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疑問に思いながらも、正直、胸がザワザワしてる。
「大切」も「特別」も、私にすればあまりにもドキドキする言葉で、今までそんなことを男性に言われたことがなかったから。
私は、あれから時々、常磐さんのことを考えていた。
ふとした時、なぜだかわからないけど、あの人の顔が浮かんできて……。もう一度会いたいな、会って話ができたら嬉しいな……って、そんな淡い期待をバカみたいに抱いてしまって。
「松雪様、こちらに着替えていただき、プールサイドでお待ち下さい。すぐに本日のインストラクターがまいりますので」
「は、はいっ。ありがとうございます」
結局、カードを受け取ってしまい、変な罪悪感に苛まれた。
でも、今後、これを使うことはない。だって、常磐さんに会えても会えなくても、体験コースを1度だけ受けたら辞めようと思ってここに来たから。さすがに、スクールの入会金や月謝は、今の私には高額過ぎる。
それに、常磐さんと何の関係もない私が、カードの特典を使って厚かましく通い続けるなんておかしい。
このスクールには、本格的な水泳選手を育てるためのプールと、会員が健康維持のために使うプールがそれぞれ別に2つあり、さらに、ランクによってはプール利用者のみが入れる露天風呂付きの温泉施設まで完備されていた。
体験コースにあらかじめ用意されている水着に着替え、プールサイドに進んだ。何も持たずに体験コースを受けられるのも、このスクールの魅力だ。
まさか常磐さんが来てくれることはないよね……
インストラクターを待つ間、変な緊張感に襲われ、心臓が高鳴った。
「お待たせ致しました」
あ、違った……
そりゃそうだよ、常磐さんなわけないよね。
目の前に筋肉たっぷりの大柄の男性が現れ、常磐さんとは全く違うタイプの登場に、ホッとしたような、残念なような、複雑な気持ちになった。
「よろしくお願い致します」
「インストラクターの山根です。松雪さんですね」
「はい」
「頑張っていきましょう!」
「は、はい!」
それにしても、声が大きくて元気な人だ。肌の日焼けがすごい分、歯の白さがかなり目立ってて、ちょっと笑ってしまいそうになった。
「松雪さんは水泳の経験はありますか?」
「学校の授業で泳いだくらいで……。あまり得意ではないです。健康のために何かできたらと思ってこちらにお邪魔しました」
「よくわかりました。大丈夫です! 本来ならご予約の時にお聞きしてコースを決めるのですが、松雪さんは特別ですからご安心下さい。どのような要望にも対応いたします。今日は僕が丁寧に対応させていただきますので、よろしくお願い致します」
「予約しなきゃいけなかったんですね。すみません、私、勝手に来てしまって」
「とんでもないです!! 常磐から聞いておりますので大丈夫ですよ」
その笑顔に救われ、元気なインストラクターさんに言われる通りに準備運動をし、ゆっくりとプールに体をつけた。