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第三十八章 中途半端な優しさ
――亮平の部屋。
整いすぎている、というのが最初の印象だった。
机の上には無駄なものが一切ない。
資料は綺麗に揃えられていて、
開かれたノートの文字まで、几帳面に並んでいる。
……なのに。
どこか、落ち着かない。
翔太💙「……お邪魔します」
亮平💚「いらっしゃい」
ドアが閉まる音が、やけに大きく響いた。
翔太は、そっと部屋を見渡す。
(……こんな部屋、だったっけ)
記憶の中の亮平の部屋は、もっと雑然としていたはずだ。
積み上がった論文、開きっぱなしの参考書、読みかけの資料に埋もれるような机。
――“忙しさ”がそのまま形になったような部屋。
なのに今は。
不自然なほど、整っている。
翔太💙「……綺麗、ですね」
ぽつりと零した言葉に、亮平は一瞬だけ目を細めた。
亮平💚「でしょ?」
軽い声。
亮平💚「頑張った」
翔太💙「……え?」
亮平💚「翔太、こういうの気にするタイプじゃん」
当たり前みたいに言われて、言葉に詰まる。
亮平💚「散らかってたら、帰りたくなるでしょ」
さらりと。
何でもないことのように。
でも――逃げ道を、先に潰された気がした。
翔太💙「……そんなこと、ないです」
亮平💚「ふーん」
小さく笑う。
亮平💚「じゃあ、よかった」
その言い方が、妙に引っかかった。
そっと翔太の手に触れた亮平。手の甲に柔らかい唇を押し当てると〝来てくれてありがとう〟そう言ってゆっくりと離れた。
翔太💙「……っ」
頰が熱くなったのを感じて思わず両手で頰を覆った。
亮平💚「ふふっ……可愛い」
亮平は机の方へ歩き、揃えられた資料の束を手に取る。
亮平💚「本題、いい?」
翔太💙「あ、はい」
空気が、少しだけ切り替わる。
亮平💚「佐久間の外泊、初回だからね」
一枚、資料を差し出す。
亮平💚「“外泊計画書”。叩き台は作ってある」
翔太はそれを受け取る。整った文字、無駄のない構成。
――完璧すぎる。
亮平💚「時間は短め。移動距離も制限」
亮平💚「同伴あり。単独はまだリスク高い」
淡々とした説明。
完全に、仕事の顔。
翔太💙「……血栓、今は安定してるんですよね」
亮平💚「うん。今はね」
“今は”
その一言が、やけに重い。
亮平💚「でも、だからって安全とは限らない」
ペン先で資料を指す。
亮平💚「倒れる可能性は、ゼロじゃない」
翔太💙「……はい」
亮平💚「むしろ」
視線が、ゆっくり上がる。
亮平💚「“何も起きない前提”で外に出す方が危ない」
一拍。
亮平💚「最悪を想定して、それでも出すかどうか」
その言葉が、妙に胸に引っかかった。
――選ぶ、ということ。
亮平💚「で、問題はここ」
指先が、次の項目に移る。
亮平💚「同伴者」
翔太💙「……あ」
亮平💚「誰が見るかで、結果変わるから」
さらりと言いながら、そのまま――
翔太の手に触れる。
一瞬。
亮平💚「震えてる」
翔太💙「……っ、違います」
反射的に引こうとした手を、軽く、押さえられる。
亮平💚「昨日も一緒だったんでしょ?」
翔太💙「……え?」
亮平💚「蓮と」
あまりにも自然な声。
詰めるでもなく、ただ、“知っている”前提。
翔太💙「……送ってもらっただけです」
亮平💚「ふーん……朝帰りだけどね」
興味なさそうに返しながら、指は離れない。
亮平💚「外泊ってさ」
ペンを机に置く。
亮平💚「“誰と過ごすか”で、全部変わるんだよね」
視線が、真っ直ぐ落ちる。
亮平💚「安心する相手か」
一拍。
亮平💚「――乱される相手か」
翔太💙「……っ」
握られた手の甲を、親指ですりすりとなぞっている。
