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第八話 〜さよならを言う勇気〜
深夜の救急外来。雨音がガラス窓を叩く。
【ナース】
「蓮先生、ご家族が来ています。意識があるうちに…と。」
ICUのベッドには、助けてきた多くの命とは違う、静かに命の灯が消えかけている一人の女性患者。
蓮の高校時代の恩師・本庄美佐子(62)。末期の心不全で救急搬送されたが、手遅れだった。
面会室で、中島が一人、恩師の娘と向き合う。
【娘】
「母は、“蓮くんになら見送ってもらいたい”って…。あの子の人生に後悔はなかったみたいです。」
蓮、声を詰まらせながらうなずく。
【中島蓮】
「……僕が、先生の最後を…見届けます。」
病室。蓮が手を握ると、恩師が微かに目を開く。
【本庄美佐子】(かすれる声)
「蓮くん……立派になったね……あの時、君が“医者になる”って言ってたの……思い出すよ……」
蓮の目に涙が浮かぶ。
【中島蓮】
「先生……僕、まだ全然です。でも……命を諦めない医者になります。」
【本庄美佐子】
「もう……なってるよ。私には……わかる……よ……」
心電図が、ゆっくりと…波を止める。
ピ———
蓮は誰にも見られぬよう、静かに頭を垂れる。
ドアの外に、佐藤が立っている。
【佐藤悠真】(静かに)
「命を救うだけが、医者じゃない。“見送る覚悟”も、同じだけ重い。」
蓮は泣きながら、はっきりとうなずく。
翌日、病院の屋上。藤原と缶コーヒーを飲みながら。
【藤原大輔】
「…その人、俺らにとっての“初めての死”だったか?」
【中島蓮】(微笑む)
「いいえ。“初めて、ちゃんと別れを言えた命”でした。」