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ピピピピピ、ピ──
アラームの音が部屋に鳴り響いて、しびれた手に音が潰れる。
昨日はたしか叶恵の家にいって叶恵の話を聞いて、事情や心情を聞いて、どうするべきか考えてる時に電柱にぶつかって、凪に─
ハッとした。そうだ、凪に言ってしまったのだ。いくら凪とはいえ心配だ。
再び罪悪感と心配に呑まれていると、スマホから一つ通知が鳴った。
『紬、昨日はありがとう。今日は学校行ってみる』
叶恵からだった。さらに重い罪悪感がのしかかって今にも潰れそうだ。折角学校に来ようと勇気を出してくれたのに、その話を一人とはいえ広めてしまった。既読を付ける勇気もなく私は準備をして家を出る。
凪は熱をひいてしまい休み。昨日のことを広めないように念押ししたかったが、休みなら仕方がない。
ふわりと吹く風が冷たくて気持ち悪い。この時期なら涼しく感じて心地よいだろうに、風が吹くと肌寒くて仕方がない。風邪でもひいたのだろうか。
教室の扉を開けて、叶恵に話しかけようと叶恵の席を見る。そこには叶恵の姿はなく新品同様のスクールバッグが机の上に置いてあるだけだった。
自分のバッグを直ぐに私の机に置き、叶恵を探す。何がいじめに巻き込まれていると思って心配で仕方が無かった。でも見つからなかった。
ホームルームのチャイムが鳴り、急いで教室に戻る。すると、叶恵が肩をすくめて座っていた。
叶恵を見てほっとした。そして心配の感情が押し寄せることもない間。凪が当たり前の様に席に座っていた。
「…凪?」
思わず立ち止まって言葉を落とした。何故いるのか私には思いつかなかった。──最低な考えを除いて。
「白城、さっさと座れ」
先生の言葉を聞いて私はやっと動き自分の席に座った。
「じゃあホームルーム始めるぞ」
思考を何度巡らせても納得のいく答えに辿り着かない。
あっという間に一時間目が終わっていた。ノートは読めるとは大変言い難い字で、時系列もぐちゃぐちゃ。
叶恵か凪に話しかけようとしても、いつの間にか二人とも何処かへと消えている。私は毎時間学校中を探し回るが、見つからない。
「なんで…?」
授業が始まる頃には疲れ果てて、結果毎授業はどれも集中出来ない。
五時間目が終わり六時間目の体育に移る。着替える時間があるので、その時に話し掛けれると思った。だが、凪と叶恵は見学と言い先々と行ってしまった。
「避けられてる?」
そう思った。でも、どうしても認められなかった。二人ともいい子で、凪は私を助けてくれたし、叶恵は過去を私に打ち明けてくれた。避けているなんて考えられない。
体育が終わる頃、凪の周りに女子が集まる。私と凪はいつも二人でいたから、女子が周りに沢山集まることはあまりなかった。
その中に叶恵が居たように見えた。少し心臓がきゅっとなる。叶恵がクラスと馴染めたんだ。そうだ、馴染めた。 それはとても良いことなのにどうしてこんな感情が出てくるのだろう─?
部活の時、凪の姿はなかった。心臓が鳴り止まなくて、部活を早退した。教室の前に着いた時、叶恵と凪、女子達が教室の前に居た。そこから楽しげに階段を降りていった。
私はそれを横目で見送る。追いかける気力もなく、扉を開ける。
光景が目に飛び込む。綺麗な夕焼けが窓から教室に溶けていた。そんな光景の中には、 花瓶の置かれた自分の机があった。
息を呑み込む。でも、それを吐く余裕なんてなかった。叶恵との出会いを思い出す。今と同じ流れなのに、感情は全く別だ。涙の滴る音が、夕焼けの教室に静かに消えていく。
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