焦げた大地に、夕陽が落ちかけていた。空は燃え、地平線の先には太陽が滲んでいた。
その光に向かって、ひとりの影が歩いている。
剣を引きずり、足を引きずり、焦点の合わない瞳で、ただ、進んでいた。
彼はもう人ではなかった。
名を失い、記憶を失い、それでも――温もりを求めて、太陽の方角へと向かう“太陽に憑かれたもの”。
そして、その影の前に、ひとりの青年が立ちはだかる。
懐かしい祈りの衣をまとい、血と土に汚れながらも、真っ直ぐに立つその姿。
それは、あの時崩れたはずの命。
たった一度、彼の手で塵と化した“神官”だった。
「これで終わりにする。
きみを“戻す”。そのために、ぼくはここに来たんだ」
神官の胸元には、逆式の解呪陣が刻まれていた。
これは術者が死んだ呪いを強制的に切り離す禁術――
生身の魂を触媒としなければ成立しない“命懸けの術”。
使えば、戻れないかもしれない。
けれど、それでもよかった。
「もう一度、きみに触れられるのなら」
神官は両の掌を組み、地面に血の印を刻む。
術式が発動し、地が震える。
空気が重くなり、指先が痺れる。
脈が乱れ、視界がかすむ。
「……この術は、命を燃やして発動する。
でも、ぼくにとっては、命より、きみの心のほうが大切だから」
声がかすれ始めても、呪文は途切れなかった。
。黒い靄が、勇者の身体から溢れ出す。
胸元の紋様が砕け、歪みきった気配が、空へ昇るように解き放たれていく。
それでも勇者は止まらない。
「…聞こえてる?もう、きみを一人にはしないよ」
神官の手が、勇者の胸元に触れる。
――瞬間、世界に微かな“ゆらぎ”が走った。
「……〇〇……?」
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