言葉が、詰まる。
何も言っていないのに、全部、見透かされている気がした。
亮平は、ふっと笑う。
亮平💚「まぁ」
指先が、ようやく離れる。
亮平💚「計画書はちゃんと仕上げようか」
何事もなかったようにまた、仕事の顔に戻る。
でも、さっきまで触れていた場所だけが、やけに、熱を持っていた。逃げ場なんて、最初からなかったみたいに。
――静かな部屋で、何も決まっていないはずなのに、何かだけが、確実に進んでいた。
亮平は、何事もなかったように資料をめくる。
亮平💚「外泊については、翌日午後3時までには病院に帰ること」
淡々とした声。
亮平💚「院外での滞在は一箇所に絞る。移動は最小限」
ペン先が、さらりとラインを引く。
亮平💚「人混みは避ける。階段も極力使わせない」
翔太💙「……はい」
返事はできるのに、頭のどこかが、さっきのまま動いていない。
亮平💚「で、連絡体制」
次のページを開く。
亮平💚「異変があった場合、即時連絡。搬送先は――」
一瞬、言葉を区切る。
亮平💚「蓮のところでいいよね?」
翔太💙「……っ」
顔が、上がる。
亮平は、こちらを見ていない。
ただ、書類を見たまま。
亮平💚「主治医だし。最短で判断できる」
正論。
逃げ場のない、正論。
翔太💙「……はい」
亮平💚「うん、じゃあ決まり」
さらりと書き込む。
その横顔が、やけに静かで。
何を考えているのか、分からない。
亮平💚「――あの人、仕事はちゃんとしてるからね」
ぽつり、と落ちる。
翔太💙「……え?」
亮平💚「蓮」
視線は、まだ書類の上。
亮平💚「私情挟まないタイプでしょ」
一拍。
亮平💚「そこは、信用していいと思うよ」
翔太💙「……」
肯定も否定もできない。亮平は、くすりと笑った。
亮平💚「……その顔」
ペンを置く。
亮平💚「“分かってるけど嫌だ”って顔してる」
翔太💙「そんなこと――」
亮平💚「あるよ」
かぶせるように、静かに。
亮平💚「じゃなきゃ、あんな顔しない」
視線が、ようやく合う。
逃げられない距離。
亮平💚「昨日も」
少しだけ、首を傾げる。
亮平💚「ちゃんと帰してくれた?」
翔太💙「……っ」
言葉が、詰まる。
肯定も、否定も。
どっちを選んでも、何かが露わになる。
亮平💚「ふーん」
答えを待たない。
それだけで、十分だと言うように。
亮平💚「まぁいいや」
また、ページをめくる。
亮平💚「服薬管理はどうする?」
何もなかったみたいに、話を戻す。
でも、さっきまでよりも、距離が近い。
亮平💚「外泊中、ちゃんと飲める?」
翔太💙「……本人は、自立してますけど」
亮平💚「“本人は”ね」
言葉をなぞるように、繰り返す。
亮平💚「でも、不安定な状態の時ってさ」
ちら、と視線が上がる。
亮平💚「誰かに委ねたくなるじゃん」
一拍。
亮平💚「判断とか、全部」
翔太の喉が、かすかに鳴る。
亮平💚「で、その“誰か”が間違ってたら」
静かに、笑う。
亮平💚「一番危ない」
――それが誰のことを指しているのか、
分からないはずなのに。
分かってしまう。
亮平💚「だから」
ペン先が、トン、と紙を叩く。
亮平💚「この外泊、ちゃんと設計しないとね」
その声は、あくまで冷静で。
あくまで、“医者”だった。
でも。
その奥にあるものを、見ないふりなんて、できなかった。
亮平のペン先が、紙の上で止まる。
ほんの一瞬。
亮平💚「……あとさ」
何気ない声。
亮平💚「外泊中のストレス要因」
さらりと項目を指す。
亮平💚「これも、ちゃんと考えないと」
翔太💙「ストレス……ですか?」
亮平💚「うん」
ページを軽く叩く。
亮平💚「環境の変化もそうだけど」
亮平💚「“人間関係”が一番影響する」
