんだかもうどうでもよくなってきた。
「…すきになっちゃったの…若井のこと」
「くるしいの、僕は女の子じゃないから、いちばんになんてなれないから」
「つらいから、もう終わらせたいのに、空っぽになっちゃうから終わらせたくないの 」
そう言うと同時に大粒の涙が1滴頬を伝った。
「俺は、元貴のことをそんな風に見たこと無かったから…」
若井のその言葉でこの恋の終わりを悟りゆっくりと目を伏せた。
「これから元貴と遊ぶ時意識しちゃうかも…」
「…ぇ?…は??」
何を言っているのか理解できず思わず伏せていた目を見開いて素っ頓狂な声が漏れる
普通”そんな風に見たこと無かった”の後に続く言葉といえば付き合えないとか気持ち悪いとかの否定の言葉だろう。
どうやら若井は僕が思っていたよりずっと変わった思考回路をしているようだ。
本当によく分からない。
「いや、どういうこと…?」
「え?今までは恋愛として見ることが無かっただけで、そういう目で見るようになったら付き合いたいと思うようになるかもしれないじゃん」
「さっき抱きしめた時も落ち着く感じしたし 」
「…あと、さっきの告白のとき涙目で上目遣いだったの可愛いって思っちゃったし」
かぁっと顔が熱くなる。
「っ、でも友達と恋人は違うじゃん…! …き、すとか」
「俺は他の友達にはやりたくないけど元貴には出来ると思う。あれ?これって元貴のこと好きなのかな? 」
「そんなの知らない…」
「…してみる?」
耳元でそっと囁かれ、なにも答えずにいると掠めるようにそっと唇同士が触れ合った。
1度唇が離れると今度はしっかりと押し付けられる。
唇を優しく食むようにキスを落とされると温かい多幸感に包まれる。
唇が離れると若井が口を開いた。
「…なんか、これで確かめられた気がする…。」
「元貴、俺と付き合って。幸せにするから 」
告げられた言葉にまた視界が滲みこくりと頷くと両手を広げ勢いよく抱きつきながら声を上げて泣いた。
終