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彼のその言動に落ち着きを取り戻した私は、もう一度小さく息を吸って吐いてを繰り返すと、
「……交際相手の……彼に、……殴られました」
誰にやられて出来た傷なのかを、ポツリと呟いた。
「そうか、酷い男だな。お前をこんなになるまで……心も身体も痛めつけて」
「…………っ」
航海くんは私が落ち着いていられるようにずっと背を撫でてくれる。
不思議なことに、彼の温もりは安心出来た。
「愛結はなんで、すぐに警察に行こうと思わなかったんだ? あのとき、どこへ逃げるつもりだったんだ?」
「……警察は、信用出来ない……。前に一度、逃げたことがあって……そのときは交番に駆け込んだの……でも、まともに取り合ってはくれなくて、そのうちに探しにきた彼に、連れ戻されて……っ」
だけど、交際相手にされたことを思い出そうとすると恐怖で身体が震えてしまう。
一度逃げ出して連れ戻されたときは、死ぬかと思うくらい酷い目に遭ったから、今回は絶対に見つかりたくない。
次に見つかれば、殺されるかもしれないから。
「……こわい……っ、みつかりたく、ない……っ」
震える身体で航海くんに訴えかける。
彼なら私を匿ってくれる、
彼なら何とかしてくれる気がしたから。
暫く無言で背を撫で続けてくれていた航海くん。
私の呼吸が安定してきたのを見て身体を離した彼は私に言った。
「――平気だよ、絶対に見つからない。ここに居れば、見つかることなんて100%ねぇから」と。
「どうして、そう言い切れるの?」
「ここは俺らの組が管理してるマンションでアニキに選ばれた組の者しか住んでねぇからな。管理もキッチリしてるから怪しい奴が入り込んだらすぐに分かる。だから平気だ」
「……組の、者?」
「あー、まあいずれ分かるから言うけど、俺は指定暴力団紫呉会・永幡組の一員なんだ。ちなみに、さっき会ったアニキが組長。俺はまぁ、まだまだ下っ端みたいなモンだけど、いずれはアニキの片腕になれるくらいまで上がるつもりだ」
「指定暴力団……」
「あー、そう聞くと怖いよな? 悪い。別に怖がらせるつもりはねぇんだよ。お前に危害を加えるつもりもねぇからさ、その辺は安心してくれよ。な?」
「……ち、違う……怖くは、ないの……。私の、交際相手も……そっちの人だから……」
「は?」
「……詳しくは分からないけど、彼は確か、柳木等組……っていう組織に身を置いていたはず……」
「柳木等組……あのクソしかいねぇ組織の人間か……。そりゃあそこの人間なら女子供だろうと容赦ねぇか……。愛結、お前よく生きてこれたな……下手すると、殺されてもおかしくねぇよ、ホントに……」
「……っ」
今の彼の言葉で自分は生きていたことが不思議なんだと思ったら余計に震えが止まらなくて、再び上手く息が吸えなくなりそうになっていると、
「落ち着け、ゆっくり深呼吸しろ」
航海くんは再びぎゅっと抱き寄せると、私が落ち着けるよう声を掛けながら背を撫で続けてくれた。