その言葉に、わずかに息が詰まる。
亮平は、気づいているのかいないのか、淡々と続ける。
亮平💚「安心できる相手ならいい」
亮平💚「でも」
指先が、ゆっくりと紙の上をなぞる。
亮平💚「感情が揺れる相手と一緒だと」
一瞬、視線が上がる。
亮平💚「それだけで負荷になる」
翔太💙「……」
逃げたいのに、逃げる理由が見つからない。
亮平💚「例えばさ」
さらりと。
本当に“例え話”みたいに。
亮平💚「気持ちが不安定になる相手と一緒にいたら」
亮平💚「ちゃんと休めないでしょ」
翔太💙「……っ」
図星を突かれたような感覚に、言葉が出ない。
亮平は、わずかに首を傾げる。
亮平💚「違う?」
翔太💙「……そんなこと」
亮平💚「あるよ」
また、静かに被せる。
亮平💚「顔に出てる」
逃げ場を、与えない言い方。
亮平💚「昨日からずっと」
その一言で、空気が、変わる。
翔太💙「……っ」
亮平は、ペンを置いたまま、ゆっくりと体を起こす。
距離が、近づく。
亮平💚「ねぇ」
低い声。
亮平💚「そんな状態で」
ほんの少しだけ、顔を寄せる。
亮平💚「誰かを“看る側”に立てると思う?」
翔太💙「……!」
一瞬、言葉を失う。
それは責めているわけじゃない。
でも、逃げられない“正しさ”だった。
亮平💚「外泊ってさ」
小さく、息を吐く。
亮平💚「患者のためだけにあるんじゃないんだよ」
視線が、真っ直ぐに刺さる。
亮平💚「関わる人間の状態も、全部含めて“管理”だから」
――管理。
その言葉が、妙に重く響く。
亮平💚「だから」
ほんの少しだけ、距離を戻す。
亮平💚「自分の状態も、ちゃんと把握しといて」
優しい声。
なのに、逃げ場がない。
亮平💚「じゃないと」
亮平💚「判断、間違えるから」
翔太💙「……っ」
それが、佐久間の話なのか、自分の話なのか、もう分からなかった。
亮平は、何事もなかったように資料へ視線を戻す。
亮平💚「……で、服薬の話ね」
さらりと。
何もなかったみたいに。
でも。
さっきまでと同じ空気には、もう戻らない。
――静かな部屋の中で、“仕事”の形をしたまま、確実に、別の何かが、進んでいた。
亮平は、資料に落としていた視線を、ゆっくりと上げた。
亮平💚「……そんな顔で」
ぽつりと。
亮平💚「平気なわけないでしょ」
翔太💙「……っ」
言い返そうとした瞬間。
す、と。
亮平の指が、また触れる。
今度は、手じゃない。
――顎。
軽く、持ち上げられる。
逃げるほど強くもなく、でも、視線を外すことはできない。
亮平💚「ちゃんと見て」
低い声。
翔太の喉が、小さく鳴る。
亮平の親指が、頬のあたりを、ゆっくりなぞる。
さっきより、近い。
近すぎて、呼吸が、混ざりそうになる。
亮平💚「……やっぱり」
小さく、息を吐く。
亮平💚「乱されてる顔してる」
翔太💙「……違いま――」
言葉が、続かない。
距離が、あと少しで触れるところまで縮まる。
亮平は、止まる。
ほんの数センチ手前で。
亮平💚「否定するの、下手だよね」
囁くみたいな声。
そのまま、視線だけで、縛る。
亮平💚「昨日」
亮平💚「どこまで?」
翔太💙「……っ」
心臓が、大きく跳ねる。
言えない。
でも、黙っているだけで、答えになってしまう。
亮平は、ふっと笑う。
亮平💚「……そっか」
それ以上は聞かない。
でも、全部分かってるみたいな顔で。
亮平💚「それで、そのまま来たんだ」
視線が、ゆっくり下に落ちる。
白衣の襟元。
その奥。
見えていないはずなのに。
亮平💚「隠せてるつもり?」
翔太💙「……なに、が」
声が、かすれる。
亮平は答えない。
ただ、指先が、鎖骨の少し下――
触れないぎりぎりの位置で、止まる。
