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「…そうなんだ」

叶恵の話す過去の話は、辛さと哀しみに包まれていた。

「うん。犯人が誰かは分かんないけど…同じ中学だったってことは確定してる感じ」

舌の上でアイスが弱々しく溶けていく。叶恵の目からは哀しみが零れ落ちていく。

「私…犯人を捜したいとは思えない」

「え、なんで?」

私からすれば、犯人を見つけてその後その人との関係をどうするか、を考えたいものだ。

「だって私、その人の事を嫌いになってしまいそうで怖い。相手が憧れの人だったりしたら、そんなの」

発音が後半になるにつれてへなへなと壊れていく。

「…でも、本当の相手を知ることも大事だよ」

コップをぎゅっと握っている叶恵の手が少し解ける。

「…そう、だよね。怖いけど…」

叶恵は目を俯けたまま、言葉を落とした。

「怖いって気持ちは、何か変化が起こる可能性があるから思うんでしょ?その変化は良いものかもしれないし」

得意な笑顔を向ける。

「そう思えるように頑張る。」

眉を下げた笑顔を私に見せる。無理やり作った様に見えたが、その笑顔を否定はしたくない。

そして一つ、疑問が生じた。

「親が髪染めるの許可してくれたんだよね?いじめられてた時もバレないようにしてたり…。前屋上で話したとき、親は中々家に帰ってこないって」

そう話した後、急いで答えなくなければ答えなくて大丈夫と付け足した。

すると叶恵の顔は暗くなった。

「…お父さん居ないんだ。昔事故で亡くなったって。入学する前はまだ普通の暮らしだったけど、入学費用とかで予算的に危なくなったの。それでお母さんは最近ずっと働いてる。」

目から光が無くなった様に見えた。空気がどんよりとまた重くなって、私は言葉が詰まっている。

「大丈夫。気にしないで。疑問に思うことは仕方ないし」

さっきよりも苦しそうな笑顔を作った。私はその顔を見つめて、目でありがとうと伝えることしかできない。

「もうそろそろ掃除しないといけないから、ここまでだね。話聞いてくれてありがとう」

立ち上がってはこちらを向いて感謝の言葉を述べた。

「いや、当然だよ。話してくれてありがとう。」

少し気まずいまま、叶恵の家を出る。空川と書かれた字を見て、自分の家へと向かった。

想像以上に過酷な環境の叶恵。どうすれば救えるかと、頭の中を掻き巡らせる。単純な感情だけの行動でどうにかなる話ではないし、そのいじめをしている相手の気持ちや対処もしっかり考えなければならない。

ずっと考えていると周りへの注意力が無くなっているものだ。ごつ、と硬い音が鳴り、電柱にぶつかっていた。

「いった…」

額を手で抑えて、それを運の所為にしようとした。

「紬〜、大丈夫?」

聞き覚えのある声に振り返ると凪が笑顔で此方に駆け寄ってくる。

「凪じゃん。大丈夫大丈夫。考え事してたらぶつかっただけ。運も悪いけど」

乾いた笑いを含ませて凪に話す。

「そっか。よかった〜。そんなに注意力なくなるような考え事って何?相談きくよ?」

心配そうな目を向けて私の手を軽く握って離す。

「いや、大丈夫だよ。」

いくら凪だとしても、この話は広めない方が良いと考えた。

「もしかして空川さん関係ある?さっき家から出てきたよね」

その言葉を聞いて肩がビクッと震える。凪の顔をみると、相変わらず心配する顔をしていた。

「いや、その…」

冷や汗が滲み出る。純粋な心配だと思うが、この話は広めるにはあまりにも内容が重い。

「私、空川さんとはあんまり話した事ないけど、学校来てないんだよね?大丈夫かな。ほんとに、親友が困ってるの私ほっとけないよ」

善意の言葉が凪の口から止まることを知らず流れ出て、言葉が私の心臓に突き刺っていく。

「叶恵ちゃんが、虐められてるって話聞いてた。」

いつの間にか私はそう言っていた。言葉の刺さった心臓は、罪の意識に包まれていく。

私たちは色褪せていく

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