亮平💚「……へぇ」
小さく、笑う。
亮平💚「ちゃんと残ってるんだ」
翔太💙「……っ!」
一歩、後ろに下がる。
でも、すぐに壁。
逃げ場がない。
亮平は、追い詰めない。ただ、その場で見ている。
亮平💚「大事にされてるね」
優しい声。
なのに、どこか、冷たい。
亮平💚「それとも」
ほんの少し、首を傾げる。
亮平💚「雑に扱われてる方?」
翔太💙「……違う」
反射的に、否定が出る。
その瞬間。
亮平の目が、わずかに細くなる。
亮平💚「……あ、そっちなんだ」
静かに、納得したみたいに。
逃げ場が、完全に消える。
亮平は、くすりと笑う。
亮平💚「じゃあさ」
一歩、だけ近づく。
さっきよりも、ゆっくり。
亮平💚「ちゃんと分けた方がいいよ」
翔太💙「……なにを」
亮平💚「仕事と」
亮平💚「それ以外」
視線が、深くなる。
亮平💚「ごちゃ混ぜにするとさ」
ほんの少しだけ、距離が縮まる。
でも――触れない。
亮平💚「壊れるの、早いから」
その声だけが、やけに、優しかった。
亮平は、ほんの一瞬だけ黙った。
そのまま、視線だけで翔太をなぞる。
亮平💚「……へぇ」
小さく、息を吐く。
亮平💚「ちゃんと分けられてないんだ」
翔太💙「……っ」
言葉が出ない。
亮平は、いつも通りの顔で続ける。
亮平💚「蓮とも、ここ来る前に一緒にいて」
亮平💚「で、そのまま俺のとこ来るんだ」
静かに、笑う。
亮平💚「……器用だね」
翔太💙「違いま――」
亮平💚「違わないでしょ」
かぶせる。
その声は、落ち着いている。
――はずなのに。
ペンを持つ手が、わずかに、止まる。
ほんの一瞬。
それだけで、違和感が残る。
亮平💚「あっちも選んで」
顔を寄せる。
亮平💚「こっちも選ぶ」
その距離で、一瞬だけ、呼吸が乱れる。
ほんのわずかに。
すぐに整えるけど、――遅い。
亮平💚「それ、どっちも大事にしてるつもり?」
翔太💙「……っ」
亮平の視線が、揺れる。
ほんの一瞬だけ。
すぐに、元に戻る。
でも、完全には戻りきらない。
亮平💚「それとも」
言葉を置く間が、いつもより、長い。
亮平💚「どっちも、中途半端?」
問いかけながら、指先が、無意識に資料の端をなぞる。
整っていたはずの紙が、わずかに、ずれる。
――それに気づいて、亮平は、ほんの一瞬止まる。
それから、何事もなかったみたいに、揃え直す。
亮平💚「……まぁ」
小さく、笑う。
亮平💚「どっちでもいいけど」
その言葉だけ、ほんの少しだけ軽くて、ほんの少しだけ、嘘っぽい。
亮平💚「ちゃんと決めた方がいいよ」
視線を、落とす。
もう翔太を見ない。
亮平💚「中途半端なままが、一番危ないから」
“医者”の声に戻る。
でも、さっきの一瞬を、なかったことには、できなかった。
翔太💙「先生……怒ってる?」
一瞬。
亮平の動きが、止まる。
ペン先が、紙の上で静かに止まったまま。
――数秒。
亮平💚「……怒ってないよ」
淡々とした声。
亮平💚「怒る理由、ないでしょ」
視線を落としたまま、続ける。
亮平💚「翔太が誰と何してても、俺には関係ないし」
そう言って――静かにペンを置く。
けど、その手はほんの少しだけ強かった。
亮平💚「ただ」
ゆっくり、顔を上げる。
亮平💚「……気に入らないだけ」
翔太💙「……え」
亮平は、小さく笑う。
でも、目は笑っていない。
亮平💚「さっきからさ」
一歩、近づく。
亮平💚「“違います”って顔してるのに」
さらに、距離を詰める。
亮平💚「全部、分かりやすいんだよ」
翔太💙「……っ」
亮平💚「あっち行って」
亮平💚「こっち来て」
視線が、逃がさない。
亮平💚「で、どっちでも同じ顔してる」
ほんの少しだけ、声が低くなる。
亮平💚「……それ、ずるくない?」
翔太💙「そんなつもりじゃ――」
亮平💚「つもりの話じゃない」
被せる。
今までより、はっきりと。
亮平💚「結果の話」
一歩、踏み込む。
逃げ場を詰める距離。
亮平💚「俺のとこ来るなら」
亮平💚「ちゃんと来なよ」
その言い方は、命令でもないのに、逃げ道がない。
翔太💙「……」
亮平💚「中途半端なまま来られるの」
小さく、息を吐く。
亮平💚「一番困る」
“困る”って言い方なのに、それだけじゃない。
亮平💚「優しくもできるし」
一瞬、視線が落ちる。
亮平💚「突き放すこともできる」
また、戻る。
亮平💚「でも」
ほんのわずかに、言葉が遅れる。
亮平💚「どっちにするか、決めてない状態で来られるのが」
――一番、困る
その“間”が、感情を滲ませる。
翔太💙「……っ」
亮平は、ふっと笑う。
亮平💚「……ほら」
少しだけ、いつもの調子に戻す。
亮平💚「これ、完全に医者じゃないね」
自嘲みたいに。
でも、視線は逸らさない。
亮平💚「分かるでしょ?」
一歩だけ、距離を引く。
亮平💚「今の俺」
静かに。
亮平💚「仕事の話、してない」
翔太💙「……そんなつもりじゃなかったんです」
苦しいくらいに、正直な声。
翔太💙「ちゃんと……仕事も」
言いかけて、止まる。
違う、と分かってしまうから。
翔太💙「……どうしたらいいですか」
ぽつり、と。
ほとんど、縋るみたいに。
亮平の視線が、わずかに揺れる。
――一瞬だけ。
亮平💚「……俺に聞くの?」
低い声。
責めているわけじゃない。
でも、逃がさない。
翔太💙「……だって」
言葉が、続かない。
“正しいことを言ってくれる人”に、
答えを求めてしまう。
亮平は、小さく息を吐いた。
亮平💚「それ」
一歩、近づく。
亮平💚「一番ダメなやつだよ」
翔太💙「……っ」
亮平💚「自分で決めないで」
視線が、真っ直ぐ落ちる。
亮平💚「人に選ばせるの」
亮平💚「一番、楽だから」
静かに。
でも、はっきりと。
翔太💙「……」
何も言えない。
図星すぎて。
亮平💚「で」
ほんの少しだけ、首を傾げる。
亮平💚「俺が“こっち来い”って言ったら」
亮平💚「来るの?」
翔太💙「……っ」
息が、詰まる。
答えられない。
亮平は、ふっと笑う。
でもその笑いは、少しだけ歪んでいる。
亮平💚「……ほら」
小さく、呟く。
亮平💚「それで来られても、困るって言ってるでしょ」
一歩、距離を取る。
さっきより、ほんの少しだけ遠い。
亮平💚「俺が欲しいのはさ」
一瞬、言葉が止まる。
亮平💚「自分で選んで来る翔太であって」
静かに。
亮平💚「流れて来る翔太じゃない」
その一言で、空気が、変わる。
翔太💙「……っ」
亮平💚「だから」
視線を逸らす。ほんの少しだけ。
亮平💚「答えは、教えない」
淡々と。でも、どこか突き放しきれない声。
亮平💚「自分で決めて」
その言い方は、冷たくもできたはずなのに。
完全には、切れていない。
――だから余計に、残る。
亮平💚「また、ひとりになっちゃうね」
〝ひとり〟
その言葉が、胸の奥の、一番柔らかい場所に落ちた。
翔太💙「……っ」
気付いた時には、涙が、頬を伝っていた。
声は出ない。泣きたくなんかないのに、止め方が分からない。
ぽたり、と
静かな部屋に小さな雫が落ちる。
亮平の視線が、ゆっくりと揺れた。
翔太は慌てたみたいに顔を伏せる。
でも、うまく息が吸えない。
〝ひとり〟
その言葉だけが、頭の中で何度も響いていた。
翔太💙「帰りたく……ない」
気付いたら、亮平のシャツを必死で掴んでいた。
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